完璧すぎると言われ婚約破棄された令嬢、冷徹公爵と白い結婚したら選ばれ続けました

鷹 綾

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第22話 王都からの正式招待

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第22話 王都からの正式招待

 その書簡は、やけに丁寧だった。

 厚手の封筒。
 金の縁取り。
 王家の正式な紋章。

「……ついに来ましたね」

 私はそれを受け取り、軽く指先で封をなぞった。

「予想より遅かったな」

 アンクレイブは、いつも通り淡々としている。

 封を切ると、中には整えすぎた文面が並んでいた。

『グラーツ公国 公爵夫人
 エリーカ・フォン・グラーツ殿

 近頃のご活躍、王国としても高く評価している――』

(評価、ね)

 かつては「完璧すぎる」と切り捨てた相手を、
 今さら“評価している”とは、よく言ったものだ。

『ついては、王都にて行われる協議の場に、
 ぜひともご出席願いたい』

 要するに。

 ――戻ってこい。

 私は書簡を机に置き、静かに息を吐いた。

「ずいぶん、都合のいい話です」

「断るか?」

 アンクレイブが、端的に問う。

「ええ」

 即答だった。

 迷いは、ない。

「理由は?」

「業務上、必要性がありません」

 私は淡々と答える。

「王都の協議は、根回しと形式が中心。
 今の私の仕事とは、性質が違います」

 それに。

(もう、戻る場所ではない)

 その言葉は、心の中にだけ留めた。

 アンクレイブは、わずかに口角を上げた。

「では、こちらから条件を出そう」

「条件、ですか?」

「出席するなら、公国の立場を明確にする」

 彼の視線は、鋭い。

「“助言する側”としてだ。
 従う立場ではない」

 その言葉に、私は少しだけ考え――首を振った。

「いいえ。今回は、完全にお断りします」

 アンクレイブが、わずかに目を細める。

「理由は?」

 私は、はっきりと言った。

「今さら、王都の都合に合わせて
 時間を割く義理はありません」

 それは、感情論ではない。
 事実だった。

 この国には、やるべきことが山ほどある。
 未来に向けた仕事が、目の前にある。

 過去の場所に、引き戻される理由はない。

「……なるほど」

 アンクレイブは、短く頷いた。

「では、そのまま返答する」

「はい。簡潔に」

 その日のうちに、返書は送られた。

『誠に遺憾ながら、
 現在、当方は公国の改革業務に専念しており、
 王都の協議に出席する余裕はございません』

 丁寧で、完璧で、
 そして――一切の逃げ道を残さない文面。

 数日後、王都。

 その返書を読んだ者たちは、言葉を失った。

「……断られた?」 「正式に、か?」

 レヴァンテは、何も言わずに書簡を見つめていた。

(戻らない、のではない)

 ――戻る必要が、ないのだ。

 その事実が、胸に重くのしかかる。

 一方、グラーツ公国。

 私は新たな改革案に目を通しながら、静かにペンを取った。

 もう、誰かに認められるために動くことはない。
 誰かの期待に応えるためでもない。

 ――今の私は、必要とされている場所で、
 必要なことをしているだけ。

 王都からの正式招待は、
 過去との最後の糸だったのかもしれない。

 そして私は、
 それを迷いなく、手放した。


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