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第34話 崩れない仮面、揺れる立場
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第34話 崩れない仮面、揺れる立場
帝国使節団が去った王城には、奇妙な静けさが残っていた。
嵐が過ぎ去った直後のような、張り詰めた空気。
誰もが“何かに触れてしまった”ことだけは理解していた。
◆ ◆ ◆
執務室。
アルフェリットは一人、窓際に立っていた。
外ではいつも通り、王都の人々が行き交っている。
(……守った、のか)
自問する。
帝国に対して強く出たのは事実だ。
だがそれは、国の威信か、それとも――彼女のためか。
答えは、あまりにも明白だった。
◆ ◆ ◆
そこへ、控えめなノック。
「入って」
扉を開けて現れたのは、宰相代理の老臣だった。
彼は深々と一礼し、慎重に口を開く。
「陛下……帝国へのご対応、評議会では賛否が分かれております」
「当然だ」
「中には、“キクコ様を表に立たせるべきではない”という声も」
アルフェリットの視線が、鋭くなる。
「理由は?」
「……帝国が退いたことで、かえって“特別な存在”だと示したのではないか、と」
老臣は、言葉を選びながら続けた。
「陛下が、あの方を守る姿勢をあまりにも明確にされたためです」
◆ ◆ ◆
アルフェリットは、しばらく沈黙した。
確かに、それは事実だった。
彼は、隠すつもりで守った。
だが結果として、“守る価値のある存在”だと公言したも同然だった。
「……それでもだ」
低く、しかし揺るがぬ声。
「彼女を差し出す選択肢は、最初から存在しない」
老臣は小さく息を吐き、深く頭を下げた。
「承知いたしました。では、我々は“何も知らない”立場を貫きます」
「それでいい」
◆ ◆ ◆
一方、イソファガス領。
キクコは庭園のベンチに腰掛け、陽を浴びていた。
紅茶も本も手にせず、ただ空を眺めている。
「……守られた、わね」
ぽつりと零す。
三百年生きてきて、
誰かに“選ばれて守られる”立場になったことは、ほとんどない。
(慣れてないのよ、こういうの)
胸の奥が、少しだけざわつく。
◆ ◆ ◆
そこへ、老執事ガイウスが静かに近づいた。
「キクコ様。王宮からの非公式な報告です」
「……評議会?」
「はい。陛下の立場が、やや厳しくなっております」
キクコは目を細めた。
「でしょうね。帝国相手に、あれだけやれば」
ため息をつき、立ち上がる。
「……私のせい、ね」
「そうは思いません」
ガイウスは穏やかに言った。
「陛下は、ご自身の意思で選ばれたのです」
◆ ◆ ◆
キクコはしばらく黙り、やがて苦笑した。
「ほんと、困った王様」
扇子を開き、顔を隠す。
「私はね、表に立たないことで均衡を保ってきたの。
でもあの人は……堂々と表で庇った」
それは、誇らしくもあり、同時に危うい。
◆ ◆ ◆
(……そろそろ、限界かしら)
真実を伏せたまま守られること。
それが、相手の立場を削るなら――
「私も、何か手を打たないといけないわね」
キクコの瞳に、久しぶりに“覚悟”の色が宿った。
◆ ◆ ◆
その夜。
王城では、密かにある噂が広がり始めていた。
――国王は、イソファガス家の令嬢を特別に信頼している。
――いや、守っている。
――もしかして……。
言葉にならない憶測が、宮廷の隅を這う。
◆ ◆ ◆
崩れない仮面。
だが、揺れ始めた立場。
二人の選択は、確実に次の局面を呼び寄せていた。
次に均衡を崩すのは、
彼女か、彼か――あるいは、第三者か。
――第35話へ続く。
帝国使節団が去った王城には、奇妙な静けさが残っていた。
嵐が過ぎ去った直後のような、張り詰めた空気。
誰もが“何かに触れてしまった”ことだけは理解していた。
◆ ◆ ◆
執務室。
アルフェリットは一人、窓際に立っていた。
外ではいつも通り、王都の人々が行き交っている。
(……守った、のか)
自問する。
帝国に対して強く出たのは事実だ。
だがそれは、国の威信か、それとも――彼女のためか。
答えは、あまりにも明白だった。
◆ ◆ ◆
そこへ、控えめなノック。
「入って」
扉を開けて現れたのは、宰相代理の老臣だった。
彼は深々と一礼し、慎重に口を開く。
「陛下……帝国へのご対応、評議会では賛否が分かれております」
「当然だ」
「中には、“キクコ様を表に立たせるべきではない”という声も」
アルフェリットの視線が、鋭くなる。
「理由は?」
「……帝国が退いたことで、かえって“特別な存在”だと示したのではないか、と」
老臣は、言葉を選びながら続けた。
「陛下が、あの方を守る姿勢をあまりにも明確にされたためです」
◆ ◆ ◆
アルフェリットは、しばらく沈黙した。
確かに、それは事実だった。
彼は、隠すつもりで守った。
だが結果として、“守る価値のある存在”だと公言したも同然だった。
「……それでもだ」
低く、しかし揺るがぬ声。
「彼女を差し出す選択肢は、最初から存在しない」
老臣は小さく息を吐き、深く頭を下げた。
「承知いたしました。では、我々は“何も知らない”立場を貫きます」
「それでいい」
◆ ◆ ◆
一方、イソファガス領。
キクコは庭園のベンチに腰掛け、陽を浴びていた。
紅茶も本も手にせず、ただ空を眺めている。
「……守られた、わね」
ぽつりと零す。
三百年生きてきて、
誰かに“選ばれて守られる”立場になったことは、ほとんどない。
(慣れてないのよ、こういうの)
胸の奥が、少しだけざわつく。
◆ ◆ ◆
そこへ、老執事ガイウスが静かに近づいた。
「キクコ様。王宮からの非公式な報告です」
「……評議会?」
「はい。陛下の立場が、やや厳しくなっております」
キクコは目を細めた。
「でしょうね。帝国相手に、あれだけやれば」
ため息をつき、立ち上がる。
「……私のせい、ね」
「そうは思いません」
ガイウスは穏やかに言った。
「陛下は、ご自身の意思で選ばれたのです」
◆ ◆ ◆
キクコはしばらく黙り、やがて苦笑した。
「ほんと、困った王様」
扇子を開き、顔を隠す。
「私はね、表に立たないことで均衡を保ってきたの。
でもあの人は……堂々と表で庇った」
それは、誇らしくもあり、同時に危うい。
◆ ◆ ◆
(……そろそろ、限界かしら)
真実を伏せたまま守られること。
それが、相手の立場を削るなら――
「私も、何か手を打たないといけないわね」
キクコの瞳に、久しぶりに“覚悟”の色が宿った。
◆ ◆ ◆
その夜。
王城では、密かにある噂が広がり始めていた。
――国王は、イソファガス家の令嬢を特別に信頼している。
――いや、守っている。
――もしかして……。
言葉にならない憶測が、宮廷の隅を這う。
◆ ◆ ◆
崩れない仮面。
だが、揺れ始めた立場。
二人の選択は、確実に次の局面を呼び寄せていた。
次に均衡を崩すのは、
彼女か、彼か――あるいは、第三者か。
――第35話へ続く。
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