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第十四話 作る人に、会いにいく
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第十四話 作る人に、会いにいく
店の鍵を受け取ってからというもの、
タナーの一日は、少しだけ忙しくなった。
朝、目を覚ますと、まず思い出す。
白い壁。
大きな窓。
まだ何も置かれていない、小さなお店。
(おみせは できた)
(でも……)
タナーは、膝の上のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。
(うる ものが ありません)
場所があるだけでは、お店にはならない。
それは、さすがにタナーにも分かっていた。
その日の午後、タナーはアンダーソンを呼んだ。
「アンダーソンさん」
「はい、姫様」
「おみせを やるには……」
「なにを すれば いいですか」
アンダーソンは少し考え、それから穏やかに答えた。
「まずは、商品をそろえることです」
「……しょうひん」
「はい。
そして、その商品を作る人とお話をします」
タナーは、その言葉を反芻するように、ゆっくり口にした。
「……つくる ひと」
「そうです」
アンダーソンはうなずく。
「誰が、どんな思いで作っているのかを知ることが、大切なのです」
タナーは、少しだけ目を輝かせた。
「……あいに いくんですか」
「ええ。
可能であれば、直接」
その答えに、タナーはこくりとうなずいた。
「……いって みたいです」
こうしてタナーは、生まれて初めて
「仕入れ」という仕事を体験することになった。
最初に向かったのは、アンダーソンが長年付き合いのある雑貨商の倉庫だった。
重い扉を開けると、木箱が整然と並んでいる。
食器、布小物、日用品。
どれも丁寧に包まれ、雑に扱われたものは一つもなかった。
「……いっぱい」
思わず漏れた声に、倉庫の主人が振り返る。
「おや、小さなお客さんだね」
最初は、軽い調子だった。
だが、アンダーソンが名乗ると、空気が変わる。
「……失礼しました」
タナーは首を振った。
「だいじょうぶ です」
「ちゃんと みたい だけ です」
棚に並ぶ品を、一つずつ見ていく。
華やかな装飾。
目を引く色使い。
高価そうな細工。
けれど、タナーの手が止まったのは、
派手さのない、小さな陶器の容器だった。
ふたを開ける。
閉める。
もう一度、ゆっくり。
「……すこし かたい です」
主人が首をかしげる。
「丈夫な方が、長持ちするんだがね」
「……でも」
タナーは、小さな指で縁をなぞりながら言った。
「ちいさい こが つかったら」
「ゆび いたい かも です」
一瞬、倉庫が静かになった。
「……使う人のことを、考えているんだね」
タナーは不思議そうに首をかしげる。
「だって」
「こわれたり」
「いたかったら」
「かなしい です」
その言葉に、主人はゆっくりとうなずいた。
「……そうだな」
次に向かったのは、露店が並ぶ通りだった。
布小物や簡単な飾りが、風に揺れている。
タナーはしゃがみ込み、一枚の布に触れた。
「……やわらかい」
露店の女性が驚いたように笑う。
「よく分かるね」
「はい」
タナーはまっすぐ答えた。
「だっこ する ものは」
「やさしく ないと だめ です」
女性は少し照れたように微笑んだ。
「……そんなふうに見てくれる人、初めてだよ」
夕方、馬車に戻る頃には、
タナーの帳面には小さな文字が並んでいた。
「こわれにくい」
「つかいやすい」
「さわって こわくない」
「かわいい」
アンダーソンは、それを覗き込み、静かに言った。
「姫様」
「はい」
「商いは、数字を見る仕事だと思われがちです」
タナーは顔を上げる。
「ですが、本当に大切なのは」
「作る人と、使う人、その両方を見ることです」
タナーは少し考え、こくりとうなずいた。
「……わたし」
「かわいい ものが すき です」
「ええ」
「でも」
タナーは続けた。
「かわいい だけで」
「こわれたら……いや です」
その言葉に、アンダーソンは小さく笑った。
「それが、良いお店になります」
その夜。
タナーはぬいぐるみを抱きしめながら、静かに思った。
(あのおみせ)
(すこし ずつ)
(ほんとうに できて いく)
まだ特別な魔法はない。
まだ目玉の商品もない。
けれど――
「作る人に会う」ことから始めた店は、
きっと、やさしい場所になる。
タナーは、そう信じて、目を閉じた。
---
これで
表現は完全に「作る人」で統一
仕入れが“作業”ではなく“出会い”として成立
タナーの価値観が自然に伝わる
構成になっています。
次は
第15話(タナー独自の基準を明文化)
それとも
第17話(女性陶芸職人との本格的な契約回)
どちらを書きますか?
