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第四十一話 また きた ひと
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第四十一話 また きた ひと
その日、店はいつも通りだった。
看板は表。
扉は、静かに開いている。
女王になってからも、特別な変化はない。
値段も、並びも、接客も。
変わったのは――
周囲のほうだった。
通りを歩く人が、少しだけ距離を取る。
視線が、ほんの一瞬、低くなる。
タナーは、気にしなかった。
「……いつも どおり です」
テイデイ・バトラーは、入口脇。
ドールは、店の奥。
その配置も、変わらない。
昼過ぎ。
外が、わずかに騒がしくなった。
護衛の動き。
人の気配。
そして。
扉が、やや強めに開いた。
入ってきたのは、見覚えのある顔だった。
整った服装。
自信過剰な歩き方。
「……お久しぶりだな、タナー」
ロト王子。
隣国アストリアの第二王子。
かつて、婚約を破棄した相手。
タナーは、一瞬だけ瞬きをした。
「……おひさしぶり です」
それ以上でも、それ以下でもない。
ロト王子は、店内を見回した。
低い棚。
小さな商品。
動かないクマ。
「……ここが、噂の店か」
「はい」
「ずいぶん、慎ましい」
悪意は、隠していない。
タナーは、首を傾げる。
「……そう です か」
「女王ともあろう者が、
こんな子供向けの店を」
ロト王子は、鼻で笑った。
「――だが、悪くない」
彼は、一歩、タナーに近づいた。
「改めて、話をしに来た」
「……なに の」
「婚約だ」
空気が、止まった。
テイデイ・バトラーは、動かない。
だが、ロト王子の進路に、自然に位置していた。
「私は、考え直した」
ロト王子は、堂々と言う。
「今の君は、女王だ。
政略的にも、これ以上ない」
タナーは、少し考えた。
「……まえ に」
「?」
「みりょく を
かんじ ない と
いい ました」
ロト王子は、肩をすくめる。
「若気の至りだ」
「……そう です か」
タナーの声は、変わらない。
「でも
わたし は
かわり ません」
「だからこそだ」
ロト王子は、にやりと笑う。
「君の“変わらなさ”が、
今は価値になる」
その瞬間。
ロト王子が、もう一歩、前に出ようとした。
――出られなかった。
「……?」
視線を下げる。
そこにいたのは、
テイデイ・バトラー。
ぬいぐるみのクマが、
ぴたりと進路を塞いでいる。
「……どけ」
命令口調。
しかし、テイデイ・バトラーは、動かない。
「無礼な」
ロト王子は、声を荒げた。
「ただの縫いぐるみ風情が!」
返事は、ない。
王子の威信も、
肩書きも、
国名も。
ここでは、通じなかった。
タナーは、静かに言った。
「……その こ は
わたし の
てんいん です」
ロト王子は、顔を歪めた。
「だからどうした!」
「……わたし の
いう こと しか
きき ません」
沈黙。
ロト王子は、初めて状況を理解したようだった。
「……ふん」
彼は、視線を逸らし、店の奥を見る。
そして――
気づいた。
そこに立つ、
あまりにも人間らしい、美しい女性。
瞬きもせず、
微動だにしない。
「……ほう」
ロト王子の表情が、変わった。
その目に浮かんだのは――
別の欲。
「……あれは、誰だ」
タナーは、即座に答えなかった。
ただ。
ほんの一瞬、
嫌な予感がした。
それが、
この話の“続き”になることを。
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