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第9話 目覚め
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第9話 目覚め
――まぶしい。
最初に感じたのは、それだった。
長い闇の底から、ゆっくりと浮かび上がるように、意識が現実へと引き戻されていく。
閉じたままの瞼の裏に、淡い光が滲んだ。
(……ここは……?)
考えようとした瞬間、喉がひどく渇いていることに気づく。
声を出そうとしても、空気が擦れるような音しか生まれなかった。
「……っ」
そのかすかな音に、すぐ反応があった。
「――シルフィーネ?」
震える声。
聞き覚えのある、優しくて、少し掠れた声。
――お母様。
そう思った瞬間、胸の奥がぎゅっと締めつけられる。
瞼が、重たい。
けれど、動く。
ゆっくりと、何年も使っていなかった筋肉を思い出すように、瞼を押し上げる。
視界が、白に染まった。
「……!」
「目……目を……!」
誰かが息を呑む音。
椅子が倒れる音。
慌ただしい足音。
視界が少しずつ焦点を結び、天蓋付きの寝台と、見慣れた――けれど、どこか懐かしい天井が映り込む。
「……?」
自分の声が、自分の耳に届いた。
――低い。
思わず喉に手を当てる。
動く。確かに、自分の手だ。
だが、その指は、記憶よりも長く、細く、しなやかだった。
「シルフィーネ……! シルフィーネ……!」
視界の端で、公爵夫人が駆け寄ってくる。
その顔は、涙でぐしゃぐしゃだった。
「……お母、様……?」
声を出した瞬間、はっきりと分かった。
――声も、違う。
高く幼かったはずの声は、落ち着いた響きを帯びている。
「よかった……本当によかった……」
両手を握られ、何度も何度も名前を呼ばれる。
その温もりに、胸の奥が熱くなった。
――私は、生きている。
そう実感した途端、次々と感覚が戻ってくる。
シーツの感触。
空気の匂い。
窓の外から聞こえる、鳥の声。
「……一年、ですか?」
かすれた声で尋ねると、公爵が静かに頷いた。
「ああ。お前は……一年、眠っていた」
一年。
その言葉は、重く、そして現実的だった。
婚約破棄。
夜会。
階段。
意識が途切れるまでの記憶が、鮮明に蘇る。
「……皆様に、ご迷惑を……」
そう言いかけて、言葉を止める。
――違う。
迷惑をかけたのは、自分のせいではない。
眠りの底で、はっきりと理解したことだった。
シルフィーネは、ゆっくりと上半身を起こそうとして、息を詰めた。
「……?」
身体が、軽い。
いや、軽いというより――。
「……私……」
視線を落とし、息を呑む。
細く伸びた腕。
はっきりとした鎖骨。
胸元のふくらみ。
どこからどう見ても――少女の身体ではなかった。
「……え?」
思わず漏れた声に、侍女マリアが目を見開く。
「お、お嬢様……?」
「……私、こんな……」
言葉を失う。
鏡を。
そう思った瞬間、マリアが慌てて手鏡を差し出した。
震える手で受け取り、覗き込む。
そこに映っていたのは――
見知らぬ、美しい女性だった。
面影は、ある。
確かに、自分だと分かる。
けれど、幼さは消え、代わりに凛とした大人の顔立ちがそこにあった。
「……」
言葉が、出なかった。
――変わった。
外見は、確かに変わってしまった。
だが。
胸の奥に、静かに確信が灯る。
(……中身は、変わっていない)
一年眠っても。
何が起きても。
私は、私だ。
シルフィーネは、鏡を静かに下ろし、深く息を吸った。
ここから始まる。
止まっていた時間の、その先が。
――これは、終わりではない。
ようやく訪れた、
彼女自身の「再出発」だった。
――まぶしい。
最初に感じたのは、それだった。
長い闇の底から、ゆっくりと浮かび上がるように、意識が現実へと引き戻されていく。
閉じたままの瞼の裏に、淡い光が滲んだ。
(……ここは……?)
考えようとした瞬間、喉がひどく渇いていることに気づく。
声を出そうとしても、空気が擦れるような音しか生まれなかった。
「……っ」
そのかすかな音に、すぐ反応があった。
「――シルフィーネ?」
震える声。
聞き覚えのある、優しくて、少し掠れた声。
――お母様。
そう思った瞬間、胸の奥がぎゅっと締めつけられる。
瞼が、重たい。
けれど、動く。
ゆっくりと、何年も使っていなかった筋肉を思い出すように、瞼を押し上げる。
視界が、白に染まった。
「……!」
「目……目を……!」
誰かが息を呑む音。
椅子が倒れる音。
慌ただしい足音。
視界が少しずつ焦点を結び、天蓋付きの寝台と、見慣れた――けれど、どこか懐かしい天井が映り込む。
「……?」
自分の声が、自分の耳に届いた。
――低い。
思わず喉に手を当てる。
動く。確かに、自分の手だ。
だが、その指は、記憶よりも長く、細く、しなやかだった。
「シルフィーネ……! シルフィーネ……!」
視界の端で、公爵夫人が駆け寄ってくる。
その顔は、涙でぐしゃぐしゃだった。
「……お母、様……?」
声を出した瞬間、はっきりと分かった。
――声も、違う。
高く幼かったはずの声は、落ち着いた響きを帯びている。
「よかった……本当によかった……」
両手を握られ、何度も何度も名前を呼ばれる。
その温もりに、胸の奥が熱くなった。
――私は、生きている。
そう実感した途端、次々と感覚が戻ってくる。
シーツの感触。
空気の匂い。
窓の外から聞こえる、鳥の声。
「……一年、ですか?」
かすれた声で尋ねると、公爵が静かに頷いた。
「ああ。お前は……一年、眠っていた」
一年。
その言葉は、重く、そして現実的だった。
婚約破棄。
夜会。
階段。
意識が途切れるまでの記憶が、鮮明に蘇る。
「……皆様に、ご迷惑を……」
そう言いかけて、言葉を止める。
――違う。
迷惑をかけたのは、自分のせいではない。
眠りの底で、はっきりと理解したことだった。
シルフィーネは、ゆっくりと上半身を起こそうとして、息を詰めた。
「……?」
身体が、軽い。
いや、軽いというより――。
「……私……」
視線を落とし、息を呑む。
細く伸びた腕。
はっきりとした鎖骨。
胸元のふくらみ。
どこからどう見ても――少女の身体ではなかった。
「……え?」
思わず漏れた声に、侍女マリアが目を見開く。
「お、お嬢様……?」
「……私、こんな……」
言葉を失う。
鏡を。
そう思った瞬間、マリアが慌てて手鏡を差し出した。
震える手で受け取り、覗き込む。
そこに映っていたのは――
見知らぬ、美しい女性だった。
面影は、ある。
確かに、自分だと分かる。
けれど、幼さは消え、代わりに凛とした大人の顔立ちがそこにあった。
「……」
言葉が、出なかった。
――変わった。
外見は、確かに変わってしまった。
だが。
胸の奥に、静かに確信が灯る。
(……中身は、変わっていない)
一年眠っても。
何が起きても。
私は、私だ。
シルフィーネは、鏡を静かに下ろし、深く息を吸った。
ここから始まる。
止まっていた時間の、その先が。
――これは、終わりではない。
ようやく訪れた、
彼女自身の「再出発」だった。
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