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第21話 視察団来訪
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第21話 視察団来訪
その知らせが届いたのは、改革開始からひと月ほど経った頃だった。
「隣国より、正式な視察団派遣の要請が届いています」
側近の報告に、執務室の空気が一瞬だけ変わる。
「視察、ですか?」
私は資料から目を上げた。
「はい。
物流改革と税制見直しについて、直接学びたいとのことです」
――学びたい。
その言葉に、わずかな感慨が湧く。
(少し前まで、こちらが“教えを請う側”だったのに)
アンクレイブは腕を組み、短く言った。
「受け入れる」
「よろしいのですか?」
「拒む理由がない。
むしろ、こちらの立場を明確にできる」
私は頷いた。
「では、受け入れ準備を進めます」
数日後。
グラーツ公国の港に、他国の旗を掲げた船が並んだ。
視察団の面々は、皆一様に緊張した面持ちで下船してくる。
「……想像以上だな」 「数字だけでは、ここまでとは……」
彼らの視線は、整備された港湾設備と、滞りなく動く人の流れに釘付けだった。
迎えに立った私に、視察団の代表が深く礼をする。
「公爵夫人エリーカ様。
本日は、このような機会をいただき、感謝いたします」
「ようこそ、グラーツ公国へ」
私は穏やかに微笑んだ。
「本日は、包み隠さずご案内します。
成功も、失敗も含めて」
その言葉に、代表は目を見開く。
「……失敗も、ですか?」
「ええ。
再現性のある改革には、必要ですから」
視察は、想像以上に実務的だった。
物流拠点。
税務処理の流れ。
人材配置の基準。
「なぜ、ここまで即断できるのです?」 「反対は、出なかったのですか?」
質問が、次々と飛ぶ。
「反対は、常にあります」
私は即答した。
「ですが、判断を先延ばしにする方が、
よほど大きな損失を生みます」
「責任は?」
「私が取ります」
それだけで、視察団は言葉を失った。
午後、執務室での意見交換。
「……正直に申し上げます」
代表が、深く息を吸って言う。
「貴国の改革は、我々の常識を覆しました」
「そうですか」
「ええ。
そして――」
一瞬、言葉を選びながら、続けた。
「公爵夫人が中心にいる理由が、よく分かりました」
その言葉に、周囲が静かに頷く。
私は、淡々と答えた。
「特別なことは、していません。
必要な判断を、必要な速度で行っているだけです」
それが、事実だった。
視察団が帰路についた後。
執務室には、私とアンクレイブだけが残った。
「……他国が、学びに来るとはな」
「ええ」
私は小さく息を吐いた。
「もう、“追放された令嬢”ではありませんね」
アンクレイブは、私を見る。
「最初から、そうではなかった」
その言葉に、胸の奥がわずかに温かくなる。
その日の夜、王都にも報告が届いた。
『グラーツ公国、他国の視察を受け入れ』
『中心人物は、公爵夫人エリーカ』
噂は、完全に形を変える。
――可哀想な令嬢、ではない。
――学ぶべき存在、だ。
そして私は、
そんな評価を意識することもなく。
次の改革案に、
静かに目を通していた。
---
その知らせが届いたのは、改革開始からひと月ほど経った頃だった。
「隣国より、正式な視察団派遣の要請が届いています」
側近の報告に、執務室の空気が一瞬だけ変わる。
「視察、ですか?」
私は資料から目を上げた。
「はい。
物流改革と税制見直しについて、直接学びたいとのことです」
――学びたい。
その言葉に、わずかな感慨が湧く。
(少し前まで、こちらが“教えを請う側”だったのに)
アンクレイブは腕を組み、短く言った。
「受け入れる」
「よろしいのですか?」
「拒む理由がない。
むしろ、こちらの立場を明確にできる」
私は頷いた。
「では、受け入れ準備を進めます」
数日後。
グラーツ公国の港に、他国の旗を掲げた船が並んだ。
視察団の面々は、皆一様に緊張した面持ちで下船してくる。
「……想像以上だな」 「数字だけでは、ここまでとは……」
彼らの視線は、整備された港湾設備と、滞りなく動く人の流れに釘付けだった。
迎えに立った私に、視察団の代表が深く礼をする。
「公爵夫人エリーカ様。
本日は、このような機会をいただき、感謝いたします」
「ようこそ、グラーツ公国へ」
私は穏やかに微笑んだ。
「本日は、包み隠さずご案内します。
成功も、失敗も含めて」
その言葉に、代表は目を見開く。
「……失敗も、ですか?」
「ええ。
再現性のある改革には、必要ですから」
視察は、想像以上に実務的だった。
物流拠点。
税務処理の流れ。
人材配置の基準。
「なぜ、ここまで即断できるのです?」 「反対は、出なかったのですか?」
質問が、次々と飛ぶ。
「反対は、常にあります」
私は即答した。
「ですが、判断を先延ばしにする方が、
よほど大きな損失を生みます」
「責任は?」
「私が取ります」
それだけで、視察団は言葉を失った。
午後、執務室での意見交換。
「……正直に申し上げます」
代表が、深く息を吸って言う。
「貴国の改革は、我々の常識を覆しました」
「そうですか」
「ええ。
そして――」
一瞬、言葉を選びながら、続けた。
「公爵夫人が中心にいる理由が、よく分かりました」
その言葉に、周囲が静かに頷く。
私は、淡々と答えた。
「特別なことは、していません。
必要な判断を、必要な速度で行っているだけです」
それが、事実だった。
視察団が帰路についた後。
執務室には、私とアンクレイブだけが残った。
「……他国が、学びに来るとはな」
「ええ」
私は小さく息を吐いた。
「もう、“追放された令嬢”ではありませんね」
アンクレイブは、私を見る。
「最初から、そうではなかった」
その言葉に、胸の奥がわずかに温かくなる。
その日の夜、王都にも報告が届いた。
『グラーツ公国、他国の視察を受け入れ』
『中心人物は、公爵夫人エリーカ』
噂は、完全に形を変える。
――可哀想な令嬢、ではない。
――学ぶべき存在、だ。
そして私は、
そんな評価を意識することもなく。
次の改革案に、
静かに目を通していた。
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