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第36話 自分の言葉で立つ
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第36話 自分の言葉で立つ
翌朝、シルフィーネは城内の小さな会議室に呼ばれていた。
とはいえ、正式な会議ではない。
集まっているのは、エドワルドの側近数名と、実務官が二人。
――“評価の場”ではないと、空気が語っていた。
*
「本日は、
殿下の提案でお時間をいただきました」
年配の実務官が、穏やかに切り出す。
「我々は、
あなたを“未来の妃候補”としてではなく、
“一人の対話者”として招いています」
シルフィーネは、静かに頷いた。
「承知しています」
だからこそ、ここにいる。
*
議題は、難しいものではなかった。
近年、ノルディアに流入する移民への対応。
労働力としての受け入れと、文化摩擦。
どの国でも起こりうる問題だ。
「……率直に伺います」
若い実務官が、少し緊張した様子で言う。
「もし、あなたがこの国に留まるなら、
この問題をどう捉えますか?」
仮定の話。
だが、試す意図は隠していない。
シルフィーネは、すぐには答えなかった。
考える時間を、遠慮なく使う。
「……私なら」
ゆっくりと、言葉を選ぶ。
「“解決する側”に、
自分を置こうとは思いません」
側近の一人が、わずかに眉を動かす。
「なぜですか?」
「私は、
この国で育った人間ではないからです」
当然の事実を、当然のように言う。
「外から来た者が、
正解を示すことはできません」
だが、と続けた。
「だからこそ、
“問いを整理する役”にはなれると思います」
*
「整理、ですか」
「ええ」
シルフィーネは、視線を一人一人に向ける。
「受け入れるか、拒むか、ではなく――
“どこで摩擦が起きているのか”を
言葉にする」
沈黙が落ちる。
それは、拒絶ではない。
「移民の側か、
受け入れる側か、
どちらが悪いかを決める前に」
一拍、置く。
「何が不安で、
何が誤解で、
何が制度の不足なのか」
それを、
“誰の言葉で語るか”が重要だ。
*
「……あなたは、
随分と距離を取りますね」
年配の実務官が、興味深そうに言った。
「ええ」
肯定する。
「感情的な正義は、
一時的には心地よいですが、
長くは続きません」
それは、
彼女自身が学んできたことだった。
「私は、
拍手される役割よりも、
摩擦を減らす役割を選びます」
*
しばらくして、エドワルドが口を開いた。
「……十分です」
それ以上、掘り下げない。
評価も、賛辞もない。
だが、その沈黙こそが、
何よりの答えだった。
*
会が終わり、廊下を歩きながら、
エドワルドが隣に並ぶ。
「……疲れましたか?」
「少し」
正直に答える。
「でも、
自分の言葉で立てました」
その言葉に、彼は微笑んだ。
「それが、一番大切です」
*
客室に戻り、シルフィーネは深く息を吐いた。
誰かの代弁ではない。
誰かの期待でもない。
自分の言葉で考え、
自分の距離感で関わる。
「……私は」
小さく呟く。
「もう、
“誰かに合わせて立つ場所”には戻れない」
それは、
孤立ではない。
自立だ。
そしてその感覚は、
彼女に静かな確信を与えていた。
――この先、どんな選択をしても、
私は、私の言葉で立てる。
その事実こそが、
何よりの支えになっていた。
翌朝、シルフィーネは城内の小さな会議室に呼ばれていた。
とはいえ、正式な会議ではない。
集まっているのは、エドワルドの側近数名と、実務官が二人。
――“評価の場”ではないと、空気が語っていた。
*
「本日は、
殿下の提案でお時間をいただきました」
年配の実務官が、穏やかに切り出す。
「我々は、
あなたを“未来の妃候補”としてではなく、
“一人の対話者”として招いています」
シルフィーネは、静かに頷いた。
「承知しています」
だからこそ、ここにいる。
*
議題は、難しいものではなかった。
近年、ノルディアに流入する移民への対応。
労働力としての受け入れと、文化摩擦。
どの国でも起こりうる問題だ。
「……率直に伺います」
若い実務官が、少し緊張した様子で言う。
「もし、あなたがこの国に留まるなら、
この問題をどう捉えますか?」
仮定の話。
だが、試す意図は隠していない。
シルフィーネは、すぐには答えなかった。
考える時間を、遠慮なく使う。
「……私なら」
ゆっくりと、言葉を選ぶ。
「“解決する側”に、
自分を置こうとは思いません」
側近の一人が、わずかに眉を動かす。
「なぜですか?」
「私は、
この国で育った人間ではないからです」
当然の事実を、当然のように言う。
「外から来た者が、
正解を示すことはできません」
だが、と続けた。
「だからこそ、
“問いを整理する役”にはなれると思います」
*
「整理、ですか」
「ええ」
シルフィーネは、視線を一人一人に向ける。
「受け入れるか、拒むか、ではなく――
“どこで摩擦が起きているのか”を
言葉にする」
沈黙が落ちる。
それは、拒絶ではない。
「移民の側か、
受け入れる側か、
どちらが悪いかを決める前に」
一拍、置く。
「何が不安で、
何が誤解で、
何が制度の不足なのか」
それを、
“誰の言葉で語るか”が重要だ。
*
「……あなたは、
随分と距離を取りますね」
年配の実務官が、興味深そうに言った。
「ええ」
肯定する。
「感情的な正義は、
一時的には心地よいですが、
長くは続きません」
それは、
彼女自身が学んできたことだった。
「私は、
拍手される役割よりも、
摩擦を減らす役割を選びます」
*
しばらくして、エドワルドが口を開いた。
「……十分です」
それ以上、掘り下げない。
評価も、賛辞もない。
だが、その沈黙こそが、
何よりの答えだった。
*
会が終わり、廊下を歩きながら、
エドワルドが隣に並ぶ。
「……疲れましたか?」
「少し」
正直に答える。
「でも、
自分の言葉で立てました」
その言葉に、彼は微笑んだ。
「それが、一番大切です」
*
客室に戻り、シルフィーネは深く息を吐いた。
誰かの代弁ではない。
誰かの期待でもない。
自分の言葉で考え、
自分の距離感で関わる。
「……私は」
小さく呟く。
「もう、
“誰かに合わせて立つ場所”には戻れない」
それは、
孤立ではない。
自立だ。
そしてその感覚は、
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――この先、どんな選択をしても、
私は、私の言葉で立てる。
その事実こそが、
何よりの支えになっていた。
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