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2-4 聖女リリアンの影と、王太子の焦燥
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第2章 2-4 聖女リリアンの影と、王太子の焦燥
その日、王都は奇妙な緊張に包まれていた。
王都中央通りの一角で、突然住民が倒れた――という噂が一気に広まり、人々はざわついていた。
原因は不明。
病ではなく、魔力の暴走が起きたような症状だという。
王城では緊急会議が開かれ、王太子アレクシスもその場にいた。
「……倒れた住民たちは皆、“魔力の枯渇”状態という報告です」
「魔力の枯渇……? 自然に起こるものではないな」
国王が険しい表情でつぶやく。
「聖属性の過剰な吸収――つまり、魔力を奪う力が働いたのでは、という意見もあります」
「魔力を……奪う?」
アレクシスは無意識に隣に座る“聖女”リリアンへ視線を向ける。
リリアンは相変わらず可憐に微笑んでいた。
だがその微笑みは、以前と違ってどこかぎこちない。
肌は妙に白く、瞳は濁った光を帯びているように見える。
――リリアン、最近……どこかおかしい。
その違和感は、日に日に強まっていた。
「アレクシス殿下」
リリアンが柔らかく微笑んだ。
「倒れた住民のため、私の“浄化”を使いましょうか?」
「い、いや……すでに治療は施されている。それに……まだ原因がわからない」
アレクシスは無意識に距離を取った。
リリアンの微笑みに、背筋がぞくりと冷える。
その時――
「――っ!」
体の奥から鋭い痛みが走った。
(また……!)
ここ数日、アレクシスの体調に異変が続いていた。
胸の奥が締め付けられるように痛み、息が苦しくなる。
「殿下!?」
リリアンが手を伸ばしたが、アレクシスは本能的にその手を避けた。
「……っ、触れるな……!」
声が震える。
リリアンの手が触れた瞬間、まるで魔力を吸われるような感覚があるのだ。
それを体が覚えている。
リリアンは悲しげに眉を寄せる。
「アレクシス様……私、何か……嫌われることをしたのでしょうか?」
「そういう問題ではない……!」
会議室の空気がじりじりと重くなる。
国王が咳払いをしてまとめようとした。
「アレクシス、お前は少し休め。魔力の乱れが続いているのだろう」
「はい……失礼いたします」
アレクシスは会議室を出て、ひとり廊下を歩いた。
(……一体何が起きている?
リリアンの“聖女の力”は、こんな……人の魔力を奪うような性質ではなかったはずだ)
だが最近のリリアンは、まるで別人のように変わってしまった。
気遣いの言葉は減り、媚びるような甘え方が増えた。
夜会の後セレナを断罪した時、自分の袖を掴んだあの手の感触――
(あれは……まるで、私から魔力を吸ったような……)
その瞬間。
廊下の端から、リリアンの声が聞こえた。
「――嫌だわ、あの子。自分が捨てられたのに、どこかに逃げてるなんて」
(あの子……?)
アレクシスは足を止め、壁の影に身を寄せる。
「もっと私のために、苦しんでくれたらいいのに。
王太子殿下に捨てられた哀れな令嬢って、噂になるくらい……」
鋭く冷たい声。
甘さの欠片もない。
(セレナのことを……?)
「……ちょっとだけ、魔力を吸いすぎたかしら。
でも、アレクシス様は私なしでは生きていけない。
もっともっと縛って……私だけを見てくれるように」
アレクシスの血の気が一気に引いた。
(いま……なんと言った?
魔力を……吸った……?)
リリアンはくすりと笑う。
「“聖女”の力って便利よね。誰も疑わないんだから」
その瞬間、アレクシスは悟った。
――セレナを断罪したのは、リリアンの仕業だ。
――聖女リリアンは“本物”ではない。
背筋を冷たい汗が伝う。
(まさか……そんなことが……)
震える手を胸に当て、アレクシスは壁に寄り掛かった。
自分は、どれほど愚かだったのだろう。
セレナを“嫉妬深く冷たい令嬢”だと決めつけ、
リリアンの甘い言葉に酔って……真実を見ようとしなかった。
その結果、セレナを追放し、家を失わせた。
(……私は……取り返しのつかないことをしたのでは……?)
視界が揺れた。
その時、侍従が走ってきた。
「王太子殿下! 倒れた住民の中に、魔力を完全に奪われた者が出ました!」
「完全に……奪われた……?」
「はい、まるで……生気という生気が吸い取られたような状態で……!」
アレクシスの心臓が跳ねた。
リリアンがさきほど言っていた言葉――
『ちょっとだけ、魔力を吸いすぎたかしら』
――繋がってしまった。
(……リリアンが犯人……?
いや、まだ断定はできない。だが――)
自分の胸をつかんだ。
痛む。
触れられるだけで、魔力が吸われるようなあの感覚。
(まさか……王太子である私の魔力を、リリアンが吸っている……?)
もしそうなら――
(……私は“魔力供給源”として利用されているだけなのか……?)
背筋から冷気が走り、心が凍りつくような感覚が広がる。
そして同時に、胸の奥底からある感情が湧き上がった。
(……セレナ……)
真実を見ず、彼女に濡れ衣を着せ、追い出した。
(許されるはずがない……だが……!)
アレクシスは拳を握りしめた。
(セレナを探さなければ。どうか……どうか無事でいてくれ……!)
