『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』

鷹 綾

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第21話 対話の席

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第21話 対話の席

 翌朝。

 ノルディア王城の客室に差し込む光は、驚くほど澄んでいた。
 目を覚ました瞬間、シルフィーネは「よく眠れた」とはっきり自覚する。

「……不思議ですね」

 緊張していたはずなのに、心は静かだった。
 ここでは、過剰に気を張る必要がない――そんな空気がある。



 朝食後、案内されたのは会議用の小広間だった。

 長い卓ではない。
 向かい合うには、少し近い距離。

 形式ばらないが、軽くもない。
 “話すための席”だと、すぐに分かる。

 すでに、エドワルド王太子が待っていた。

「おはようございます」

「おはようございます、殿下」

 互いに礼を交わし、着席する。

 侍従が下がると、部屋には二人きりになった。

「まず、誤解のないように」

 エドワルドが、先に口を開く。

「あなたを招いたのは、同情でも、話題性でもありません」

 はっきりとした声。
 回りくどさはない。

「私は、夜会であなたの“対応”を見ました。
 元婚約者への態度、周囲への距離の取り方、言葉の選び方」

 視線が、真っ直ぐに向けられる。

「外見ではなく、“判断”に興味を持ったのです」

 その言葉に、シルフィーネはわずかに目を瞬かせた。

「判断、ですか」

「ええ」

 エドワルドは頷く。

「感情に流されず、しかし冷たくもない。
 立場を利用せず、同時に卑下もしない」

 淡々とした分析。
 だが、そこに軽さはなかった。

「私の国では、伴侶は“飾り”では困ります」

 その一言に、重みが宿る。

「共に考え、意見を述べ、必要なら異を唱えられる存在でなければならない」

 ――試されている。

 だが、それは値踏みではない。

「……率直ですね」

 シルフィーネは、静かに言った。

「こちらも、正直にお答えします」

 背筋を伸ばし、言葉を選ぶ。

「私は、誰かの地位を補うための存在になるつもりはありません」

 はっきりと。

「政略であれ、好意であれ、
 自分の意思が尊重されない関係なら、受け入れられません」

 エドワルドの表情が、わずかに変わった。

 驚きではない。
 興味が、深まった顔だ。

「それは……危険な発言です」

「承知しています」

 だからこそ、隠さない。

「ですが、私は一度、
 “外見だけで価値を決められる場所”を経験しました」

 声は穏やかだが、芯がある。

「二度目は、ありません」

 沈黙が落ちる。

 短くはないが、重苦しくもない。

 やがて、エドワルドが小さく息を吐いた。

「……安心しました」

「安心、ですか?」

「ええ」

 彼は、少しだけ肩の力を抜いた。

「あなたが黙って従う方なら、この話はここで終わっていました」

 その言葉に、シルフィーネは小さく笑った。

「それは……光栄と受け取ってよろしいのでしょうか」

「もちろん」

 エドワルドは、はっきりと答える。

「これは、求婚ではありません」

 だが、と前置きして続けた。

「可能性を探るための対話です。
 互いに、見極めるための時間」

 その言葉は、誠実だった。

「……分かりました」

 シルフィーネは頷く。

「私も、殿下を見させていただきます」

 一瞬、エドワルドが目を見開き――
 次の瞬間、はっきりと笑った。

「対等ですね」

「ええ」

 それでこそ、ここに来た意味がある。



 席を立つ前、エドワルドは付け加えた。

「今日は城内を案内させます。
 ――国を見るのも、判断の材料でしょう」

 シルフィーネは、窓の外に目を向けた。

 整った街並み。
 働く人々。
 無駄のない秩序。

「……ええ。ぜひ」

 国を見る。
 人を見る。
 そして――自分自身の気持ちを見る。

 この場所では、
 誰かに選ばれる必要はない。

 選び合うための時間が、静かに始まっていた。
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