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第23話 対等であるということ
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第23話 対等であるということ
ノルディア滞在も、数日が過ぎていた。
城内での案内、城下の視察、執務官との形式ばらない顔合わせ。
どれも“賓客向けの見学”というより、意見を持つ前提で用意された時間だった。
それが、シルフィーネには心地よい。
「……質問しても、いいですか?」
この日、エドワルドにそう切り出したのは、執務室の一角で地図を眺めていたときだった。
「もちろん」
即答が返る。
「ノルディアでは、王太子妃――いえ、将来の王妃に、
どこまでの役割を求めているのですか?」
踏み込んだ問いだ。
遠回しな探りではない。
エドワルドは、少しだけ考え、それから答えた。
「立場によって異なります」
曖昧な答えではない。
前提条件を示す、誠実な言い方だ。
「象徴であることを望む者もいる。
外交の場に立つ者もいる。
内政に関わる者も、稀ではありません」
地図から視線を上げ、彼女を見る。
「ただし、共通しているのは――
“黙って従う存在ではない”ということです」
その言葉に、シルフィーネの胸が静かに震えた。
「……反対意見も、言えるのですね」
「当然です」
エドワルドは、当然のように言った。
「伴侶とは、補佐ではなく、対話相手ですから」
その一言は、彼女が長く求めていた答えだった。
*
午後、城の図書棟を案内された。
蔵書は多くはないが、無駄がない。
実務書、歴史書、法令集が中心だ。
「……物語が少ないですね」
「娯楽は、別の形で取ります」
エドワルドは、苦笑気味に言う。
「ただし、必要なら取り入れる。
“役に立たないから不要”とは考えません」
その柔軟さに、思わず笑みが浮かぶ。
「殿下は……思っていたより、頑固ではありませんね」
「それは、誉め言葉でしょうか」
「ええ。とても」
二人の間に、自然な空気が流れる。
緊張も、遠慮もない。
だが、馴れ合いでもない。
――これが、対等。
シルフィーネは、はっきりと理解した。
*
その夜、客室で一人になった彼女は、机に向かっていた。
「……私は、ここでなら」
言葉にしながら、思考を整理する。
選ばれるために、装う必要はない。
拒絶されないために、黙る必要もない。
意見を持ち、考え、違うなら違うと言う。
それを“厄介”ではなく、“価値”として扱う場所。
「……怖いけれど」
それでも、目を背けたいとは思わなかった。
過去の自分は、
“幼いから”“未熟だから”と、
意見を持つ前に退けられてきた。
だが今は違う。
この国では、
年齢でも、外見でもなく、考えで向き合われる。
それは、甘い未来ではない。
だが、誠実な未来だ。
「……もう、戻れませんね」
元いた場所へ。
外見で測られる世界へ。
そう呟いて、ふっと笑う。
未練は、なかった。
この滞在は、
恋をするための時間ではない。
――人生を、選ぶための時間だ。
シルフィーネは、窓の外に広がるノルディアの夜を見つめながら、
自分の中で静かに形作られていく“答え”を、確かに感じていた。
ノルディア滞在も、数日が過ぎていた。
城内での案内、城下の視察、執務官との形式ばらない顔合わせ。
どれも“賓客向けの見学”というより、意見を持つ前提で用意された時間だった。
それが、シルフィーネには心地よい。
「……質問しても、いいですか?」
この日、エドワルドにそう切り出したのは、執務室の一角で地図を眺めていたときだった。
「もちろん」
即答が返る。
「ノルディアでは、王太子妃――いえ、将来の王妃に、
どこまでの役割を求めているのですか?」
踏み込んだ問いだ。
遠回しな探りではない。
エドワルドは、少しだけ考え、それから答えた。
「立場によって異なります」
曖昧な答えではない。
前提条件を示す、誠実な言い方だ。
「象徴であることを望む者もいる。
外交の場に立つ者もいる。
内政に関わる者も、稀ではありません」
地図から視線を上げ、彼女を見る。
「ただし、共通しているのは――
“黙って従う存在ではない”ということです」
その言葉に、シルフィーネの胸が静かに震えた。
「……反対意見も、言えるのですね」
「当然です」
エドワルドは、当然のように言った。
「伴侶とは、補佐ではなく、対話相手ですから」
その一言は、彼女が長く求めていた答えだった。
*
午後、城の図書棟を案内された。
蔵書は多くはないが、無駄がない。
実務書、歴史書、法令集が中心だ。
「……物語が少ないですね」
「娯楽は、別の形で取ります」
エドワルドは、苦笑気味に言う。
「ただし、必要なら取り入れる。
“役に立たないから不要”とは考えません」
その柔軟さに、思わず笑みが浮かぶ。
「殿下は……思っていたより、頑固ではありませんね」
「それは、誉め言葉でしょうか」
「ええ。とても」
二人の間に、自然な空気が流れる。
緊張も、遠慮もない。
だが、馴れ合いでもない。
――これが、対等。
シルフィーネは、はっきりと理解した。
*
その夜、客室で一人になった彼女は、机に向かっていた。
「……私は、ここでなら」
言葉にしながら、思考を整理する。
選ばれるために、装う必要はない。
拒絶されないために、黙る必要もない。
意見を持ち、考え、違うなら違うと言う。
それを“厄介”ではなく、“価値”として扱う場所。
「……怖いけれど」
それでも、目を背けたいとは思わなかった。
過去の自分は、
“幼いから”“未熟だから”と、
意見を持つ前に退けられてきた。
だが今は違う。
この国では、
年齢でも、外見でもなく、考えで向き合われる。
それは、甘い未来ではない。
だが、誠実な未来だ。
「……もう、戻れませんね」
元いた場所へ。
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そう呟いて、ふっと笑う。
未練は、なかった。
この滞在は、
恋をするための時間ではない。
――人生を、選ぶための時間だ。
シルフィーネは、窓の外に広がるノルディアの夜を見つめながら、
自分の中で静かに形作られていく“答え”を、確かに感じていた。
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