店の鍵を受け取ってからというもの、
タナーの一日は、少しだけ忙しくなった。
朝、目を覚ますと、まず思い出す。
白い壁。
大きな窓。
まだ何も置かれていない、小さなお店。
(おみせは できた)
(でも……)
タナーは、膝の上のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。
(うる ものが ありません)
場所があるだけでは、お店にはならない。
それは、さすがにタナーにも分かっていた。
その日の午後、タナーはアンダーソンを呼んだ。
「アンダーソンさん」
「はい、姫様」
「おみせを やるには……」
「なにを すれば いいですか」
アンダーソンは少し考え、それから穏やかに答えた。
「まずは、商品をそろえることです」
「……しょうひん」
「はい。
そして、その商品を作る人とお話をします」
タナーは、その言葉を反芻するように、ゆっくり口にした。
「……つくる ひと」
「そうです」
アンダーソンはうなずく。
「誰が、どんな思いで作っているのかを知ることが、大切なのです」
タナーは、少しだけ目を輝かせた。
「……あいに いくんですか」
「ええ。
可能であれば、直接」
その答えに、タナーはこくりとうなずいた。
「……いって みたいです」
こうしてタナーは、生まれて初めて
「仕入れ」という仕事を体験することになった。
最初に向かったのは、アンダーソンが長年付き合いのある雑貨商の倉庫だった。
重い扉を開けると、木箱が整然と並んでいる。
食器、布小物、日用品。
どれも丁寧に包まれ、雑に扱われたものは一つもなかった。
「……いっぱい」
思わず漏れた声に、倉庫の主人が振り返る。
「おや、小さなお客さんだね」
最初は、軽い調子だった。
だが、アンダーソンが名乗ると、空気が変わる。
「……失礼しました」
タナーは首を振った。
「だいじょうぶ です」
「ちゃんと みたい だけ です」
棚に並ぶ品を、一つずつ見ていく。
華やかな装飾。
目を引く色使い。
高価そうな細工。
けれど、タナーの手が止まったのは、
派手さのない、小さな陶器の容器だった。
ふたを開ける。
閉める。
もう一度、ゆっくり。
「……すこし かたい です」
主人が首をかしげる。
「丈夫な方が、長持ちするんだがね」
「……でも」
タナーは、小さな指で縁をなぞりながら言った。
「ちいさい こが つかったら」
「ゆび いたい かも です」
一瞬、倉庫が静かになった。
「……使う人のことを、考えているんだね」
タナーは不思議そうに首をかしげる。
「だって」
「こわれたり」
「いたかったら」
「かなしい です」
その言葉に、主人はゆっくりとうなずいた。
「……そうだな」
次に向かったのは、露店が並ぶ通りだった。
布小物や簡単な飾りが、風に揺れている。
タナーはしゃがみ込み、一枚の布に触れた。
「……やわらかい」
露店の女性が驚いたように笑う。
「よく分かるね」
「はい」
タナーはまっすぐ答えた。
「だっこ する ものは」
「やさしく ないと だめ です」
女性は少し照れたように微笑んだ。
「……そんなふうに見てくれる人、初めてだよ」
夕方、馬車に戻る頃には、
タナーの帳面には小さな文字が並んでいた。
「こわれにくい」
「つかいやすい」
「さわって こわくない」
「かわいい」
アンダーソンは、それを覗き込み、静かに言った。
「姫様」
「はい」
「商いは、数字を見る仕事だと思われがちです」
タナーは顔を上げる。
「ですが、本当に大切なのは」
「作る人と、使う人、その両方を見ることです」
タナーは少し考え、こくりとうなずいた。
「……わたし」
「かわいい ものが すき です」
「ええ」
「でも」
タナーは続けた。
「かわいい だけで」
「こわれたら……いや です」
その言葉に、アンダーソンは小さく笑った。
「それが、良いお店になります」
その夜。
タナーはぬいぐるみを抱きしめながら、静かに思った。
(あのおみせ)
(すこし ずつ)
(ほんとうに できて いく)
まだ特別な魔法はない。
まだ目玉の商品もない。
けれど――
「作る人に会う」ことから始めた店は、
きっと、やさしい場所になる。
タナーは、そう信じて、目を閉じた。
---
これで
表現は完全に「作る人」で統一
仕入れが“作業”ではなく“出会い”として成立
タナーの価値観が自然に伝わる
構成になっています。
次は
第15話(タナー独自の基準を明文化)
それとも
第17話(女性陶芸職人との本格的な契約回)
どちらを書きますか?
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