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25話|本番の兆し
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25話|本番の兆し
練習のあとに来るものは、予告なしの本番だ。
それは、帝国でも王国でも変わらない。
朝一番、帝国宰相府に届いた急報は、その兆しをはっきり示していた。
「……王国東部、穀物流通に遅延」
報告官の声が、わずかに強張る。
「港湾自体ではなく、内陸輸送です。
地方貴族が、独自の判断で通行税を上乗せしています」
会議室に、短い沈黙が落ちた。
小さな問題ではない。
だが、即座に軍や制裁を持ち出すほどでもない。
――判断が試される規模。
ハインリヒ・ヴォルフは、視線を上げた。
「王国側の反応は?」
「照会は出ています。
ただし……指示待ちです」
その一言が、意味するものは重い。
まだ、迷っている。
どこまで自分たちで決めてよいのかを。
ハインリヒは、エルゼリアを見た。
「本番だな」
「はい」
彼女は、静かに頷いた。
「練習ではありません。
判断が遅れれば、影響は拡大します」
「帝国として、どう動く?」
一瞬、会議室の視線が集まる。
エルゼリアは、間を置かずに答えた。
「帝国は、直接介入しません」
ざわめき。
「代わりに、
“判断の選択肢”だけを提示します」
彼女は、資料を机に並べた。
「一、王国が地方貴族へ是正命令を出す」
「二、期限付きで協議を行い、条件を再調整する」
「三、黙認し、損失を受け入れる」
「……三は」
「最悪です」
即答だった。
「ですが、選択肢としては、存在します」
それが、現実だ。
「重要なのは、
どれを選ぶかを、王国自身に選ばせることです」
ハインリヒは、ゆっくりと息を吐いた。
「責任は?」
「王国にあります」
エルゼリアは、淡々と言った。
「ただし――
選択肢を設計した責任は、帝国が負います」
それは、線の引き方だった。
介入しない。
だが、放置もしない。
文書は即座にまとめられ、
王宮へと送られる。
一方、王宮。
急報を受けた会議室は、
昨日までとは明らかに違う空気に包まれていた。
「……選択肢が、三つ」
文官が、文書を読み上げる。
「帝国は、決断を迫っています」
ロネスは、文面を見つめたまま、しばらく黙っていた。
逃げ道は、ない。
だが、丸投げでもない。
「……これは」
呟きが、自然と漏れる。
エルゼリアなら、こうする。
だが、今ここに彼女はいない。
「殿下、どうなさいます?」
視線が集まる。
ロネスは、深く息を吸った。
「……一だ」
声は、はっきりしていた。
「地方貴族へ、是正命令を出す。
ただし、理由と期限を明示する」
一瞬、沈黙。
「反発が出ます」
「出るだろう」
それを否定しない。
「だが、黙認すれば、
“判断できない国”だと示すことになる」
言葉は、慎重だが、逃げていない。
「今回は、中央が責任を持つ」
会議室に、わずかな緊張と、
同時に、奇妙な納得が広がった。
指示は即日出された。
地方貴族からは、反発と抗議。
だが、命令は撤回されない。
夜、帝国宰相府。
「……王国、決めました」
報告に、ハインリヒは短く頷く。
「どう見る?」
「拙いですが、本番です」
エルゼリアは、静かに答えた。
「判断は、遅れていません。
それだけで、合格点です」
「甘いな」
「いいえ」
彼女は、首を振る。
「判断の質は、後から修正できます。
ですが、“決める”経験は、今しか積めません」
窓の外、帝国の街は変わらず動いている。
王宮でも、今夜は遅くまで灯りが消えない。
ロネスは、机に向かい、
今日の決断を振り返っていた。
正解かどうかは、まだ分からない。
だが、逃げなかった。
「……これが、本番か」
小さく呟く。
練習は終わった。
これから先は、
一つ一つが、本番だ。
帝国は、見ている。
王国は、選んだ。
そしてエルゼリア・クローヴェルは、
静かに理解していた。
――本当に試されるのは、
