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36話 婚約不可能
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36話 婚約不可能
王太子という立場は、本来ならば――
「最も望まれる婚姻相手」であるはずだった。
だが今、ルートヴィヒ・マシアスの名は、
婚姻の話題において、奇妙な沈黙を生んでいた。
誰も、口にしない。
それが、答えだった。
王城の執務室では、書類の山が積まれている。
だが、その中に――
かつて頻繁に届いていた“縁談の打診”は、ひとつもなかった。
貴族家からの形式的な挨拶状は届く。
儀礼としての交流も、途切れてはいない。
しかし、
「娘を王太子の妃に」
その一文だけが、完全に消えていた。
理由は、あまりにも明白だ。
――彼は、守らなかった。
守るべき立場の者を、
守る力のない象徴として使い、
拒否権のない状況に追い込んだ。
それを、
誰もが見てしまった。
貴族社会は、冷静だ。
感情で動かない。
だが、だからこそ、判断は残酷になる。
「もし、自分の娘が同じ立場に置かれたら?」
その問いに、
誰一人として、
「安心して任せられる」と答えられなかった。
それだけの話だった。
王太子本人は、当初、状況を軽く見ていた。
「時間が経てば、また話は来る」
「結局、王太子妃の座には価値がある」
そう信じていた。
――いや、
信じたいと思っていた。
だが、数週間が過ぎ、
数か月が過ぎても、
何も起こらない。
それどころか、
貴族たちの動きは、はっきりと変わっていた。
有力貴族の娘たちは、
第二王子や、
他国の王族、
あるいは有力公爵家へと、
次々に話が進んでいく。
誰もが、
「安全な未来」を選び始めていた。
ルートヴィヒの名は、
その選択肢から、
静かに外されていく。
側近が、慎重に報告する。
「……現在、王太子殿下への縁談の打診は、確認されておりません」
「……一件もか?」
「はい。公式、非公式ともに」
沈黙が落ちる。
怒鳴ることもできない。
叱責する理由もない。
誰かが妨害したわけではないからだ。
ただ、
“選ばれなかった”だけ。
それは、廃嫡よりも、
ある意味で残酷だった。
地位はある。
肩書もある。
だが、未来を共にしたいと願う者がいない。
王太子妃という椅子が、
誰からも欲しがられない。
それは、
権威が中身を失った証だった。
一方、アルトリアの周囲には、
妙な変化が起きていた。
彼女自身が求めていないにも関わらず、
評価だけが、静かに積み上がっていく。
「あの方なら、任せられる」
「判断を誤らない」
「人を“道具”として扱わない」
その評判は、
声高ではない。
だが、確実だった。
対照的に、
ルートヴィヒの名は、
未来の話題から外されていく。
誰も彼を糾弾しない。
誰も彼を責めない。
ただ――
誰も、彼と人生を結びたいとは思わない。
それが、
この国が下した、
静かで、決定的な判断だった。
王太子でありながら、
婚約すら成立しない。
その現実は、
やがて、避けようのない結論へと、
つながっていく。
ルートヴィヒ・マシアスは、
まだ知らない。
だが、
この“婚約不可能”という事実こそが、
次に訪れる決断の、
前触れであることを。
王太子という立場は、本来ならば――
「最も望まれる婚姻相手」であるはずだった。
だが今、ルートヴィヒ・マシアスの名は、
婚姻の話題において、奇妙な沈黙を生んでいた。
誰も、口にしない。
それが、答えだった。
王城の執務室では、書類の山が積まれている。
だが、その中に――
かつて頻繁に届いていた“縁談の打診”は、ひとつもなかった。
貴族家からの形式的な挨拶状は届く。
儀礼としての交流も、途切れてはいない。
しかし、
「娘を王太子の妃に」
その一文だけが、完全に消えていた。
理由は、あまりにも明白だ。
――彼は、守らなかった。
守るべき立場の者を、
守る力のない象徴として使い、
拒否権のない状況に追い込んだ。
それを、
誰もが見てしまった。
貴族社会は、冷静だ。
感情で動かない。
だが、だからこそ、判断は残酷になる。
「もし、自分の娘が同じ立場に置かれたら?」
その問いに、
誰一人として、
「安心して任せられる」と答えられなかった。
それだけの話だった。
王太子本人は、当初、状況を軽く見ていた。
「時間が経てば、また話は来る」
「結局、王太子妃の座には価値がある」
そう信じていた。
――いや、
信じたいと思っていた。
だが、数週間が過ぎ、
数か月が過ぎても、
何も起こらない。
それどころか、
貴族たちの動きは、はっきりと変わっていた。
有力貴族の娘たちは、
第二王子や、
他国の王族、
あるいは有力公爵家へと、
次々に話が進んでいく。
誰もが、
「安全な未来」を選び始めていた。
ルートヴィヒの名は、
その選択肢から、
静かに外されていく。
側近が、慎重に報告する。
「……現在、王太子殿下への縁談の打診は、確認されておりません」
「……一件もか?」
「はい。公式、非公式ともに」
沈黙が落ちる。
怒鳴ることもできない。
叱責する理由もない。
誰かが妨害したわけではないからだ。
ただ、
“選ばれなかった”だけ。
それは、廃嫡よりも、
ある意味で残酷だった。
地位はある。
肩書もある。
だが、未来を共にしたいと願う者がいない。
王太子妃という椅子が、
誰からも欲しがられない。
それは、
権威が中身を失った証だった。
一方、アルトリアの周囲には、
妙な変化が起きていた。
彼女自身が求めていないにも関わらず、
評価だけが、静かに積み上がっていく。
「あの方なら、任せられる」
「判断を誤らない」
「人を“道具”として扱わない」
その評判は、
声高ではない。
だが、確実だった。
対照的に、
ルートヴィヒの名は、
未来の話題から外されていく。
誰も彼を糾弾しない。
誰も彼を責めない。
ただ――
誰も、彼と人生を結びたいとは思わない。
それが、
この国が下した、
静かで、決定的な判断だった。
王太子でありながら、
婚約すら成立しない。
その現実は、
やがて、避けようのない結論へと、
つながっていく。
ルートヴィヒ・マシアスは、
まだ知らない。
だが、
この“婚約不可能”という事実こそが、
次に訪れる決断の、
前触れであることを。
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