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第19話 取り戻せるはずだったもの
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第19話 取り戻せるはずだったもの
王都の夜は、落ち着かなかった。
レヴァンテは執務室で、一通の報告書を何度も読み返していた。
――グラーツ公国。
――改革、順調。
――公爵夫人エリーカ、中心人物。
「……おかしい」
ぽつりと漏れた声は、誰に向けたものでもない。
エリーカは、追い出されたはずだった。
完璧すぎて、扱いづらくて、感情のない女。
だから婚約を破棄した。
それが正しい判断だったと、思っていた。
「冷遇されているはずだった……」
そうでなければ、話が合わない。
隣国の冷徹公爵。
形式だけの婚約。
利用され、疲弊し、いずれ戻ってくる――
(その時に、俺が手を差し伸べれば)
そうすれば、過去の選択も正当化できる。
――はずだった。
「殿下」
控えめな声で、側近が口を開く。
「追加の情報がございます」
「言え」
「……グラーツ公国では、
公爵夫人が“改革責任者”として、全権を任されているそうです」
レヴァンテの指が、ぴくりと動いた。
「全権?」
「はい。
公爵アンクレイブ殿は、全面的に彼女を支持していると」
「……支持、だと?」
思わず、声が低くなる。
道具として使われているのではない。
飾りでもない。
――対等に、迎えられている。
「さらに……」
側近は一瞬、言葉を選んだ。
「公爵は、外部からの無礼な干渉を即座に排除しているそうです。
“夫として当然”だと」
その言葉が、胸に突き刺さる。
「……夫、として」
レヴァンテは、椅子にもたれかかった。
(そんなはずはない)
彼女は、感情のない女だった。
俺に従い、役割を果たす存在だった。
――そう、思い込んでいた。
「殿下……」
側近が、恐る恐る続ける。
「もはや、戻る余地は――」
「黙れ」
鋭い声が、空気を切った。
だが、否定の言葉は続かなかった。
頭の中で、過去の光景がよみがえる。
『殿下のために、最善を尽くします』
『必要であれば、私の感情は後回しで構いません』
あの頃のエリーカ。
――いや。
(違う)
感情を後回しにしていたのは、彼女自身ではない。
俺が、そうさせていただけだ。
「……俺は」
レヴァンテは、唇を噛んだ。
「何を、捨てたんだ……」
完璧すぎて、面倒だと思った女。
だがそれは――
隣に立てるだけの覚悟が、自分に足りなかっただけだ。
その夜、王都には新たな噂が流れ始めた。
『グラーツ公国、さらに税収増』
『公爵夫人、商業改革でも成果』
どれも、彼女が“失敗する未来”を否定するものばかり。
一方、グラーツ公国。
私は執務室で、新たな報告書に目を通していた。
「……順調ですね」
「そうだな」
アンクレイブは、短く答える。
「外野がどう騒ごうと、
こちらの進行には影響しない」
私は微笑んだ。
「ええ。
もう、過去に振り回される必要はありませんから」
その言葉に、彼はわずかに頷く。
かつて“取り戻せるはずだったもの”は、
すでに――
誰の手にも、届かない場所へ進んでいた。
---
王都の夜は、落ち着かなかった。
レヴァンテは執務室で、一通の報告書を何度も読み返していた。
――グラーツ公国。
――改革、順調。
――公爵夫人エリーカ、中心人物。
「……おかしい」
ぽつりと漏れた声は、誰に向けたものでもない。
エリーカは、追い出されたはずだった。
完璧すぎて、扱いづらくて、感情のない女。
だから婚約を破棄した。
それが正しい判断だったと、思っていた。
「冷遇されているはずだった……」
そうでなければ、話が合わない。
隣国の冷徹公爵。
形式だけの婚約。
利用され、疲弊し、いずれ戻ってくる――
(その時に、俺が手を差し伸べれば)
そうすれば、過去の選択も正当化できる。
――はずだった。
「殿下」
控えめな声で、側近が口を開く。
「追加の情報がございます」
「言え」
「……グラーツ公国では、
公爵夫人が“改革責任者”として、全権を任されているそうです」
レヴァンテの指が、ぴくりと動いた。
「全権?」
「はい。
公爵アンクレイブ殿は、全面的に彼女を支持していると」
「……支持、だと?」
思わず、声が低くなる。
道具として使われているのではない。
飾りでもない。
――対等に、迎えられている。
「さらに……」
側近は一瞬、言葉を選んだ。
「公爵は、外部からの無礼な干渉を即座に排除しているそうです。
“夫として当然”だと」
その言葉が、胸に突き刺さる。
「……夫、として」
レヴァンテは、椅子にもたれかかった。
(そんなはずはない)
彼女は、感情のない女だった。
俺に従い、役割を果たす存在だった。
――そう、思い込んでいた。
「殿下……」
側近が、恐る恐る続ける。
「もはや、戻る余地は――」
「黙れ」
鋭い声が、空気を切った。
だが、否定の言葉は続かなかった。
頭の中で、過去の光景がよみがえる。
『殿下のために、最善を尽くします』
『必要であれば、私の感情は後回しで構いません』
あの頃のエリーカ。
――いや。
(違う)
感情を後回しにしていたのは、彼女自身ではない。
俺が、そうさせていただけだ。
「……俺は」
レヴァンテは、唇を噛んだ。
「何を、捨てたんだ……」
完璧すぎて、面倒だと思った女。
だがそれは――
隣に立てるだけの覚悟が、自分に足りなかっただけだ。
その夜、王都には新たな噂が流れ始めた。
『グラーツ公国、さらに税収増』
『公爵夫人、商業改革でも成果』
どれも、彼女が“失敗する未来”を否定するものばかり。
一方、グラーツ公国。
私は執務室で、新たな報告書に目を通していた。
「……順調ですね」
「そうだな」
アンクレイブは、短く答える。
「外野がどう騒ごうと、
こちらの進行には影響しない」
私は微笑んだ。
「ええ。
もう、過去に振り回される必要はありませんから」
その言葉に、彼はわずかに頷く。
かつて“取り戻せるはずだったもの”は、
すでに――
誰の手にも、届かない場所へ進んでいた。
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