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第23話 選ばれないという選択
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第23話 選ばれないという選択
---
イソファガス領の朝は、変わらず穏やかだった。
鳥の声。
風に揺れる木々。
湯気の立つ紅茶。
――何も、起きていない。
「……理想的ね」
キクコ・イソファガスは、縁側で日差しを浴びながらそう呟いた。
◆ ◆ ◆
だが、その“何も起きない”時間こそが、彼女に考える余裕を与えていた。
(王が来た。
肩書きも、王冠も置いて)
アルフェリットの言葉が、頭の片隅に残っている。
――答えは、急がない。
――君が選ぶまで、待つ。
「……待たれるのって、結構重いのよ」
誰にも聞かせない独り言。
待つ、という行為は優しさのようでいて、
時に、無言の圧力にもなる。
◆ ◆ ◆
昼過ぎ、書斎。
キクコは古い帳面を引っ張り出していた。
三百年前の記録。
世界を救ったあと、すべてを“終わらせた”ときの日記。
『王になれと言われた。断った』
『聖女に戻れと言われた。断った』
『結婚しろと言われた。……断った』
「……律儀に断りすぎね、昔の私」
くすっと笑う。
だが、その続きの一文で、指が止まった。
『選ばれることは、楽だ。
だが、選ばれ続ける人生は、誰のものでもなくなる』
◆ ◆ ◆
「……そうだったわね」
キクコは帳面を閉じた。
彼女は、思い出したのだ。
なぜ自分が、
王にも、聖女にも、英雄にもならなかったのか。
――“選ばれ続ける存在”になることを、拒んだから。
◆ ◆ ◆
夕方。
庭で剣を振るファイエルとレオンを、
キクコは少し離れた場所から眺めていた。
「師匠」
ファイエルが声をかける。
「最近、考え事が多いですね」
「そう?」
「はい。
昔みたいに、全部を背負おうとしていない」
キクコは、少しだけ目を見張った。
「……よく見てるわね」
「育ててもらいましたから」
「母上って呼んだら、怒るわよ」
「分かってます」
二人は、少し笑った。
◆ ◆ ◆
「ねえ、ファイエル」
「はい」
「もし、誰かに
“君が必要だ”って言われたら、どうする?」
彼は、即答しなかった。
剣を下ろし、真剣に考える。
「……それが、
自分で選びたいことなら、応えます」
「もし、選びたくなかったら?」
「断ります」
キクコは、満足そうに頷いた。
「正解」
◆ ◆ ◆
夜。
書斎の机に、一通の手紙が置かれていた。
差出人は――アルフェリット。
キクコは、封を切らずに眺める。
「……今日は、読まなくていいわね」
手紙を引き出しにしまい、鍵をかけた。
◆ ◆ ◆
日記に、こう記す。
――今日は、選ばなかった。
――そして、それでいいと思えた。
――“答えない”という選択も、立派な意思。
ペンを置き、灯りを消す。
永遠の十七歳は、
王にも、運命にも、
“まだ選ばれない自由”を選んだ。
だがそれは、拒絶ではない。
ただ――
自分の人生を、
自分の速度で歩くための、
静かな決断だった。
物語は、
最終章へ向けて、確かに歩み始めている。
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イソファガス領の朝は、変わらず穏やかだった。
鳥の声。
風に揺れる木々。
湯気の立つ紅茶。
――何も、起きていない。
「……理想的ね」
キクコ・イソファガスは、縁側で日差しを浴びながらそう呟いた。
◆ ◆ ◆
だが、その“何も起きない”時間こそが、彼女に考える余裕を与えていた。
(王が来た。
肩書きも、王冠も置いて)
アルフェリットの言葉が、頭の片隅に残っている。
――答えは、急がない。
――君が選ぶまで、待つ。
「……待たれるのって、結構重いのよ」
誰にも聞かせない独り言。
待つ、という行為は優しさのようでいて、
時に、無言の圧力にもなる。
◆ ◆ ◆
昼過ぎ、書斎。
キクコは古い帳面を引っ張り出していた。
三百年前の記録。
世界を救ったあと、すべてを“終わらせた”ときの日記。
『王になれと言われた。断った』
『聖女に戻れと言われた。断った』
『結婚しろと言われた。……断った』
「……律儀に断りすぎね、昔の私」
くすっと笑う。
だが、その続きの一文で、指が止まった。
『選ばれることは、楽だ。
だが、選ばれ続ける人生は、誰のものでもなくなる』
◆ ◆ ◆
「……そうだったわね」
キクコは帳面を閉じた。
彼女は、思い出したのだ。
なぜ自分が、
王にも、聖女にも、英雄にもならなかったのか。
――“選ばれ続ける存在”になることを、拒んだから。
◆ ◆ ◆
夕方。
庭で剣を振るファイエルとレオンを、
キクコは少し離れた場所から眺めていた。
「師匠」
ファイエルが声をかける。
「最近、考え事が多いですね」
「そう?」
「はい。
昔みたいに、全部を背負おうとしていない」
キクコは、少しだけ目を見張った。
「……よく見てるわね」
「育ててもらいましたから」
「母上って呼んだら、怒るわよ」
「分かってます」
二人は、少し笑った。
◆ ◆ ◆
「ねえ、ファイエル」
「はい」
「もし、誰かに
“君が必要だ”って言われたら、どうする?」
彼は、即答しなかった。
剣を下ろし、真剣に考える。
「……それが、
自分で選びたいことなら、応えます」
「もし、選びたくなかったら?」
「断ります」
キクコは、満足そうに頷いた。
「正解」
◆ ◆ ◆
夜。
書斎の机に、一通の手紙が置かれていた。
差出人は――アルフェリット。
キクコは、封を切らずに眺める。
「……今日は、読まなくていいわね」
手紙を引き出しにしまい、鍵をかけた。
◆ ◆ ◆
日記に、こう記す。
――今日は、選ばなかった。
――そして、それでいいと思えた。
――“答えない”という選択も、立派な意思。
ペンを置き、灯りを消す。
永遠の十七歳は、
王にも、運命にも、
“まだ選ばれない自由”を選んだ。
だがそれは、拒絶ではない。
ただ――
自分の人生を、
自分の速度で歩くための、
静かな決断だった。
物語は、
最終章へ向けて、確かに歩み始めている。
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