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第14話 領地改革の始動
しおりを挟む朝の執務室には、いつもより多くの地図が広げられていた。
北部領、中央商業区、港湾都市――
それぞれに異なる色の印が打たれ、問題点が一目でわかるよう整理されている。
「……これは」
側近の一人が、思わず声を漏らした。
「現状分析です」
私は淡々と答える。
「物流、税制、雇用。
個別に見ると些細ですが、連動すると歪みが増幅します」
視線を上げると、全員が地図に釘付けになっていた。
「今までは、“問題が起きてから対処”していました。
ですが――」
私は別の地図を重ねる。
「これからは、“起きないようにする”方針に切り替えます」
室内が、静まり返る。
それは、単なる改善ではない。
改革だ。
「具体的には?」
アンクレイブが問いかける。
「三本柱で進めます」
私は指を立てた。
「一つ目。物流の再編。
主要ルートを固定せず、季節と需要で柔軟に切り替える」
「二つ目。税制の見直し。
短期的な徴収ではなく、定着と拡大を優先します」
「三つ目。人材です」
この言葉に、側近たちの表情が引き締まった。
「領地の問題は、仕組みではなく“人”が止めています。
適材適所に配置し直します」
「……反発が出るぞ」
誰かが慎重に言う。
「ええ、出ます」
私は即答した。
「ですが、数字で押し切れます」
机に置いた資料を示す。
「改革後一年で、税収は一割増。
三年で二割。
住民の流出も止まります」
――具体的すぎる未来予測。
側近たちは、反論できなかった。
アンクレイブは、しばらく黙って資料を読み込んでいた。
やがて、顔を上げる。
「……この改革、誰が指揮を執る」
一瞬の沈黙。
私は答える前に、彼をまっすぐ見た。
「私です」
その場の空気が、ぴんと張り詰める。
公爵夫人が、改革の総責任者。
前例は、ほとんどない。
だが、アンクレイブは迷わなかった。
「認める」
短く、しかしはっきりと。
「全権を君に委ねる」
側近たちが息を呑む。
「異論は受け付けない。
成果で判断する」
それが、この国のやり方だった。
私は一礼する。
「期待に応えます」
その言葉に、虚飾はない。
午後から、改革は動き出した。
各領地への通達。
担当者の入れ替え。
試験的な新制度の導入。
反発の声も、確かにあった。
「公爵夫人の思いつきだろう」
「机上の空論だ」
――だが。
「……数字が、違う」 「物流が、もう改善している」
結果は、早かった。
夕刻。
アンクレイブは、執務室で一人、地図を眺めていた。
「……面白い」
ぽつりと漏れた言葉は、
興味であり、信頼であり、
そして――
彼自身もまだ気づいていない、感情の芽だった。
エリーカ・フォン・グラーツ。
“追放された令嬢”は、今や――
この国の未来を動かし始めている。
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