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4-1 王都の陰謀と“再会”の気配
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第4章 4-1 王都の陰謀と“再会”の気配
その日、王都の空気はどこかざわついていた。
街の噂話がいつもより耳障りで、貴族たちの視線も落ち着かない。
原因は一つ──。
王太子エドモンドが、聖女ローザを正式に次の王妃候補として迎えるための“祝福の儀”を行うという知らせだった。
「……皮肉なものですね」
セレナは窓辺で紅茶を口にしながら、小さく呟く。
自分があの場で婚約破棄され、追放されてから、まだ日が浅い。
にもかかわらず、エドモンドは国中に向けて堂々と“愛の勝利”を宣伝していた。
──あの人らしい。
ただの自己愛の誇示。
そのためなら、前婚約者であるセレナをどれほど踏みつけたかなど気にも留めない。
しかし。
今日は、その祝福の儀に関連して“別の噂”も流れていた。
> 『エドモンド殿下は、前婚約者セレナ嬢が“危険な存在”だったと語り始めた』
「……ふふ。今度は私をどう利用するつもりなのかしら」
セレナは紅茶を置き、深く息を吐いた。
この数日、アレクシスは王都に呼ばれ、不在が続いていた。
理由は──“王太子陣営がセレナを再び巻き込もうとしている気配”を察知したからだ。
セレナは不安を押し殺し、ゆっくりと立ち上がった。
「アレクシス様……早く帰ってきてくれればいいけど」
彼の不在が、こんなにも胸を締め付けるとは思わなかった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
その頃、王城内では、アレクシスが国王と対峙していた。
「──殿下がお前の妻、セレナ嬢について妙な噂を流しているらしい」
国王の低い声が玉座の間に響いた。
「確認しております。しかし、あの話は完全な虚偽です。セレナは何一つ悪いことをしていない」
「分かっている。お前は常に冷静で、虚言に惑わされる男ではないからな」
国王は厳しい表情を浮かべつつも、アレクシスの誠実さを信頼していた。
「しかし……エドモンドは何を考えているのだ? 婚約破棄はまだしも、今になってセレナ嬢を悪者に仕立て上げる理由が見えん」
アレクシスの瞳に冷たい光が宿る。
「──権威付けでしょう。聖女の“正しさ”を世に示すために、前婚約者であるセレナを悪と位置づけた方が手っ取り早い」
「……最低だな」
「はい。ですが問題はそこではありません」
アレクシスは拳を握りしめた。
「殿下は、セレナが“白い結婚のまま幸せに暮らしている”ことを知りません。それを知った瞬間、あの男は必ず──」
「嫉妬する、か」
「はい。セレナは殿下にとって“自分の物であるべき存在”でした。自分が捨てたはずの彼女が幸せになっているなど、到底許せない性格です」
国王は沈痛な表情で頷いた。
「……エドモンドは昔から、執着が強い。彼の母もそうだった」
「分かっております。ですから私は急ぎ戻らねばならない。あの女──聖女ローザも……セレナを快く思っていないようですから」
国王は深くため息をついた。
「お前だけが頼りだ。何としてもセレナ嬢を守れ」
「当然です。……彼女は私の妻ですから」
アレクシスは迷いなく答え、玉座の間を後にした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
その夜。
セレナは庄園の庭で、ひとり月を眺めていた。
「今日は……綺麗な夜ね」
夜風が少し冷たく、首元が震える。
手を胸に当てると、心臓が落ち着かないリズムで鼓動している。
アレクシスの言葉が蘇った。
> 『俺は、君を守りたい。……夫として』
「……あの言葉、何度思い出しても胸が熱くなるわ」
白い結婚のはずだった。
互いの自由を侵さない契約だった。
恋愛感情など、持たないはずだった。
なのに、気が付けば──彼がいないだけで寂しい。
「……私、どうしちゃったのかしら」
自分の変化に戸惑う。
だが、答えを見つけられないまま、庭の前方から蹄の音が近づいてきた。
「──セレナ!」
その声を聞いただけで、胸が跳ねた。
月明かりの中、馬を降りたアレクシスが駆け寄ってくる。
「アレクシス様……!」
「セレナ、大丈夫か?」
「え、ええ……特に変わったことは……」
アレクシスは彼女の肩をとらえ、強く抱きしめた。
「……よかった……間に合った」
「まに、あった……?」
涙が混じったような声に、セレナは驚き、彼を見つめた。
「王城で、殿下が君に動く可能性が高いと知った。……君を一人で留守にしたのが耐えられなかった」
その言葉は、契約を越えた想いそのものだった。
「……アレクシス様、そんな……」
「俺はもう……君に“白い結婚の夫”だなどと思えない」
アレクシスはセレナの手をそっと取った。
「セレナ、君は──俺にとって……かけがえのない存在だ」
胸が大きく震えた。
その瞬間、屋敷の門番が慌てて駆け寄ってくる。
「た、大変です! 王都から急使が……!」
アレクシスが振り向く。
「何があった?」
「こ、これを……!」
差し出された書状を見るや否や、アレクシスの顔が氷のように冷たくなった。
「……やはり動いたか」
「アレクシス様……?」
彼は書状を握りつぶしながら告げた。
「王太子殿下が“明朝、セレナの身柄を拘束する”と声明を出した。……罪状は“聖女の祝福を妨げた疑い”だと」
「なっ……!」
セレナは息を呑む。
アレクシスは彼女の肩を抱き寄せ、鋭い瞳で夜空を見つめた。
「セレナ。安心しろ。……君は絶対に、俺が守る」
その声は、静かだが揺るぎない誓いだった。
「戦いが……始まる。
君を奪おうとする世界と──手放したくない俺自身との」
