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第二十六話 白の拡張
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第二十六話 白の拡張
レオナルトが去った翌日、修道院の門前には地方からの馬車が並んでいた。
王立教育制度の拡張に伴い、各地から視察団が訪れているのだ。
「北方領より三名」
「西港都市より二名」
会計係が淡々と報告する。
修道院はもはや王都だけの存在ではない。
白き銀行、王妃基金、王立教育制度。
それらが絡み合い、ひとつの構造を形作り始めていた。
応接室に通されたのは、北方の若い女領主だった。
「女性講師を派遣してほしい」
彼女は迷いなく言う。
「我が領は識字率が低い。財政も脆弱です」
「資金は」
「王妃基金への申請を考えております」
私は頷く。
「条件は報告義務と監査受入れ」
「受け入れます」
彼女は即答した。
この即答こそが、時代の変化だ。
修道院の制度は信頼されている。
数日後、西港都市の商会代表が現れた。
「修道院証書を港湾税の担保にしたい」
私は一瞬考える。
「担保として認める代わりに、港湾収入の一部を教育基金へ」
「交渉成立だ」
白は広がる。
祈りの場から、教育へ。
教育から、港へ。
港から、地方へ。
王宮では新王太子が報告を受けていた。
「修道院の影響力は拡大している」
「抑えますか」
財務官が問う。
「抑えない」
若き王は答える。
「管理する」
管理とは、敵対ではない。
制度に組み込むこと。
王立教育制度は正式に公布された。
女性講師の派遣、地方学校の設立、修道院監査の義務化。
だが独立性は守られる。
条文は明確だ。
ヴァルケン家では、レオナルトが森林収益の報告を受けていた。
「共同管理の成果が出ている」
彼は静かに言う。
「修道院の監査は厳格だが、公平だ」
かつて対立していたはずの制度が、今は彼を支えている。
修道院内部では、未亡人評議席が次の拡張案を議論していた。
「地方支部の設立」
「人材育成が追いつきません」
「奨学金制度を増額」
私は机に手を置く。
「急ぎすぎないこと」
白は急拡大すると濁る。
透明であるためには、速度を管理しなければならない。
夜、塔の上。
王都の灯りの外側に、遠く地方の火が見える。
白い誓約は終わった。
だが白い制度は、今や地図を塗り替えつつある。
私は風を受けながら思う。
未完成の婚姻は、私を閉じ込めなかった。
むしろ外へ押し出した。
白は無ではない。
すべてを受け止め、拡張する色だ。
鐘が鳴る。
祈りの時間。
私は目を閉じる。
契約は終わる。
だが制度は続く。
そして白は、止まらない。
レオナルトが去った翌日、修道院の門前には地方からの馬車が並んでいた。
王立教育制度の拡張に伴い、各地から視察団が訪れているのだ。
「北方領より三名」
「西港都市より二名」
会計係が淡々と報告する。
修道院はもはや王都だけの存在ではない。
白き銀行、王妃基金、王立教育制度。
それらが絡み合い、ひとつの構造を形作り始めていた。
応接室に通されたのは、北方の若い女領主だった。
「女性講師を派遣してほしい」
彼女は迷いなく言う。
「我が領は識字率が低い。財政も脆弱です」
「資金は」
「王妃基金への申請を考えております」
私は頷く。
「条件は報告義務と監査受入れ」
「受け入れます」
彼女は即答した。
この即答こそが、時代の変化だ。
修道院の制度は信頼されている。
数日後、西港都市の商会代表が現れた。
「修道院証書を港湾税の担保にしたい」
私は一瞬考える。
「担保として認める代わりに、港湾収入の一部を教育基金へ」
「交渉成立だ」
白は広がる。
祈りの場から、教育へ。
教育から、港へ。
港から、地方へ。
王宮では新王太子が報告を受けていた。
「修道院の影響力は拡大している」
「抑えますか」
財務官が問う。
「抑えない」
若き王は答える。
「管理する」
管理とは、敵対ではない。
制度に組み込むこと。
王立教育制度は正式に公布された。
女性講師の派遣、地方学校の設立、修道院監査の義務化。
だが独立性は守られる。
条文は明確だ。
ヴァルケン家では、レオナルトが森林収益の報告を受けていた。
「共同管理の成果が出ている」
彼は静かに言う。
「修道院の監査は厳格だが、公平だ」
かつて対立していたはずの制度が、今は彼を支えている。
修道院内部では、未亡人評議席が次の拡張案を議論していた。
「地方支部の設立」
「人材育成が追いつきません」
「奨学金制度を増額」
私は机に手を置く。
「急ぎすぎないこと」
白は急拡大すると濁る。
透明であるためには、速度を管理しなければならない。
夜、塔の上。
王都の灯りの外側に、遠く地方の火が見える。
白い誓約は終わった。
だが白い制度は、今や地図を塗り替えつつある。
私は風を受けながら思う。
未完成の婚姻は、私を閉じ込めなかった。
むしろ外へ押し出した。
白は無ではない。
すべてを受け止め、拡張する色だ。
鐘が鳴る。
祈りの時間。
私は目を閉じる。
契約は終わる。
だが制度は続く。
そして白は、止まらない。
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