『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』

鷹 綾

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第13話 再会という名の試金石

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第13話 再会という名の試金石

 社交界への復帰から、数日後。

 王都で開かれる夜会への招待状が、公爵家に届いた。
 それは、規模も顔触れも、これまでとは比べものにならない――“本番”とも言える場だった。

「無理をする必要はないわ」

 母はそう言ったが、シルフィーネは静かに首を振った。

「いいえ。行きます」

 逃げる理由は、もうない。
 そして何より――確かめたいことがあった。



 夜会当日。

 会場に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。

 ざわめき。
 ひそやかな囁き。
 そして、隠しきれない視線。

「……あの方が?」 「目を覚ました、公爵令嬢……」 「本当に……」

 だが、その声には、以前のような軽さはない。
 代わりにあるのは、明確な評価と――期待。

 シルフィーネは、背筋を伸ばして歩いた。
 無理に胸を張ることもなく、俯くこともなく。

 ただ、そこに在る。

「……シルフィーネ?」

 聞き覚えのある声が、背後からかけられた。

 振り返るまでもなく、誰だか分かってしまう。
 それでも彼女は、ゆっくりと向き直った。

 ライオネルだった。

 一年前よりも、少しだけ大人びた表情。
 けれど、その目には、はっきりとした動揺が浮かんでいる。

「……お久しぶりです」

 シルフィーネは、形式通りに一礼した。

 その仕草一つで、周囲の空気が張りつめるのを感じる。

「……本当に、目を覚ましたのだな」

「ええ。ご心配をおかけしました」

 丁寧で、距離のある言葉。
 そこに、個人的な感情は一切含まれていない。

 それが、ライオネルには予想外だったのだろう。

「……元気そうで、何よりだ」

 彼の視線が、無意識に彼女の顔を、姿をなぞる。

 その一瞬で、シルフィーネは理解した。

 ――見ているのは、私の“今”だけ。

 幼かった頃の自分。
 黙って耐えていた時間。
 それらは、彼の視界には存在していない。

「……」

 胸の奥が、静かに冷えた。

「……こうして話せるとは、思っていなかった」

 ライオネルは、少し言いづらそうに続ける。

「正直に言えば……驚いている」

「そうでしょうね」

 穏やかに返しながら、シルフィーネは微笑んだ。

「一年眠っても、私は変わっていませんから」

 その言葉に、ライオネルは一瞬、言葉を失った。

「……だが」

 続けようとした彼の言葉を、彼女は待たなかった。

「ライオネル様」

 名を呼ぶ声は、静かで、はっきりしていた。

「今夜は、多くの方がいらっしゃっています。
 どうか、婚約者様をお待たせにならないように」

 その一言で、すべてが伝わる。

 ――あなたの立つ場所は、もう私の隣ではない。

 ライオネルは、何か言おうとして口を開き、
 結局、何も言えずに閉じた。

「……そうだな」

 ぎこちなく頷き、彼は一歩、距離を取る。

 その背中を見送りながら、シルフィーネは静かに思った。

 ――これが、答え。

 彼は、私を“失った”のではない。
 最初から、見ていなかっただけ。



 再び一人になった彼女に、別の視線が注がれていることに気づく。

 先ほどから、少し離れた場所で――
 一人の青年が、冷静な目でこちらを見ていた。

 派手な仕草はない。
 近づこうともしない。

 ただ、観察している。

 その視線に、不思議と嫌悪感はなかった。

(……この方は)

 胸の奥で、何かが静かに動く。

 この夜会は、再会の場であると同時に――
 新たな出会いの、入口でもあった。

 シルフィーネは、知らず知らずのうちに、
 運命の分岐点に立っていることを悟り始めていた。
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