その決意は、王太子の魂を燃やした。
――しかし皮肉にもその頃、セレナはグレイス家で
“温かい家族に囲まれ、少しずつ笑顔を取り戻し始めていた”のである。
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その日、王都は奇妙な緊張に包まれていた。
王都中央通りの一角で、突然住民が倒れた――という噂が一気に広まり、人々はざわついていた。
原因は不明。
病ではなく、魔力の暴走が起きたような症状だという。
王城では緊急会議が開かれ、王太子アレクシスもその場にいた。
「……倒れた住民たちは皆、“魔力の枯渇”状態という報告です」
「魔力の枯渇……? 自然に起こるものではないな」
国王が険しい表情でつぶやく。
「聖属性の過剰な吸収――つまり、魔力を奪う力が働いたのでは、という意見もあります」
「魔力を……奪う?」
アレクシスは無意識に隣に座る“聖女”リリアンへ視線を向ける。
リリアンは相変わらず可憐に微笑んでいた。
だがその微笑みは、以前と違ってどこかぎこちない。
肌は妙に白く、瞳は濁った光を帯びているように見える。
――リリアン、最近……どこかおかしい。
その違和感は、日に日に強まっていた。
「アレクシス殿下」
リリアンが柔らかく微笑んだ。
「倒れた住民のため、私の“浄化”を使いましょうか?」
「い、いや……すでに治療は施されている。それに……まだ原因がわからない」
アレクシスは無意識に距離を取った。
リリアンの微笑みに、背筋がぞくりと冷える。
その時――
「――っ!」
体の奥から鋭い痛みが走った。
(また……!)
ここ数日、アレクシスの体調に異変が続いていた。
胸の奥が締め付けられるように痛み、息が苦しくなる。
「殿下!?」
リリアンが手を伸ばしたが、アレクシスは本能的にその手を避けた。
「……っ、触れるな……!」
声が震える。
リリアンの手が触れた瞬間、まるで魔力を吸われるような感覚があるのだ。
それを体が覚えている。
リリアンは悲しげに眉を寄せる。
「アレクシス様……私、何か……嫌われることをしたのでしょうか?」
「そういう問題ではない……!」
会議室の空気がじりじりと重くなる。
国王が咳払いをしてまとめようとした。
「アレクシス、お前は少し休め。魔力の乱れが続いているのだろう」
「はい……失礼いたします」
アレクシスは会議室を出て、ひとり廊下を歩いた。
(……一体何が起きている?
リリアンの“聖女の力”は、こんな……人の魔力を奪うような性質ではなかったはずだ)
だが最近のリリアンは、まるで別人のように変わってしまった。
気遣いの言葉は減り、媚びるような甘え方が増えた。
夜会の後セレナを断罪した時、自分の袖を掴んだあの手の感触――
(あれは……まるで、私から魔力を吸ったような……)
その瞬間。
廊下の端から、リリアンの声が聞こえた。
「――嫌だわ、あの子。自分が捨てられたのに、どこかに逃げてるなんて」
(あの子……?)
アレクシスは足を止め、壁の影に身を寄せる。
「もっと私のために、苦しんでくれたらいいのに。
王太子殿下に捨てられた哀れな令嬢って、噂になるくらい……」
鋭く冷たい声。
甘さの欠片もない。
(セレナのことを……?)
「……ちょっとだけ、魔力を吸いすぎたかしら。
でも、アレクシス様は私なしでは生きていけない。
もっともっと縛って……私だけを見てくれるように」
アレクシスの血の気が一気に引いた。
(いま……なんと言った?
魔力を……吸った……?)
リリアンはくすりと笑う。
「“聖女”の力って便利よね。誰も疑わないんだから」
その瞬間、アレクシスは悟った。
――セレナを断罪したのは、リリアンの仕業だ。
――聖女リリアンは“本物”ではない。
背筋を冷たい汗が伝う。
(まさか……そんなことが……)
震える手を胸に当て、アレクシスは壁に寄り掛かった。
自分は、どれほど愚かだったのだろう。
セレナを“嫉妬深く冷たい令嬢”だと決めつけ、
リリアンの甘い言葉に酔って……真実を見ようとしなかった。
その結果、セレナを追放し、家を失わせた。
(……私は……取り返しのつかないことをしたのでは……?)
視界が揺れた。
その時、侍従が走ってきた。
「王太子殿下! 倒れた住民の中に、魔力を完全に奪われた者が出ました!」
「完全に……奪われた……?」
「はい、まるで……生気という生気が吸い取られたような状態で……!」
アレクシスの心臓が跳ねた。
リリアンがさきほど言っていた言葉――
『ちょっとだけ、魔力を吸いすぎたかしら』
――繋がってしまった。
(……リリアンが犯人……?
いや、まだ断定はできない。だが――)
自分の胸をつかんだ。
痛む。
触れられるだけで、魔力が吸われるようなあの感覚。
(まさか……王太子である私の魔力を、リリアンが吸っている……?)
もしそうなら――
(……私は“魔力供給源”として利用されているだけなのか……?)
背筋から冷気が走り、心が凍りつくような感覚が広がる。
そして同時に、胸の奥底からある感情が湧き上がった。
(……セレナ……)
真実を見ず、彼女に濡れ衣を着せ、追い出した。
(許されるはずがない……だが……!)
アレクシスは拳を握りしめた。
(セレナを探さなければ。どうか……どうか無事でいてくれ……!)
その決意は、王太子の魂を燃やした。
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