夜風が強く吹く。
二人の距離が、今までで一番近づいた瞬間だった。
---
その日、王都の空気はどこかざわついていた。
街の噂話がいつもより耳障りで、貴族たちの視線も落ち着かない。
原因は一つ──。
王太子エドモンドが、聖女ローザを正式に次の王妃候補として迎えるための“祝福の儀”を行うという知らせだった。
「……皮肉なものですね」
セレナは窓辺で紅茶を口にしながら、小さく呟く。
自分があの場で婚約破棄され、追放されてから、まだ日が浅い。
にもかかわらず、エドモンドは国中に向けて堂々と“愛の勝利”を宣伝していた。
──あの人らしい。
ただの自己愛の誇示。
そのためなら、前婚約者であるセレナをどれほど踏みつけたかなど気にも留めない。
しかし。
今日は、その祝福の儀に関連して“別の噂”も流れていた。
> 『エドモンド殿下は、前婚約者セレナ嬢が“危険な存在”だったと語り始めた』
「……ふふ。今度は私をどう利用するつもりなのかしら」
セレナは紅茶を置き、深く息を吐いた。
この数日、アレクシスは王都に呼ばれ、不在が続いていた。
理由は──“王太子陣営がセレナを再び巻き込もうとしている気配”を察知したからだ。
セレナは不安を押し殺し、ゆっくりと立ち上がった。
「アレクシス様……早く帰ってきてくれればいいけど」
彼の不在が、こんなにも胸を締め付けるとは思わなかった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
その頃、王城内では、アレクシスが国王と対峙していた。
「──殿下がお前の妻、セレナ嬢について妙な噂を流しているらしい」
国王の低い声が玉座の間に響いた。
「確認しております。しかし、あの話は完全な虚偽です。セレナは何一つ悪いことをしていない」
「分かっている。お前は常に冷静で、虚言に惑わされる男ではないからな」
国王は厳しい表情を浮かべつつも、アレクシスの誠実さを信頼していた。
「しかし……エドモンドは何を考えているのだ? 婚約破棄はまだしも、今になってセレナ嬢を悪者に仕立て上げる理由が見えん」
アレクシスの瞳に冷たい光が宿る。
「──権威付けでしょう。聖女の“正しさ”を世に示すために、前婚約者であるセレナを悪と位置づけた方が手っ取り早い」
「……最低だな」
「はい。ですが問題はそこではありません」
アレクシスは拳を握りしめた。
「殿下は、セレナが“白い結婚のまま幸せに暮らしている”ことを知りません。それを知った瞬間、あの男は必ず──」
「嫉妬する、か」
「はい。セレナは殿下にとって“自分の物であるべき存在”でした。自分が捨てたはずの彼女が幸せになっているなど、到底許せない性格です」
国王は沈痛な表情で頷いた。
「……エドモンドは昔から、執着が強い。彼の母もそうだった」
「分かっております。ですから私は急ぎ戻らねばならない。あの女──聖女ローザも……セレナを快く思っていないようですから」
国王は深くため息をついた。
「お前だけが頼りだ。何としてもセレナ嬢を守れ」
「当然です。……彼女は私の妻ですから」
アレクシスは迷いなく答え、玉座の間を後にした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
その夜。
セレナは庄園の庭で、ひとり月を眺めていた。
「今日は……綺麗な夜ね」
夜風が少し冷たく、首元が震える。
手を胸に当てると、心臓が落ち着かないリズムで鼓動している。
アレクシスの言葉が蘇った。
> 『俺は、君を守りたい。……夫として』
「……あの言葉、何度思い出しても胸が熱くなるわ」
白い結婚のはずだった。
互いの自由を侵さない契約だった。
恋愛感情など、持たないはずだった。
なのに、気が付けば──彼がいないだけで寂しい。
「……私、どうしちゃったのかしら」
自分の変化に戸惑う。
だが、答えを見つけられないまま、庭の前方から蹄の音が近づいてきた。
「──セレナ!」
その声を聞いただけで、胸が跳ねた。
月明かりの中、馬を降りたアレクシスが駆け寄ってくる。
「アレクシス様……!」
「セレナ、大丈夫か?」
「え、ええ……特に変わったことは……」
アレクシスは彼女の肩をとらえ、強く抱きしめた。
「……よかった……間に合った」
「まに、あった……?」
涙が混じったような声に、セレナは驚き、彼を見つめた。
「王城で、殿下が君に動く可能性が高いと知った。……君を一人で留守にしたのが耐えられなかった」
その言葉は、契約を越えた想いそのものだった。
「……アレクシス様、そんな……」
「俺はもう……君に“白い結婚の夫”だなどと思えない」
アレクシスはセレナの手をそっと取った。
「セレナ、君は──俺にとって……かけがえのない存在だ」
胸が大きく震えた。
その瞬間、屋敷の門番が慌てて駆け寄ってくる。
「た、大変です! 王都から急使が……!」
アレクシスが振り向く。
「何があった?」
「こ、これを……!」
差し出された書状を見るや否や、アレクシスの顔が氷のように冷たくなった。
「……やはり動いたか」
「アレクシス様……?」
彼は書状を握りつぶしながら告げた。
「王太子殿下が“明朝、セレナの身柄を拘束する”と声明を出した。……罪状は“聖女の祝福を妨げた疑い”だと」
「なっ……!」
セレナは息を呑む。
アレクシスは彼女の肩を抱き寄せ、鋭い瞳で夜空を見つめた。
「セレナ。安心しろ。……君は絶対に、俺が守る」
その声は、静かだが揺るぎない誓いだった。
「戦いが……始まる。
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二人の距離が、今までで一番近づいた瞬間だった。
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