『婚約破棄された令嬢ですが、王国は私抜きでは立てなかったようですね』

鷹 綾

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37話|問いの向き

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37話|問いの向き

 選ばれ続ける条件は、外に向けた約束だけでは足りない。
 同じ重さで、内にも問い続けなければならない。

 中立国との交渉準備は、静かに進んでいた。
 条件の精査。
 文言の整理。
 履行確認の方法。

 どれも、特別な作業ではない。
 だからこそ、会議は短く、密度が高い。

「……この条項ですが、
 履行確認の周期を固定するのはどうでしょう」

「基準四に沿いますね。
 例外は設けない」

 言葉が、自然に基準へと戻っていく。
 議論の向きが、揺れない。

 ロネスは、その様子を眺めながら、
 胸の奥で、静かに息を吐いた。

 ――外に選ばれる準備は、整っている。

 だが、今日の議題は、それだけではなかった。

「……次に、内部評価の見直しについて」

 側近の一言で、空気が変わる。

「これまでの評価は、
 結果と忠誠を中心にしてきました」

 忠誠。
 その言葉に、誰もが小さく身構える。

「ですが、
 判断を分け、責任を分けた今、
 それだけでは歪みが出ます」

 ロネスは、頷いた。

「評価の軸を、
 “決めたかどうか”に移す」

 会議室が、静まり返る。

「成功したかどうかではありません」

 彼は、はっきりと言った。

「判断し、
 理由を示し、
 修正案まで用意したかどうかだ」

 それは、
 外から見れば奇妙な評価基準だ。

 だが、
 続ける組織にとっては、
 不可欠な基準でもある。

「……失敗した場合も?」

「評価する」

 即答だった。

「隠さなければ、だ」

 会議室の空気が、
 わずかに緩む。

 成功だけが評価されるなら、
 誰も挑まない。

 だが、
 決めたこと自体が評価されるなら、
 挑戦は続く。

 一方、帝国宰相府。

 王宮内部の評価基準見直しは、
 観測として共有されていた。

「……内向きの問いを始めました」

 報告官の言葉に、
 ハインリヒ・ヴォルフは、短く頷く。

「遅すぎるくらいだ」

 視線が、エルゼリアへ向く。

「どう見る?」

「自然な流れです」

 彼女は、淡々と答える。

「外に約束する前に、
 内で同じ約束をしなければ、
 必ず破綻します」

「評価基準を変えるのは、痛みを伴う」

「はい」

 否定しない。

「ですが、
 痛みのない変化は、
 形だけです」

 夜、王宮。

 ロネスは、
 新しい内部評価案を読み返していた。

 そこには、
 数字よりも、
 言葉が多い。

 判断理由。
 想定外。
 修正経路。

「……問いの向き、か」

 小さく呟く。

 これまでの王宮は、
 常に外を向いていた。

 他国の反応。
 市場の評価。
 貴族の顔色。

 だが今、
 問いは、内に向いている。

 ――自分たちは、
 同じ判断を、
 同じ理由で、
 続けられるのか。

 一方、帝国の夜。

 エルゼリアは、
 最後に残っていた覚書を、
 静かに閉じた。

 そこには、
 かつて自分が一人で背負っていた問いが、
 整理された言葉で並んでいる。

「……引き継がれた、わね」

 声は、穏やかだった。

 問いは、
 人に属さない。

 組織に、属する。

 37話は、
 派手な交渉の章ではない。

 だが、
 選ばれ続けるために、
 最も重要な一歩を描いている。

 問いの向きが、
 外から内へ。

 その瞬間、
 王宮は、
 本当の意味で、
 自立を始めた。

 物語は、
 最終局面へ向けて、
 静かに、しかし確実に、
 歩を進めていた。
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