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第25話 帰る場所、進む場所
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第25話 帰る場所、進む場所
会議への同席から一夜明けた朝。
シルフィーネは、久しぶりに何も予定のない時間を与えられていた。
窓辺に立ち、ノルディアの街を見下ろす。
規則正しく動く人々。
必要な言葉だけが交わされ、無駄な視線が絡まない空気。
「……落ち着きますね」
思わず、そう呟いていた。
この国に来てから、自分が「飾られていない」ことに、何度も救われている。
*
午前中、公爵家からの書簡が届いた。
母の筆跡。
開いた瞬間、懐かしい匂いがする気がした。
> 体調は大丈夫?
王都では、あなたの話題で持ちきりです。
けれど、不思議と心配はしていません。
今のあなたなら、大丈夫だと分かるから。
短い文面。
だが、そこには揺るぎない信頼があった。
「……帰る場所は、ちゃんとありますね」
胸の奥が、じんわりと温かくなる。
逃げてきたのではない。
切り捨てたわけでもない。
戻れる場所があるからこそ、
前に進める。
*
午後、エドワルドから呼び出しがあった。
案内されたのは、城の中でも高台に近い回廊。
外がよく見える場所だ。
「昨日の件ですが」
彼は、唐突に切り出した。
「正式な決定は、数日後になります。
ですが――あなたの意見は、確かに残りました」
それは、評価ではない。
事実の共有だ。
「……それで十分です」
シルフィーネは、素直に答えた。
「採用されなくても、構いません。
考える材料になったのなら」
エドワルドは、少しだけ目を細めた。
「……やはり、欲がない」
「欲は、あります」
否定する。
「ただ、“自分の存在を証明したい欲”ではありません」
静かな言葉。
「私は、自分がどう在りたいかを確かめたいだけです」
エドワルドは、しばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「……あなたは、ここに留まることもできます」
それは、試すような言葉だった。
「国として、立場を用意することも可能です」
――魅力的な提案。
だが。
「即答は、できません」
シルフィーネは、はっきりと言った。
「私には、まだ整理すべき過去と、
見届けるべき結末があります」
彼女は、視線を遠くに向ける。
ライオネルのこと。
アメリアのこと。
そして、自分が生まれ育った国の行方。
「……逃げないのですね」
「ええ」
エドワルドの言葉に、微笑みで返す。
「ここに来たのも、
逃げるためではありませんから」
*
夕暮れ。
回廊を一人で歩きながら、シルフィーネは考えていた。
ここは、心地よい場所だ。
だが、だからこそ――。
「……選ばなければいけませんね」
帰る場所と、進む場所。
どちらも、捨てる必要はない。
けれど、順番はある。
今はまだ、
自分の物語の途中なのだ。
彼女は、ゆっくりと歩みを止め、深く息を吸った。
この滞在は、
終着点ではない。
だが、確実に――
次の選択肢を与えてくれた場所だった。
シルフィーネは、その事実を胸に刻みながら、
静かに夜へと向かっていった。
会議への同席から一夜明けた朝。
シルフィーネは、久しぶりに何も予定のない時間を与えられていた。
窓辺に立ち、ノルディアの街を見下ろす。
規則正しく動く人々。
必要な言葉だけが交わされ、無駄な視線が絡まない空気。
「……落ち着きますね」
思わず、そう呟いていた。
この国に来てから、自分が「飾られていない」ことに、何度も救われている。
*
午前中、公爵家からの書簡が届いた。
母の筆跡。
開いた瞬間、懐かしい匂いがする気がした。
> 体調は大丈夫?
王都では、あなたの話題で持ちきりです。
けれど、不思議と心配はしていません。
今のあなたなら、大丈夫だと分かるから。
短い文面。
だが、そこには揺るぎない信頼があった。
「……帰る場所は、ちゃんとありますね」
胸の奥が、じんわりと温かくなる。
逃げてきたのではない。
切り捨てたわけでもない。
戻れる場所があるからこそ、
前に進める。
*
午後、エドワルドから呼び出しがあった。
案内されたのは、城の中でも高台に近い回廊。
外がよく見える場所だ。
「昨日の件ですが」
彼は、唐突に切り出した。
「正式な決定は、数日後になります。
ですが――あなたの意見は、確かに残りました」
それは、評価ではない。
事実の共有だ。
「……それで十分です」
シルフィーネは、素直に答えた。
「採用されなくても、構いません。
考える材料になったのなら」
エドワルドは、少しだけ目を細めた。
「……やはり、欲がない」
「欲は、あります」
否定する。
「ただ、“自分の存在を証明したい欲”ではありません」
静かな言葉。
「私は、自分がどう在りたいかを確かめたいだけです」
エドワルドは、しばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「……あなたは、ここに留まることもできます」
それは、試すような言葉だった。
「国として、立場を用意することも可能です」
――魅力的な提案。
だが。
「即答は、できません」
シルフィーネは、はっきりと言った。
「私には、まだ整理すべき過去と、
見届けるべき結末があります」
彼女は、視線を遠くに向ける。
ライオネルのこと。
アメリアのこと。
そして、自分が生まれ育った国の行方。
「……逃げないのですね」
「ええ」
エドワルドの言葉に、微笑みで返す。
「ここに来たのも、
逃げるためではありませんから」
*
夕暮れ。
回廊を一人で歩きながら、シルフィーネは考えていた。
ここは、心地よい場所だ。
だが、だからこそ――。
「……選ばなければいけませんね」
帰る場所と、進む場所。
どちらも、捨てる必要はない。
けれど、順番はある。
今はまだ、
自分の物語の途中なのだ。
彼女は、ゆっくりと歩みを止め、深く息を吸った。
この滞在は、
終着点ではない。
だが、確実に――
次の選択肢を与えてくれた場所だった。
シルフィーネは、その事実を胸に刻みながら、
静かに夜へと向かっていった。
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