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24話|決断の練習
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24話|決断の練習
決断には、練習が要る。
それは、帝国では常識だった。
だが王宮では、ほとんど語られない概念でもある。
午前の会議が終わったあと、ロネスは珍しく文官たちを引き留めた。
「……次の議題に入る前に、一つ確認したい」
室内の視線が集まる。
「今日決めた件、
判断の根拠を、それぞれ説明してほしい」
一瞬の沈黙。
誰かが恐る恐る口を開く。
「殿下、それは……決定後に、でしょうか?」
「今だ」
ロネスは、はっきりと言った。
「正解を聞きたいわけではない。
どう考えたかを知りたい」
戸惑いが、会議室に広がる。
これまでの王宮では、
結論だけが重視され、
思考過程は、むしろ隠すものだった。
「……では」
財務官が、慎重に言葉を選ぶ。
「帝国の提示した裁量線内であること。
そして、失敗時の影響が限定的であることを考慮しました」
「他には?」
「判断を先延ばしにした場合、
現場の混乱が長引く、と」
ロネスは、静かに頷いた。
「それでいい」
その反応に、周囲が驚く。
「今の説明で、十分だ」
彼は、続けた。
「完璧な理由など、最初から存在しない。
重要なのは、
判断できる材料が揃っているかどうかだ」
その言葉は、
誰に向けたものでもあり、
同時に、自分自身への戒めでもあった。
会議は、いつもより短時間で終わった。
だが、終わったあと、
誰もすぐに立ち上がらなかった。
「……殿下」
若い文官が、思い切ったように口を開く。
「もし、判断を誤った場合は……」
「そのときは、修正する」
ロネスは、即答した。
「責任は、私が持つ。
だから、考えることをやめるな」
それは、王宮では異質な宣言だった。
午後、王国側の新たな判断が、帝国へ送られる。
内容は、小さな修正案。
だが、自主的な提案だった。
帝国宰相府では、その文書を見て、
数人の官僚が顔を見合わせる。
「……来ましたね」
「王国側からの、能動的な修正」
ハインリヒ・ヴォルフは、
ゆっくりと文書を読み終え、エルゼリアへ視線を向けた。
「どう見る?」
「練習を始めました」
彼女は、迷いなく答えた。
「まだ拙い。
ですが、“決める前提”で考えています」
「危険だと思うか?」
「はい」
即答だった。
「ですが、
練習なしに、本番はありません」
ハインリヒは、短く笑った。
「厳しいな」
「国を動かす判断に、
安全な道は存在しません」
返答は、冷静だった。
「我々ができるのは、
致命傷にならない範囲で、
転ばせることだけです」
帝国側は、王国の修正案を受け入れた。
条件付きで。
――判断は評価する。
――だが、次は根拠をより明確に。
その返答は、
拒絶でも、全面肯定でもない。
夜、王宮。
ロネスは、私室で一人、書類を見返していた。
今日の判断。
その理由。
反応。
「……練習、か」
呟きが、静かな部屋に落ちる。
かつての自分は、
失敗しないために、
何も決めなかった。
だが、それは、
国にとって最も高くつく選択だったのだ。
一方、帝国の夜も静かだった。
エルゼリアは、窓辺に立ち、
街の灯りを眺めている。
王宮が、決断の練習を始めた。
それは、彼女がいなくなってからのことだ。
胸に浮かぶ感情は、
後悔でも、満足でもない。
ただ、事実として受け止める。
「……変わるなら、それでいい」
誰のためでもない。
国のためでも、
復讐のためでもない。
止まっていたものが、
ようやく動き出した。
それだけの話だ。
だが――
練習の次には、必ず本番が来る。
失敗が許されない局面が。
そのとき、
王宮は、本当に決断できるのか。
帝国は、
どこまで見守るのか。
静かな夜の中で、
次の試練は、確実に近づいていた。
決断には、練習が要る。
それは、帝国では常識だった。
だが王宮では、ほとんど語られない概念でもある。
午前の会議が終わったあと、ロネスは珍しく文官たちを引き留めた。
「……次の議題に入る前に、一つ確認したい」
室内の視線が集まる。
「今日決めた件、
判断の根拠を、それぞれ説明してほしい」
一瞬の沈黙。
誰かが恐る恐る口を開く。
「殿下、それは……決定後に、でしょうか?」
「今だ」
ロネスは、はっきりと言った。
「正解を聞きたいわけではない。
どう考えたかを知りたい」
戸惑いが、会議室に広がる。
これまでの王宮では、
結論だけが重視され、
思考過程は、むしろ隠すものだった。
「……では」
財務官が、慎重に言葉を選ぶ。
「帝国の提示した裁量線内であること。
そして、失敗時の影響が限定的であることを考慮しました」
「他には?」
「判断を先延ばしにした場合、
現場の混乱が長引く、と」
ロネスは、静かに頷いた。
「それでいい」
その反応に、周囲が驚く。
「今の説明で、十分だ」
彼は、続けた。
「完璧な理由など、最初から存在しない。
重要なのは、
判断できる材料が揃っているかどうかだ」
その言葉は、
誰に向けたものでもあり、
同時に、自分自身への戒めでもあった。
会議は、いつもより短時間で終わった。
だが、終わったあと、
誰もすぐに立ち上がらなかった。
「……殿下」
若い文官が、思い切ったように口を開く。
「もし、判断を誤った場合は……」
「そのときは、修正する」
ロネスは、即答した。
「責任は、私が持つ。
だから、考えることをやめるな」
それは、王宮では異質な宣言だった。
午後、王国側の新たな判断が、帝国へ送られる。
内容は、小さな修正案。
だが、自主的な提案だった。
帝国宰相府では、その文書を見て、
数人の官僚が顔を見合わせる。
「……来ましたね」
「王国側からの、能動的な修正」
ハインリヒ・ヴォルフは、
ゆっくりと文書を読み終え、エルゼリアへ視線を向けた。
「どう見る?」
「練習を始めました」
彼女は、迷いなく答えた。
「まだ拙い。
ですが、“決める前提”で考えています」
「危険だと思うか?」
「はい」
即答だった。
「ですが、
練習なしに、本番はありません」
ハインリヒは、短く笑った。
「厳しいな」
「国を動かす判断に、
安全な道は存在しません」
返答は、冷静だった。
「我々ができるのは、
致命傷にならない範囲で、
転ばせることだけです」
帝国側は、王国の修正案を受け入れた。
条件付きで。
――判断は評価する。
――だが、次は根拠をより明確に。
その返答は、
拒絶でも、全面肯定でもない。
夜、王宮。
ロネスは、私室で一人、書類を見返していた。
今日の判断。
その理由。
反応。
「……練習、か」
呟きが、静かな部屋に落ちる。
かつての自分は、
失敗しないために、
何も決めなかった。
だが、それは、
国にとって最も高くつく選択だったのだ。
一方、帝国の夜も静かだった。
エルゼリアは、窓辺に立ち、
街の灯りを眺めている。
王宮が、決断の練習を始めた。
それは、彼女がいなくなってからのことだ。
胸に浮かぶ感情は、
後悔でも、満足でもない。
ただ、事実として受け止める。
「……変わるなら、それでいい」
誰のためでもない。
国のためでも、
復讐のためでもない。
止まっていたものが、
ようやく動き出した。
それだけの話だ。
だが――
練習の次には、必ず本番が来る。
失敗が許されない局面が。
そのとき、
王宮は、本当に決断できるのか。
帝国は、
どこまで見守るのか。
静かな夜の中で、
次の試練は、確実に近づいていた。
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