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第21話 対話の席
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第21話 対話の席
翌朝。
ノルディア王城の客室に差し込む光は、驚くほど澄んでいた。
目を覚ました瞬間、シルフィーネは「よく眠れた」とはっきり自覚する。
「……不思議ですね」
緊張していたはずなのに、心は静かだった。
ここでは、過剰に気を張る必要がない――そんな空気がある。
*
朝食後、案内されたのは会議用の小広間だった。
長い卓ではない。
向かい合うには、少し近い距離。
形式ばらないが、軽くもない。
“話すための席”だと、すぐに分かる。
すでに、エドワルド王太子が待っていた。
「おはようございます」
「おはようございます、殿下」
互いに礼を交わし、着席する。
侍従が下がると、部屋には二人きりになった。
「まず、誤解のないように」
エドワルドが、先に口を開く。
「あなたを招いたのは、同情でも、話題性でもありません」
はっきりとした声。
回りくどさはない。
「私は、夜会であなたの“対応”を見ました。
元婚約者への態度、周囲への距離の取り方、言葉の選び方」
視線が、真っ直ぐに向けられる。
「外見ではなく、“判断”に興味を持ったのです」
その言葉に、シルフィーネはわずかに目を瞬かせた。
「判断、ですか」
「ええ」
エドワルドは頷く。
「感情に流されず、しかし冷たくもない。
立場を利用せず、同時に卑下もしない」
淡々とした分析。
だが、そこに軽さはなかった。
「私の国では、伴侶は“飾り”では困ります」
その一言に、重みが宿る。
「共に考え、意見を述べ、必要なら異を唱えられる存在でなければならない」
――試されている。
だが、それは値踏みではない。
「……率直ですね」
シルフィーネは、静かに言った。
「こちらも、正直にお答えします」
背筋を伸ばし、言葉を選ぶ。
「私は、誰かの地位を補うための存在になるつもりはありません」
はっきりと。
「政略であれ、好意であれ、
自分の意思が尊重されない関係なら、受け入れられません」
エドワルドの表情が、わずかに変わった。
驚きではない。
興味が、深まった顔だ。
「それは……危険な発言です」
「承知しています」
だからこそ、隠さない。
「ですが、私は一度、
“外見だけで価値を決められる場所”を経験しました」
声は穏やかだが、芯がある。
「二度目は、ありません」
沈黙が落ちる。
短くはないが、重苦しくもない。
やがて、エドワルドが小さく息を吐いた。
「……安心しました」
「安心、ですか?」
「ええ」
彼は、少しだけ肩の力を抜いた。
「あなたが黙って従う方なら、この話はここで終わっていました」
その言葉に、シルフィーネは小さく笑った。
「それは……光栄と受け取ってよろしいのでしょうか」
「もちろん」
エドワルドは、はっきりと答える。
「これは、求婚ではありません」
だが、と前置きして続けた。
「可能性を探るための対話です。
互いに、見極めるための時間」
その言葉は、誠実だった。
「……分かりました」
シルフィーネは頷く。
「私も、殿下を見させていただきます」
一瞬、エドワルドが目を見開き――
次の瞬間、はっきりと笑った。
「対等ですね」
「ええ」
それでこそ、ここに来た意味がある。
*
席を立つ前、エドワルドは付け加えた。
「今日は城内を案内させます。
――国を見るのも、判断の材料でしょう」
シルフィーネは、窓の外に目を向けた。
整った街並み。
働く人々。
無駄のない秩序。
「……ええ。ぜひ」
国を見る。
人を見る。
そして――自分自身の気持ちを見る。
この場所では、
誰かに選ばれる必要はない。
選び合うための時間が、静かに始まっていた。
翌朝。
ノルディア王城の客室に差し込む光は、驚くほど澄んでいた。
目を覚ました瞬間、シルフィーネは「よく眠れた」とはっきり自覚する。
「……不思議ですね」
緊張していたはずなのに、心は静かだった。
ここでは、過剰に気を張る必要がない――そんな空気がある。
*
朝食後、案内されたのは会議用の小広間だった。
長い卓ではない。
向かい合うには、少し近い距離。
形式ばらないが、軽くもない。
“話すための席”だと、すぐに分かる。
すでに、エドワルド王太子が待っていた。
「おはようございます」
「おはようございます、殿下」
互いに礼を交わし、着席する。
侍従が下がると、部屋には二人きりになった。
「まず、誤解のないように」
エドワルドが、先に口を開く。
「あなたを招いたのは、同情でも、話題性でもありません」
はっきりとした声。
回りくどさはない。
「私は、夜会であなたの“対応”を見ました。
元婚約者への態度、周囲への距離の取り方、言葉の選び方」
視線が、真っ直ぐに向けられる。
「外見ではなく、“判断”に興味を持ったのです」
その言葉に、シルフィーネはわずかに目を瞬かせた。
「判断、ですか」
「ええ」
エドワルドは頷く。
「感情に流されず、しかし冷たくもない。
立場を利用せず、同時に卑下もしない」
淡々とした分析。
だが、そこに軽さはなかった。
「私の国では、伴侶は“飾り”では困ります」
その一言に、重みが宿る。
「共に考え、意見を述べ、必要なら異を唱えられる存在でなければならない」
――試されている。
だが、それは値踏みではない。
「……率直ですね」
シルフィーネは、静かに言った。
「こちらも、正直にお答えします」
背筋を伸ばし、言葉を選ぶ。
「私は、誰かの地位を補うための存在になるつもりはありません」
はっきりと。
「政略であれ、好意であれ、
自分の意思が尊重されない関係なら、受け入れられません」
エドワルドの表情が、わずかに変わった。
驚きではない。
興味が、深まった顔だ。
「それは……危険な発言です」
「承知しています」
だからこそ、隠さない。
「ですが、私は一度、
“外見だけで価値を決められる場所”を経験しました」
声は穏やかだが、芯がある。
「二度目は、ありません」
沈黙が落ちる。
短くはないが、重苦しくもない。
やがて、エドワルドが小さく息を吐いた。
「……安心しました」
「安心、ですか?」
「ええ」
彼は、少しだけ肩の力を抜いた。
「あなたが黙って従う方なら、この話はここで終わっていました」
その言葉に、シルフィーネは小さく笑った。
「それは……光栄と受け取ってよろしいのでしょうか」
「もちろん」
エドワルドは、はっきりと答える。
「これは、求婚ではありません」
だが、と前置きして続けた。
「可能性を探るための対話です。
互いに、見極めるための時間」
その言葉は、誠実だった。
「……分かりました」
シルフィーネは頷く。
「私も、殿下を見させていただきます」
一瞬、エドワルドが目を見開き――
次の瞬間、はっきりと笑った。
「対等ですね」
「ええ」
それでこそ、ここに来た意味がある。
*
席を立つ前、エドワルドは付け加えた。
「今日は城内を案内させます。
――国を見るのも、判断の材料でしょう」
シルフィーネは、窓の外に目を向けた。
整った街並み。
働く人々。
無駄のない秩序。
「……ええ。ぜひ」
国を見る。
人を見る。
そして――自分自身の気持ちを見る。
この場所では、
誰かに選ばれる必要はない。
選び合うための時間が、静かに始まっていた。
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