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第1話 婚約破棄宣告
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第1話 婚約破棄宣告
王宮の大広間は、祝祭の光に満ちていた。
天井から吊るされた魔導灯が淡く輝き、磨き上げられた床には貴族たちの衣装が映り込んでいる。
今夜は王太子レヴァンテ主催の舞踏会――本来であれば、彼の婚約者である私、エリーカ・フォルティスが隣に立つはずの場だった。
……いいえ、「はず」だった、という表現がもう正しいのかもしれない。
「皆に、聞いてもらいたいことがある」
ざわめきの中、レヴァンテ殿下が一歩前へ出た。
自信に満ちた声。少し芝居がかった仕草。
――ああ、この流れは知っている。
貴族たちの視線が、一斉に私へと集まった。
「エリーカ・フォルティス。君との婚約を、ここに正式に破棄する」
一瞬、時が止まったように感じた。
次の瞬間、大広間がざわりと揺れる。
驚き、好奇、同情、そして――期待。
社交界は、こういう瞬間を何より好む。
「理由は簡単だ。君は――完璧すぎる」
レヴァンテ殿下は、まるで困った子どもを諭すように続けた。
「政治、財務、外交……すべてをそつなくこなす。だがな、エリーカ。
君には“癒やし”がない。王太子妃として、男を支える柔らかさが欠けている」
――なるほど。
私は内心で、静かに頷いた。
要するに、仕事ができすぎて邪魔だった、ということだ。
「私は……!」
殿下の隣から、一人の少女が一歩前に出る。
質素なドレス。控えめな化粧。
だが、その表情は計算し尽くされた“純真”そのものだった。
「私、殿下をお支えしたいだけなんです。
エリーカ様のように難しいことはできませんけれど……」
涙を浮かべ、震える声。
貴族たちから、感嘆のため息が漏れる。
「彼女こそ、私が守りたい女性だ」
レヴァンテ殿下はそう言って、少女の肩を抱いた。
――完璧な構図だった。
才女で冷たい婚約者。
可憐で守ってあげたい平民の少女。
そして、決断する王太子。
物語としては、実にわかりやすい。
だから私は、役割を果たすことにした。
ゆっくりと目を伏せ、肩を震わせる。
唇を噛みしめ、涙を一筋だけ頬に落とす。
「……殿下のお考え、承知いたしました」
自分でも驚くほど、声は震えていた。
演技としては、及第点だろう。
「エリーカ……」
「これまで、お仕えできたことを誇りに思います」
私は深く頭を下げた。
完璧な令嬢の、完璧な別れの挨拶。
大広間には、同情と賞賛の視線が降り注ぐ。
――ええ、それでいい。
(これで、終わり)
胸の奥に広がったのは、悲しみではなかった。
解放感。
そして、静かな安堵。
もう、王国のために夜を徹して書類をまとめる必要もない。
誰かの失策を、私が尻拭いする必要もない。
私は、自由になったのだ。
「エリーカ・フォルティス。君には王都を離れてもらう」
追い打ちのように告げられた処遇に、貴族たちが息を呑む。
事実上の追放だ。
けれど私は、顔を上げ、微笑んだ。
「承知いたしました。どうか、皆様のご多幸を」
完璧な別れ。
完璧な幕引き。
――そして、誰も気づかなかった。
この瞬間、
王国が何を失ったのかを。
(婚約破棄、ありがとうございます)
心の中でそう呟きながら、私は静かに大広間を後にした。
ここからが、私の人生なのだから。
---
王宮の大広間は、祝祭の光に満ちていた。
天井から吊るされた魔導灯が淡く輝き、磨き上げられた床には貴族たちの衣装が映り込んでいる。
今夜は王太子レヴァンテ主催の舞踏会――本来であれば、彼の婚約者である私、エリーカ・フォルティスが隣に立つはずの場だった。
……いいえ、「はず」だった、という表現がもう正しいのかもしれない。
「皆に、聞いてもらいたいことがある」
ざわめきの中、レヴァンテ殿下が一歩前へ出た。
自信に満ちた声。少し芝居がかった仕草。
――ああ、この流れは知っている。
貴族たちの視線が、一斉に私へと集まった。
「エリーカ・フォルティス。君との婚約を、ここに正式に破棄する」
一瞬、時が止まったように感じた。
次の瞬間、大広間がざわりと揺れる。
驚き、好奇、同情、そして――期待。
社交界は、こういう瞬間を何より好む。
「理由は簡単だ。君は――完璧すぎる」
レヴァンテ殿下は、まるで困った子どもを諭すように続けた。
「政治、財務、外交……すべてをそつなくこなす。だがな、エリーカ。
君には“癒やし”がない。王太子妃として、男を支える柔らかさが欠けている」
――なるほど。
私は内心で、静かに頷いた。
要するに、仕事ができすぎて邪魔だった、ということだ。
「私は……!」
殿下の隣から、一人の少女が一歩前に出る。
質素なドレス。控えめな化粧。
だが、その表情は計算し尽くされた“純真”そのものだった。
「私、殿下をお支えしたいだけなんです。
エリーカ様のように難しいことはできませんけれど……」
涙を浮かべ、震える声。
貴族たちから、感嘆のため息が漏れる。
「彼女こそ、私が守りたい女性だ」
レヴァンテ殿下はそう言って、少女の肩を抱いた。
――完璧な構図だった。
才女で冷たい婚約者。
可憐で守ってあげたい平民の少女。
そして、決断する王太子。
物語としては、実にわかりやすい。
だから私は、役割を果たすことにした。
ゆっくりと目を伏せ、肩を震わせる。
唇を噛みしめ、涙を一筋だけ頬に落とす。
「……殿下のお考え、承知いたしました」
自分でも驚くほど、声は震えていた。
演技としては、及第点だろう。
「エリーカ……」
「これまで、お仕えできたことを誇りに思います」
私は深く頭を下げた。
完璧な令嬢の、完璧な別れの挨拶。
大広間には、同情と賞賛の視線が降り注ぐ。
――ええ、それでいい。
(これで、終わり)
胸の奥に広がったのは、悲しみではなかった。
解放感。
そして、静かな安堵。
もう、王国のために夜を徹して書類をまとめる必要もない。
誰かの失策を、私が尻拭いする必要もない。
私は、自由になったのだ。
「エリーカ・フォルティス。君には王都を離れてもらう」
追い打ちのように告げられた処遇に、貴族たちが息を呑む。
事実上の追放だ。
けれど私は、顔を上げ、微笑んだ。
「承知いたしました。どうか、皆様のご多幸を」
完璧な別れ。
完璧な幕引き。
――そして、誰も気づかなかった。
この瞬間、
王国が何を失ったのかを。
(婚約破棄、ありがとうございます)
心の中でそう呟きながら、私は静かに大広間を後にした。
ここからが、私の人生なのだから。
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