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第28話 選ばれた場所
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第28話 選ばれた場所
夜の公爵城は、昼とは違う静けさに包まれていた。
執務を終えた私は、久しぶりに一人で回廊を歩いていた。
石造りの壁に灯るランプの光が、柔らかく影を落とす。
(……ずいぶん、遠くまで来たものね)
王都を追われた日から、そう時間は経っていない。
それなのに、あの場所が、ひどく遠い昔のように感じられる。
足音が、後ろから重なった。
「まだ起きていたのか」
振り返ると、アンクレイブが立っていた。
「ええ。少し、考え事を」
「珍しいな」
彼はそう言いながら、並んで歩き出す。
しばらく、言葉はなかった。
沈黙が、気まずくない。
それ自体が、もう変化だった。
「王都からの件」
アンクレイブが、静かに切り出す。
「断って、よかったのか」
私は、少しだけ考えてから答えた。
「はい」
迷いはなかった。
「もし戻っていたら、
私はまた“都合のいい役割”に押し込められていたでしょう」
アンクレイブは、何も言わずに聞いている。
「でも、ここでは違います」
歩みを止め、私は彼を見る。
「意見を言えば、聞いてもらえる。
判断すれば、任せてもらえる」
それは、当たり前のようで――
かつては、得られなかったもの。
「だから私は」
一瞬、言葉を選び。
「ここにいます」
はっきりと、そう言った。
アンクレイブは、少しだけ目を細めた。
「……選んだのだな」
「ええ」
王都に戻らなかったのは、逃げではない。
拒絶でもない。
――選択だ。
「私は、この国でやるべきことがあります」
そして。
(この人の隣で)
その言葉は、まだ口にしない。
けれど、胸の奥で、確かに形を持ち始めていた。
「アンクレイブ様は」
私は、ふと問いかけた。
「後悔は、ありませんか」
私を迎え入れたこと。
改革を任せたこと。
王都と距離を置いたこと。
彼は、少しだけ考え――答えた。
「ない」
即答だった。
「君がここにいる限り、この国は前に進む」
それは、信頼。
だが、単なる評価以上のものが混じっている。
「……それで十分だ」
その言葉に、胸が静かに温かくなる。
回廊の先、庭に出ると、夜風が頬を撫でた。
見上げれば、澄んだ星空。
王都で見ていた空と、同じはずなのに――
ここでは、ずっと広く感じる。
(ここが、私の居場所)
誰かに決められた場所ではない。
役割を押し付けられた場所でもない。
自分で選び、
自分で立っている場所。
アンクレイブが、静かに言った。
「……無理はするな」
「はい」
微笑みながら、私は頷く。
守られている、という感覚が、
今は自然に受け取れた。
白い結婚。
合理的な関係。
――そのはずだった。
けれど、少なくとも今。
この場所と、この人を、
私は“自分で選んでいる”。
それだけで、十分だった。
夜の公爵城は、昼とは違う静けさに包まれていた。
執務を終えた私は、久しぶりに一人で回廊を歩いていた。
石造りの壁に灯るランプの光が、柔らかく影を落とす。
(……ずいぶん、遠くまで来たものね)
王都を追われた日から、そう時間は経っていない。
それなのに、あの場所が、ひどく遠い昔のように感じられる。
足音が、後ろから重なった。
「まだ起きていたのか」
振り返ると、アンクレイブが立っていた。
「ええ。少し、考え事を」
「珍しいな」
彼はそう言いながら、並んで歩き出す。
しばらく、言葉はなかった。
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「王都からの件」
アンクレイブが、静かに切り出す。
「断って、よかったのか」
私は、少しだけ考えてから答えた。
「はい」
迷いはなかった。
「もし戻っていたら、
私はまた“都合のいい役割”に押し込められていたでしょう」
アンクレイブは、何も言わずに聞いている。
「でも、ここでは違います」
歩みを止め、私は彼を見る。
「意見を言えば、聞いてもらえる。
判断すれば、任せてもらえる」
それは、当たり前のようで――
かつては、得られなかったもの。
「だから私は」
一瞬、言葉を選び。
「ここにいます」
はっきりと、そう言った。
アンクレイブは、少しだけ目を細めた。
「……選んだのだな」
「ええ」
王都に戻らなかったのは、逃げではない。
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――選択だ。
「私は、この国でやるべきことがあります」
そして。
(この人の隣で)
その言葉は、まだ口にしない。
けれど、胸の奥で、確かに形を持ち始めていた。
「アンクレイブ様は」
私は、ふと問いかけた。
「後悔は、ありませんか」
私を迎え入れたこと。
改革を任せたこと。
王都と距離を置いたこと。
彼は、少しだけ考え――答えた。
「ない」
即答だった。
「君がここにいる限り、この国は前に進む」
それは、信頼。
だが、単なる評価以上のものが混じっている。
「……それで十分だ」
その言葉に、胸が静かに温かくなる。
回廊の先、庭に出ると、夜風が頬を撫でた。
見上げれば、澄んだ星空。
王都で見ていた空と、同じはずなのに――
ここでは、ずっと広く感じる。
(ここが、私の居場所)
誰かに決められた場所ではない。
役割を押し付けられた場所でもない。
自分で選び、
自分で立っている場所。
アンクレイブが、静かに言った。
「……無理はするな」
「はい」
微笑みながら、私は頷く。
守られている、という感覚が、
今は自然に受け取れた。
白い結婚。
合理的な関係。
――そのはずだった。
けれど、少なくとも今。
この場所と、この人を、
私は“自分で選んでいる”。
それだけで、十分だった。
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