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28話 孤立
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28話 孤立
静まり返った大広間ほど、人を追い詰める場所はない。
王城の謁見の間。
つい数日前まで、そこは熱気と喧騒に満ちていた。聖女、奇跡、婚約、祝福――誰もが声を張り上げ、未来を語り、己の立場を誇示していた。
だが今は違う。
人は集まっている。
しかし、視線は合わない。
誰もが、ルートヴィヒ・マシアス王太子から、ほんのわずか距離を取って立っていた。
物理的には、ほんの数歩。
だが、その数歩は、決定的な断絶だった。
「……なぜ、誰も口を開かない」
王太子の声は、広間に虚しく響いた。
返事はない。
以前なら、即座に誰かが同意し、擁護し、言い訳を並べただろう。
だが今、誰も動かない。
いや――
正確には、動けないのではない。
動きたくないのだ。
王太子は、それをまだ理解していなかった。
「私は、王家の未来のために行動しただけだ!」
「聖女を国の象徴に据えるのは、何もおかしくない!」
声を荒げれば荒げるほど、周囲の空気は冷えていく。
貴族たちは互いに視線を交わし、誰ともなく一歩、また一歩と距離を取った。
その光景を、アルトリア・カストゥスは少し離れた場所から静かに見ていた。
表情は、いつもと変わらない。
完璧で、穏やかで、冷静。
だが内心では、はっきりと理解していた。
――終わりましたわね。
これは裁きではない。
断罪でもない。
ただの「結果」だ。
ルートヴィヒは、自分が何を失ったのかを、まだ正確に把握していない。
彼は「反論されている」と思っている。
だが実際には、誰からも相手にされていない。
それが、孤立の正体だった。
「枢機卿! 教会として、何か言うべきではないのか!」
苛立ちを隠さず、ルートヴィヒはリシュリュー枢機卿に意味のない救いを求めた。
だが――
返ってきたのは、沈黙だけだった。
リシュリュー枢機卿は視線を伏せ、手元の書類から目を上げない。
否定もしない。
肯定もしない。
ただ、何も言わない。
その態度が、すべてを物語っていた。
教会は、降りたのだ。
勝てない戦に参加しない。
それが彼らの常識であり、今回も例外ではなかった。
「……なぜだ」
王太子の声が、わずかに震えた。
理解できないのだ。
自分が、誰かを殴ったわけでも、法を破ったわけでもないと思っている。
だが、アルトリアは知っていた。
彼は、もっと致命的なことをした。
――人を、道具として扱った。
しかもそれを、
「善意」や「未来」の名で正当化した。
貴族社会において、それは最も嫌われる行為のひとつだった。
なぜなら、
次に道具にされるのは、自分かもしれないからだ。
誰も、そんな王太子に肩入れしない。
広間の空気は、重く、冷たく、そして決定的だった。
ルートヴィヒは、ようやく異変に気づき始める。
味方がいない。
声を上げても、応じる者がいない。
その事実が、じわじわと胸に染みていく。
「……私は、王太子だぞ」
かすれた声で呟く。
だが、その言葉は、もはや効力を持たなかった。
王太子という肩書きは、
支持があって初めて意味を持つ。
今の彼には、それがない。
アルトリアは、その様子を見届けると、静かに踵を返した。
もう、彼女がするべきことは終わっている。
あとは、流れが決める。
誰も手を下さず、
誰も声高に糾弾せず、
それでも確実に――
ルートヴィヒ・マシアスは、
孤立していた。
それは、王太子にとって最も残酷で、
最も逃げ場のない状況だった。
そしてこの孤立は、
次の「王命」へと、静かに繋がっていく。
誰もが、それを予感していた。
静まり返った大広間ほど、人を追い詰める場所はない。
王城の謁見の間。
つい数日前まで、そこは熱気と喧騒に満ちていた。聖女、奇跡、婚約、祝福――誰もが声を張り上げ、未来を語り、己の立場を誇示していた。
だが今は違う。
人は集まっている。
しかし、視線は合わない。
誰もが、ルートヴィヒ・マシアス王太子から、ほんのわずか距離を取って立っていた。
物理的には、ほんの数歩。
だが、その数歩は、決定的な断絶だった。
「……なぜ、誰も口を開かない」
王太子の声は、広間に虚しく響いた。
返事はない。
以前なら、即座に誰かが同意し、擁護し、言い訳を並べただろう。
だが今、誰も動かない。
いや――
正確には、動けないのではない。
動きたくないのだ。
王太子は、それをまだ理解していなかった。
「私は、王家の未来のために行動しただけだ!」
「聖女を国の象徴に据えるのは、何もおかしくない!」
声を荒げれば荒げるほど、周囲の空気は冷えていく。
貴族たちは互いに視線を交わし、誰ともなく一歩、また一歩と距離を取った。
その光景を、アルトリア・カストゥスは少し離れた場所から静かに見ていた。
表情は、いつもと変わらない。
完璧で、穏やかで、冷静。
だが内心では、はっきりと理解していた。
――終わりましたわね。
これは裁きではない。
断罪でもない。
ただの「結果」だ。
ルートヴィヒは、自分が何を失ったのかを、まだ正確に把握していない。
彼は「反論されている」と思っている。
だが実際には、誰からも相手にされていない。
それが、孤立の正体だった。
「枢機卿! 教会として、何か言うべきではないのか!」
苛立ちを隠さず、ルートヴィヒはリシュリュー枢機卿に意味のない救いを求めた。
だが――
返ってきたのは、沈黙だけだった。
リシュリュー枢機卿は視線を伏せ、手元の書類から目を上げない。
否定もしない。
肯定もしない。
ただ、何も言わない。
その態度が、すべてを物語っていた。
教会は、降りたのだ。
勝てない戦に参加しない。
それが彼らの常識であり、今回も例外ではなかった。
「……なぜだ」
王太子の声が、わずかに震えた。
理解できないのだ。
自分が、誰かを殴ったわけでも、法を破ったわけでもないと思っている。
だが、アルトリアは知っていた。
彼は、もっと致命的なことをした。
――人を、道具として扱った。
しかもそれを、
「善意」や「未来」の名で正当化した。
貴族社会において、それは最も嫌われる行為のひとつだった。
なぜなら、
次に道具にされるのは、自分かもしれないからだ。
誰も、そんな王太子に肩入れしない。
広間の空気は、重く、冷たく、そして決定的だった。
ルートヴィヒは、ようやく異変に気づき始める。
味方がいない。
声を上げても、応じる者がいない。
その事実が、じわじわと胸に染みていく。
「……私は、王太子だぞ」
かすれた声で呟く。
だが、その言葉は、もはや効力を持たなかった。
王太子という肩書きは、
支持があって初めて意味を持つ。
今の彼には、それがない。
アルトリアは、その様子を見届けると、静かに踵を返した。
もう、彼女がするべきことは終わっている。
あとは、流れが決める。
誰も手を下さず、
誰も声高に糾弾せず、
それでも確実に――
ルートヴィヒ・マシアスは、
孤立していた。
それは、王太子にとって最も残酷で、
最も逃げ場のない状況だった。
そしてこの孤立は、
次の「王命」へと、静かに繋がっていく。
誰もが、それを予感していた。
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