この判断を、次もできるかどうか。
兆しは、すでに現れている。
練習のあとに来るものは、予告なしの本番だ。
それは、帝国でも王国でも変わらない。
朝一番、帝国宰相府に届いた急報は、その兆しをはっきり示していた。
「……王国東部、穀物流通に遅延」
報告官の声が、わずかに強張る。
「港湾自体ではなく、内陸輸送です。
地方貴族が、独自の判断で通行税を上乗せしています」
会議室に、短い沈黙が落ちた。
小さな問題ではない。
だが、即座に軍や制裁を持ち出すほどでもない。
――判断が試される規模。
ハインリヒ・ヴォルフは、視線を上げた。
「王国側の反応は?」
「照会は出ています。
ただし……指示待ちです」
その一言が、意味するものは重い。
まだ、迷っている。
どこまで自分たちで決めてよいのかを。
ハインリヒは、エルゼリアを見た。
「本番だな」
「はい」
彼女は、静かに頷いた。
「練習ではありません。
判断が遅れれば、影響は拡大します」
「帝国として、どう動く?」
一瞬、会議室の視線が集まる。
エルゼリアは、間を置かずに答えた。
「帝国は、直接介入しません」
ざわめき。
「代わりに、
“判断の選択肢”だけを提示します」
彼女は、資料を机に並べた。
「一、王国が地方貴族へ是正命令を出す」
「二、期限付きで協議を行い、条件を再調整する」
「三、黙認し、損失を受け入れる」
「……三は」
「最悪です」
即答だった。
「ですが、選択肢としては、存在します」
それが、現実だ。
「重要なのは、
どれを選ぶかを、王国自身に選ばせることです」
ハインリヒは、ゆっくりと息を吐いた。
「責任は?」
「王国にあります」
エルゼリアは、淡々と言った。
「ただし――
選択肢を設計した責任は、帝国が負います」
それは、線の引き方だった。
介入しない。
だが、放置もしない。
文書は即座にまとめられ、
王宮へと送られる。
一方、王宮。
急報を受けた会議室は、
昨日までとは明らかに違う空気に包まれていた。
「……選択肢が、三つ」
文官が、文書を読み上げる。
「帝国は、決断を迫っています」
ロネスは、文面を見つめたまま、しばらく黙っていた。
逃げ道は、ない。
だが、丸投げでもない。
「……これは」
呟きが、自然と漏れる。
エルゼリアなら、こうする。
だが、今ここに彼女はいない。
「殿下、どうなさいます?」
視線が集まる。
ロネスは、深く息を吸った。
「……一だ」
声は、はっきりしていた。
「地方貴族へ、是正命令を出す。
ただし、理由と期限を明示する」
一瞬、沈黙。
「反発が出ます」
「出るだろう」
それを否定しない。
「だが、黙認すれば、
“判断できない国”だと示すことになる」
言葉は、慎重だが、逃げていない。
「今回は、中央が責任を持つ」
会議室に、わずかな緊張と、
同時に、奇妙な納得が広がった。
指示は即日出された。
地方貴族からは、反発と抗議。
だが、命令は撤回されない。
夜、帝国宰相府。
「……王国、決めました」
報告に、ハインリヒは短く頷く。
「どう見る?」
「拙いですが、本番です」
エルゼリアは、静かに答えた。
「判断は、遅れていません。
それだけで、合格点です」
「甘いな」
「いいえ」
彼女は、首を振る。
「判断の質は、後から修正できます。
ですが、“決める”経験は、今しか積めません」
窓の外、帝国の街は変わらず動いている。
王宮でも、今夜は遅くまで灯りが消えない。
ロネスは、机に向かい、
今日の決断を振り返っていた。
正解かどうかは、まだ分からない。
だが、逃げなかった。
「……これが、本番か」
小さく呟く。
練習は終わった。
これから先は、
一つ一つが、本番だ。
帝国は、見ている。
王国は、選んだ。
そしてエルゼリア・クローヴェルは、
静かに理解していた。
――本当に試されるのは、
この判断を、次もできるかどうか。
兆しは、すでに現れている。
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