婚約破棄されたのでファンシーショップ始めました。 ― 元婚約者が、お人形さんを側室にしようとして大恥をかきました ―

鷹 綾

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第四十話 じょおう に なりました

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第四十話 じょおう に なりました

 その日、王宮はとても静かだった。

 悲しみは、もう荒れていない。
 疑いも、騒ぎも、落ち着いたあと。

 残ったのは――
 決めなければならないことだけだった。

 タナーは、大広間の中央に立っていた。
 背が届かないほど高い天井。
 けれど、不思議と怖くはなかった。

「第三王女タナー」

 国王の声は、いつもより少し低い。

「本日をもって、汝を
 次期女王に任命する」

 どよめきは、起きなかった。

 反対も、驚きも、ない。
 すでに、誰もが理解していた。

 第一王女と第二王女は、他国の妃。
 第一王子と第二王子は、事故で亡くなった。

 残る王族は――
 この、小さな少女だけ。

 タナーは、少し考えてから、頷いた。

「……はい」

 声は、小さい。
 でも、逃げていなかった。

「ひとつ だけ
 おねがい が あります」

 重臣たちが、息を詰める。

 国王は、静かに言った。

「申してみよ」

「……おみせ は
 やめ ません」

 一瞬の沈黙。

 だが、それは否定のためのものではなかった。

「問題ない」

 国王は、即答した。

「民の中で生き、民の声を知る女王は、
 悪くないどころか――望ましい」

 タナーは、ほっと息を吐いた。

「ありがとう ございます」

 儀式は、簡素だった。

 重たい冠は、まだ載せられない。
 長い誓いも、難しい言葉もない。

 ただ――
 名前が記され、
 印章が押され、
 未来が決まった。

 拍手は、控えめだった。
 それで、十分だった。

 午後。

 タナーは、いつものように街へ向かった。

 護衛は増えたが、距離を保っている。
 目立たないよう、静かに。

 看板は、変わらない。

 「かわいいもの やさん」

 扉を開ける。

「……ただいま」

 テイデイ・バトラーは、入口脇にいる。
 ドールは、静かに立っている。

 どちらも、何も言わない。
 それが、なにより安心だった。

 しばらくして、常連の女性が入ってきた。

「あ……」

 一瞬、視線が揺れる。

「……女王様、ですよね」

「はい」

 タナーは、頷いた。

「でも
 ここ では
 てんちょう です」

 女性は、少し考えてから、笑った。

「……じゃあ、いつも通りで」

「はい」

 お茶が淹れられる。
 冷めないカップ。
 静かな時間。

 誰も、玉座の話はしない。

 夕方。

 アンダーソンが、店に現れた。

「……おめでとうございます、陛下」

「ありがとう ございます」

「ですが……」

 彼は、店内を見回し、苦笑した。

「やはり、ここにいる時が一番、
 “あなたらしい”」

「はい」

「女王になっても、変わりませんな」

「……かわり ません」

 それは、誓いでも決意でもない。
 ただの、事実だった。

 夜。

 看板を裏返す。
 扉を閉める。

 通りは静か。
 でも、安心は残っている。

「……あした も
 あけ ます」

 返事はない。

 それでも、確かに。

 タナーは――
 女王になった。

 そして同時に、
 かわいいもの屋の店長のままだった。

 その両方でいられることが、
 この国にとっても、
 彼女にとっても――
 いちばん、よかった。


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