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第22話 国を見る目
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第22話 国を見る目
ノルディア王城の回廊は、静かだった。
華美な装飾はなく、代わりに整然とした石造りの壁と、無駄のない導線。
シルフィーネは歩きながら、この国の「考え方」を感じ取っていた。
「まずは、城内を案内します」
エドワルドはそう言って、先を歩く。
護衛も侍従も最低限。見せたいのは“権威”ではないのだと、すぐに分かった。
最初に通されたのは、執務官たちが働く区画だった。
机に向かう者。
地図を広げ、議論する者。
年齢も身分もばらばらだが、誰もが自分の役割を理解している。
「……静かですね」
「必要以上に声を荒らげる理由がないからです」
エドワルドの答えは簡潔だった。
「意見は、声量ではなく内容で通す。
それが、この国のやり方です」
胸の奥で、小さく何かが腑に落ちる。
――感情ではなく、判断。
この国は、それを徹底している。
*
次に案内されたのは、城下の一角だった。
市場は活気がありながらも、混乱はない。
商人と役人が自然に言葉を交わし、問題があればその場で調整している。
「……距離が近いのですね」
「国が大きくなりすぎないよう、意識しています」
エドワルドは、露店に並ぶ品々を一瞥しながら言った。
「統治する側と、される側。
その境界が曖昧になりすぎると、どちらも歪む」
シルフィーネは、足を止めた。
「……殿下は、ご自身を“統治する側”だと?」
問いは、慎重だった。
「ええ。否定はしません」
即答だった。
「ただし、“上”に立つつもりもない」
振り返り、まっすぐに彼女を見る。
「私は、責任の位置にいるだけです」
その言葉に、虚飾はない。
――この人は、逃げない。
*
城へ戻る途中、二人は小さな橋の上で足を止めた。
下を流れる川は澄んでおり、子どもたちが水辺で遊んでいる。
「……不思議です」
シルフィーネは、ぽつりと言った。
「殿下の国を見ていると……
“誰かに選ばれなければ生きられない”という感覚が、薄い」
エドワルドは、少し考えてから答える。
「この国では、
“役割を果たすこと”が、存在価値です」
だから、と続けた。
「生まれや外見で、価値が決まることはない」
その一言が、胸に静かに響いた。
彼女は、思い出す。
幼すぎると言われた日々を。
外見だけで切り捨てられた、あの瞬間を。
「……殿下」
「はい」
「もし私が、
今も幼く見えるままだったら……」
言葉を探し、続ける。
「それでも、ここへ招いていましたか?」
沈黙が落ちる。
だが、長くは続かなかった。
「招いていました」
迷いのない声。
「むしろ、その場合こそ、
あなたが“どう考える人間か”を知りたかった」
その答えに、胸の奥が熱くなる。
これは、甘い言葉ではない。
評価でも、口説きでもない。
――価値観の提示だ。
「……ありがとうございます」
それだけを言うのが、精一杯だった。
*
城へ戻り、別れ際。
「今日は、いかがでしたか」
エドワルドが問う。
シルフィーネは、少し微笑んだ。
「……国を見るということが、
人を見ることと、こんなにも近いとは思いませんでした」
彼は、満足そうに頷いた。
「それなら、今日の目的は果たせましたね」
この滞在は、試験ではない。
だが確かに――互いを測る時間だ。
シルフィーネは、はっきりと感じていた。
この国では、
自分は“飾り”にも、“戦利品”にもならない。
ただ――
一人の人間として、立つことができる。
その事実が、
彼女の中で、新しい未来の輪郭を描き始めていた。
ノルディア王城の回廊は、静かだった。
華美な装飾はなく、代わりに整然とした石造りの壁と、無駄のない導線。
シルフィーネは歩きながら、この国の「考え方」を感じ取っていた。
「まずは、城内を案内します」
エドワルドはそう言って、先を歩く。
護衛も侍従も最低限。見せたいのは“権威”ではないのだと、すぐに分かった。
最初に通されたのは、執務官たちが働く区画だった。
机に向かう者。
地図を広げ、議論する者。
年齢も身分もばらばらだが、誰もが自分の役割を理解している。
「……静かですね」
「必要以上に声を荒らげる理由がないからです」
エドワルドの答えは簡潔だった。
「意見は、声量ではなく内容で通す。
それが、この国のやり方です」
胸の奥で、小さく何かが腑に落ちる。
――感情ではなく、判断。
この国は、それを徹底している。
*
次に案内されたのは、城下の一角だった。
市場は活気がありながらも、混乱はない。
商人と役人が自然に言葉を交わし、問題があればその場で調整している。
「……距離が近いのですね」
「国が大きくなりすぎないよう、意識しています」
エドワルドは、露店に並ぶ品々を一瞥しながら言った。
「統治する側と、される側。
その境界が曖昧になりすぎると、どちらも歪む」
シルフィーネは、足を止めた。
「……殿下は、ご自身を“統治する側”だと?」
問いは、慎重だった。
「ええ。否定はしません」
即答だった。
「ただし、“上”に立つつもりもない」
振り返り、まっすぐに彼女を見る。
「私は、責任の位置にいるだけです」
その言葉に、虚飾はない。
――この人は、逃げない。
*
城へ戻る途中、二人は小さな橋の上で足を止めた。
下を流れる川は澄んでおり、子どもたちが水辺で遊んでいる。
「……不思議です」
シルフィーネは、ぽつりと言った。
「殿下の国を見ていると……
“誰かに選ばれなければ生きられない”という感覚が、薄い」
エドワルドは、少し考えてから答える。
「この国では、
“役割を果たすこと”が、存在価値です」
だから、と続けた。
「生まれや外見で、価値が決まることはない」
その一言が、胸に静かに響いた。
彼女は、思い出す。
幼すぎると言われた日々を。
外見だけで切り捨てられた、あの瞬間を。
「……殿下」
「はい」
「もし私が、
今も幼く見えるままだったら……」
言葉を探し、続ける。
「それでも、ここへ招いていましたか?」
沈黙が落ちる。
だが、長くは続かなかった。
「招いていました」
迷いのない声。
「むしろ、その場合こそ、
あなたが“どう考える人間か”を知りたかった」
その答えに、胸の奥が熱くなる。
これは、甘い言葉ではない。
評価でも、口説きでもない。
――価値観の提示だ。
「……ありがとうございます」
それだけを言うのが、精一杯だった。
*
城へ戻り、別れ際。
「今日は、いかがでしたか」
エドワルドが問う。
シルフィーネは、少し微笑んだ。
「……国を見るということが、
人を見ることと、こんなにも近いとは思いませんでした」
彼は、満足そうに頷いた。
「それなら、今日の目的は果たせましたね」
この滞在は、試験ではない。
だが確かに――互いを測る時間だ。
シルフィーネは、はっきりと感じていた。
この国では、
自分は“飾り”にも、“戦利品”にもならない。
ただ――
一人の人間として、立つことができる。
その事実が、
彼女の中で、新しい未来の輪郭を描き始めていた。
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