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第26話 帰国の決断
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第26話 帰国の決断
ノルディアでの滞在も、終わりが見え始めていた。
城内での案内は一巡し、視察も、対話も、必要なものはすでに与えられている。
あとは――自分が、どうするか。
「……考えは、まとまりましたか?」
夕刻、エドワルドは静かに問いかけた。
場所は、初めて対話を交わした小広間だ。
「はい」
シルフィーネは、迷いなく答えた。
「私は、一度帰国します」
一瞬、沈黙が落ちる。
だが、それは落胆ではなかった。
「理由を、聞いても?」
「ええ」
彼女は、きちんと顔を上げる。
「ここに留まる選択肢は、確かに魅力的です。
私を“外見”ではなく、“考え”で見てくれる国。
対話が成立する場所」
だからこそ、と続けた。
「……このまま留まってしまえば、
私は“逃げた”ことになってしまう」
エドワルドは、何も言わずに聞いている。
「私の過去は、まだ終わっていません。
婚約破棄も、事故も、
それを取り巻く人々の行く末も」
それらすべてを曖昧なままにして、
新しい場所へ移ることはできない。
「私は、自分の人生を“途中で切り替える”ことを、
もうしたくないのです」
沈黙。
やがて、エドワルドが小さく頷いた。
「……それが、あなたの選択ですね」
「はい」
「止めるつもりはありません」
彼は、はっきりと言った。
「むしろ――安心しました」
「安心、ですか?」
「ええ」
エドワルドは、穏やかに微笑む。
「あなたが、
“居心地の良さ”だけで決断する人ではないと、
改めて分かったから」
その言葉に、胸の奥が温かくなる。
*
出立の準備は、静かに進んだ。
大げさな見送りはない。
形式ばった儀礼も、最小限。
だが、最後の別れ際、エドワルドは一つだけ言葉を残した。
「次に会うときは」
少しだけ、間を置く。
「“賓客”としてではなく、
あなた自身の意思で、ここに立っていてほしい」
それは、約束ではない。
命令でもない。
――選択肢だ。
「……分かりました」
シルフィーネは、静かに頷いた。
「そのときは、
私も、はっきりと答えを持って来ます」
エドワルドは、満足そうに目を細めた。
*
馬車が、王城を離れる。
振り返ることは、しなかった。
ノルディアで得たものは、
景色でも、立場でもない。
――自分が、どんな場所で生きたいのか。
その輪郭を、はっきりと掴めたこと。
「……帰りましょう」
呟いた声は、軽かった。
戻る場所があるからこそ、
選び直すことができる。
シルフィーネは、前を向いて座り直す。
帰国は、後退ではない。
決着をつけるための、前進だ。
彼女の物語は、
いよいよ――最終章へ向かって動き出そうとしていた。
ノルディアでの滞在も、終わりが見え始めていた。
城内での案内は一巡し、視察も、対話も、必要なものはすでに与えられている。
あとは――自分が、どうするか。
「……考えは、まとまりましたか?」
夕刻、エドワルドは静かに問いかけた。
場所は、初めて対話を交わした小広間だ。
「はい」
シルフィーネは、迷いなく答えた。
「私は、一度帰国します」
一瞬、沈黙が落ちる。
だが、それは落胆ではなかった。
「理由を、聞いても?」
「ええ」
彼女は、きちんと顔を上げる。
「ここに留まる選択肢は、確かに魅力的です。
私を“外見”ではなく、“考え”で見てくれる国。
対話が成立する場所」
だからこそ、と続けた。
「……このまま留まってしまえば、
私は“逃げた”ことになってしまう」
エドワルドは、何も言わずに聞いている。
「私の過去は、まだ終わっていません。
婚約破棄も、事故も、
それを取り巻く人々の行く末も」
それらすべてを曖昧なままにして、
新しい場所へ移ることはできない。
「私は、自分の人生を“途中で切り替える”ことを、
もうしたくないのです」
沈黙。
やがて、エドワルドが小さく頷いた。
「……それが、あなたの選択ですね」
「はい」
「止めるつもりはありません」
彼は、はっきりと言った。
「むしろ――安心しました」
「安心、ですか?」
「ええ」
エドワルドは、穏やかに微笑む。
「あなたが、
“居心地の良さ”だけで決断する人ではないと、
改めて分かったから」
その言葉に、胸の奥が温かくなる。
*
出立の準備は、静かに進んだ。
大げさな見送りはない。
形式ばった儀礼も、最小限。
だが、最後の別れ際、エドワルドは一つだけ言葉を残した。
「次に会うときは」
少しだけ、間を置く。
「“賓客”としてではなく、
あなた自身の意思で、ここに立っていてほしい」
それは、約束ではない。
命令でもない。
――選択肢だ。
「……分かりました」
シルフィーネは、静かに頷いた。
「そのときは、
私も、はっきりと答えを持って来ます」
エドワルドは、満足そうに目を細めた。
*
馬車が、王城を離れる。
振り返ることは、しなかった。
ノルディアで得たものは、
景色でも、立場でもない。
――自分が、どんな場所で生きたいのか。
その輪郭を、はっきりと掴めたこと。
「……帰りましょう」
呟いた声は、軽かった。
戻る場所があるからこそ、
選び直すことができる。
シルフィーネは、前を向いて座り直す。
帰国は、後退ではない。
決着をつけるための、前進だ。
彼女の物語は、
いよいよ――最終章へ向かって動き出そうとしていた。
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