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第5話 元婚約者の勘違い
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第5話 元婚約者の勘違い
数日が過ぎても、王宮の混乱は収まらなかった。
書類は減らず、判断は遅れ、会議は長引くばかり。
それでもレヴァンテは、表向きには余裕の笑みを崩していなかった。
「少し慌ただしいだけだ」
側近たちにそう言い切り、彼は椅子に深く腰掛ける。
「今までが、エリーカに頼りすぎていただけだ。
これからは、正しい形に戻る」
――正しい形。
その言葉に、側近たちは互いに視線を交わしたが、誰も反論しなかった。
「そもそもだ」
レヴァンテは腕を組み、どこか満足げに続ける。
「彼女は完璧すぎた。
だからこそ、失敗を想定せず、他人を育てようともしなかった」
(……違います)
喉まで出かかった言葉を、側近は必死で飲み込んだ。
エリーカは何度も引き継ぎを提案していた。
仕事を分担しようとし、誰に何を任せればいいかまで整えていた。
――それを、殿下が「面倒だ」と退けていただけなのだが。
「まあ、すぐにわかるだろう」
レヴァンテは、ふっと口角を上げた。
「エリーカは、誇り高い女だ。
王都を離れろと言われて、黙って耐えられるはずがない」
彼の脳裏には、都合のいい未来が描かれていた。
――数週間後。
困り果てたエリーカが王宮に戻り、涙ながらに頭を下げる。
『殿下……私が間違っていました』
そう言って縋りつく彼女を、寛大に許す自分。
「その時は……」
レヴァンテは、独り言のように呟く。
「王太子妃ではなく、顧問として雇ってやってもいい」
それは、彼なりの“譲歩”だった。
だが、その認識がどれほど傲慢なものか、
彼自身は気づいていない。
その日の午後。
「殿下、南部領からの返答が……」
「後だ。今は忙しい」
「商人ギルドが面会を――」
「日を改めろ」
苛立ちが、少しずつ声に滲み始める。
そんな彼を、隣で見つめる平民の恋人は、不安そうに眉を下げていた。
「殿下……お疲れではありませんか?」
その声に、レヴァンテの表情が和らぐ。
「大丈夫だ。君がいてくれれば」
そう言って、彼女の手を取る。
――癒やし。
彼が求めていたもの。
だが、書類は癒やされても処理されない。
夜。
ようやく一息ついたレヴァンテは、ふと窓の外を見やった。
「……そろそろだな」
誰にともなく、呟く。
「エリーカも、現実を思い知った頃だろう」
王都を離れた令嬢が、
寒く、不便で、孤独な生活に耐えられず、後悔している――
そんな想像を、疑いもしなかった。
だが、その頃。
エリーカはすでに、
静かに、着実に、次の人生へと歩み始めていた。
――元婚約者の期待など、
最初から、計算にも入れずに。
数日が過ぎても、王宮の混乱は収まらなかった。
書類は減らず、判断は遅れ、会議は長引くばかり。
それでもレヴァンテは、表向きには余裕の笑みを崩していなかった。
「少し慌ただしいだけだ」
側近たちにそう言い切り、彼は椅子に深く腰掛ける。
「今までが、エリーカに頼りすぎていただけだ。
これからは、正しい形に戻る」
――正しい形。
その言葉に、側近たちは互いに視線を交わしたが、誰も反論しなかった。
「そもそもだ」
レヴァンテは腕を組み、どこか満足げに続ける。
「彼女は完璧すぎた。
だからこそ、失敗を想定せず、他人を育てようともしなかった」
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仕事を分担しようとし、誰に何を任せればいいかまで整えていた。
――それを、殿下が「面倒だ」と退けていただけなのだが。
「まあ、すぐにわかるだろう」
レヴァンテは、ふっと口角を上げた。
「エリーカは、誇り高い女だ。
王都を離れろと言われて、黙って耐えられるはずがない」
彼の脳裏には、都合のいい未来が描かれていた。
――数週間後。
困り果てたエリーカが王宮に戻り、涙ながらに頭を下げる。
『殿下……私が間違っていました』
そう言って縋りつく彼女を、寛大に許す自分。
「その時は……」
レヴァンテは、独り言のように呟く。
「王太子妃ではなく、顧問として雇ってやってもいい」
それは、彼なりの“譲歩”だった。
だが、その認識がどれほど傲慢なものか、
彼自身は気づいていない。
その日の午後。
「殿下、南部領からの返答が……」
「後だ。今は忙しい」
「商人ギルドが面会を――」
「日を改めろ」
苛立ちが、少しずつ声に滲み始める。
そんな彼を、隣で見つめる平民の恋人は、不安そうに眉を下げていた。
「殿下……お疲れではありませんか?」
その声に、レヴァンテの表情が和らぐ。
「大丈夫だ。君がいてくれれば」
そう言って、彼女の手を取る。
――癒やし。
彼が求めていたもの。
だが、書類は癒やされても処理されない。
夜。
ようやく一息ついたレヴァンテは、ふと窓の外を見やった。
「……そろそろだな」
誰にともなく、呟く。
「エリーカも、現実を思い知った頃だろう」
王都を離れた令嬢が、
寒く、不便で、孤独な生活に耐えられず、後悔している――
そんな想像を、疑いもしなかった。
だが、その頃。
エリーカはすでに、
静かに、着実に、次の人生へと歩み始めていた。
――元婚約者の期待など、
最初から、計算にも入れずに。
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