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第20話 決定的な差
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第20話 決定的な差
王都の会議室は、重苦しい沈黙に包まれていた。
長い卓を囲む貴族たちの前に、最新の報告書が並べられている。
誰もが目を通しているが、口を開こうとしない。
「……グラーツ公国は、また成果を出したのか」
ようやく誰かが、乾いた声で言った。
「はい。
今回の商業改革で、周辺国との交易量が一気に増加しています」
担当官の説明は、淡々としていた。
「特に、意思決定の速度が異常です。
通常なら数ヶ月かかる調整が、数週間で完了しています」
視線が、自然とレヴァンテに集まる。
彼は、黙って資料を見つめていた。
(……速すぎる)
自分なら、こうはいかない。
反対派をなだめ、根回しをし、妥協点を探す。
それが“王都のやり方”だ。
だが、グラーツ公国は違う。
「公爵夫人が、すべての調整を一元化しています」
担当官の言葉が、追い打ちをかける。
「意見は聞くが、結論は即断。
責任の所在が明確なため、誰も動きを止められません」
――エリーカのやり方だ。
レヴァンテは、苦く思う。
かつて隣にいた彼女は、
常に先を読み、最善を提示していた。
それを、自分は――
「完璧すぎる」と、切り捨てた。
「……もし」
無意識に、口をついて出た言葉に、
周囲が一斉に振り向く。
「もし、彼女が王都に残っていたら……」
その先を、誰も言わせなかった。
言うまでもないからだ。
会議は、結論の出ないまま終わった。
散会後、レヴァンテは一人、回廊を歩く。
(もう、同じ場所にいない)
彼女は、隣国で“必要とされる存在”になった。
自分は、王都で“前例に縛られる存在”のまま。
――決定的な差。
その事実が、ようやく腹に落ちた。
一方、グラーツ公国。
私は執務室で、次の施策の資料に目を通していた。
「次は、教育制度ですね」
そう言うと、アンクレイブが小さく頷く。
「人材を育てなければ、改革は続かない」
「ええ。
短期的な成果だけでは、意味がありません」
視線が合う。
言葉は少ないが、意図は共有できている。
「……君は」
アンクレイブが、ふと口を開いた。
「ここで、どこまでやるつもりだ」
私は少しだけ考え、答えた。
「できるところまで」
そして、はっきりと言う。
「この国が、自立して回るまでです」
彼は、わずかに目を細めた。
「壮大だな」
「そうでしょうか」
私は微笑む。
「必要なことを、順番にやるだけです」
それは、野心ではない。
使命感ですらない。
――“今いる場所を、より良くする”。
ただ、それだけ。
その夜、王都では一つの結論が、静かに共有された。
『エリーカは、もう戻らない』
『そして、我々は――追いつけない』
だが当の本人は、
そんなことを知る由もなく。
次の改革に向けて、
静かにペンを走らせていた。
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王都の会議室は、重苦しい沈黙に包まれていた。
長い卓を囲む貴族たちの前に、最新の報告書が並べられている。
誰もが目を通しているが、口を開こうとしない。
「……グラーツ公国は、また成果を出したのか」
ようやく誰かが、乾いた声で言った。
「はい。
今回の商業改革で、周辺国との交易量が一気に増加しています」
担当官の説明は、淡々としていた。
「特に、意思決定の速度が異常です。
通常なら数ヶ月かかる調整が、数週間で完了しています」
視線が、自然とレヴァンテに集まる。
彼は、黙って資料を見つめていた。
(……速すぎる)
自分なら、こうはいかない。
反対派をなだめ、根回しをし、妥協点を探す。
それが“王都のやり方”だ。
だが、グラーツ公国は違う。
「公爵夫人が、すべての調整を一元化しています」
担当官の言葉が、追い打ちをかける。
「意見は聞くが、結論は即断。
責任の所在が明確なため、誰も動きを止められません」
――エリーカのやり方だ。
レヴァンテは、苦く思う。
かつて隣にいた彼女は、
常に先を読み、最善を提示していた。
それを、自分は――
「完璧すぎる」と、切り捨てた。
「……もし」
無意識に、口をついて出た言葉に、
周囲が一斉に振り向く。
「もし、彼女が王都に残っていたら……」
その先を、誰も言わせなかった。
言うまでもないからだ。
会議は、結論の出ないまま終わった。
散会後、レヴァンテは一人、回廊を歩く。
(もう、同じ場所にいない)
彼女は、隣国で“必要とされる存在”になった。
自分は、王都で“前例に縛られる存在”のまま。
――決定的な差。
その事実が、ようやく腹に落ちた。
一方、グラーツ公国。
私は執務室で、次の施策の資料に目を通していた。
「次は、教育制度ですね」
そう言うと、アンクレイブが小さく頷く。
「人材を育てなければ、改革は続かない」
「ええ。
短期的な成果だけでは、意味がありません」
視線が合う。
言葉は少ないが、意図は共有できている。
「……君は」
アンクレイブが、ふと口を開いた。
「ここで、どこまでやるつもりだ」
私は少しだけ考え、答えた。
「できるところまで」
そして、はっきりと言う。
「この国が、自立して回るまでです」
彼は、わずかに目を細めた。
「壮大だな」
「そうでしょうか」
私は微笑む。
「必要なことを、順番にやるだけです」
それは、野心ではない。
使命感ですらない。
――“今いる場所を、より良くする”。
ただ、それだけ。
その夜、王都では一つの結論が、静かに共有された。
『エリーカは、もう戻らない』
『そして、我々は――追いつけない』
だが当の本人は、
そんなことを知る由もなく。
次の改革に向けて、
静かにペンを走らせていた。
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