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第32話 断ち切れない過去
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第32話 断ち切れない過去
それは、思いもよらない形で届いた。
「エリーカ様……こちらを」
侍女が差し出したのは、一通の書簡だった。
王都の紋章が、はっきりと刻まれている。
差出人を見た瞬間、指先が一瞬だけ止まった。
――レヴァンテ。
久しく聞いていなかった名前。
けれど、忘れたことはない。
「……ありがとうございます」
静かに受け取り、侍女を下がらせる。
封を切る前に、私は深く息を吸った。
(今さら、何を)
書簡の内容は、予想通りだった。
『君の才を、正当に評価できなかったことを悔いている』
『王都は、君を失って初めて、その価値に気づいた』
『一度、話がしたい』
どこまでも、自分本位。
謝罪のようでいて、
核心には触れない。
(変わっていない)
彼は、最後まで“自分が中心”だ。
私は書簡を畳み、机に置いた。
その時、扉がノックされる。
「入っていい」
アンクレイブだった。
「……顔色が変わったな」
鋭い。
「王都からです」
「レヴァンテか」
隠す必要はなかった。
「ええ」
彼は、それ以上問わなかった。
ただ、静かに言う。
「読む必要はない」
だが、私は首を振った。
「読みました」
そして、はっきりと続ける。
「――でも、心は動きませんでした」
自分でも驚くほど、迷いがなかった。
「過去の私なら、
きっと、揺れていたと思います」
評価されたい。
認められたい。
捨てられた理由を、覆したい。
でも今は――
「もう、戻りたい場所ではありません」
アンクレイブは、ゆっくりと頷いた。
「なら、それでいい」
余計な慰めも、誘導もない。
それが、ありがたかった。
「返事は?」
「出しません」
即答だった。
「沈黙が、答えです」
拒絶でも、憎しみでもない。
ただ――終わり。
彼は、少しだけ目を細めた。
「完全に、断ち切ったな」
「はい」
自分で言って、胸が軽くなる。
その夜。
王都では、レヴァンテが書斎で一人、返事を待っていた。
だが、何も届かない。
「……そうか」
苦笑とも、諦めともつかない表情。
(彼女は、もうこちらを見ていない)
それが、ようやく理解できた。
一方、私は窓辺に立ち、夜空を見上げていた。
過去は、もう振り返らない。
ここにあるのは、
今と、これから。
そして。
アンクレイブの存在が、
“選んだ未来”として、確かにそこにあった。
断ち切れないのは、過去ではない。
――断ち切る必要が、もうないのだ。
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それは、思いもよらない形で届いた。
「エリーカ様……こちらを」
侍女が差し出したのは、一通の書簡だった。
王都の紋章が、はっきりと刻まれている。
差出人を見た瞬間、指先が一瞬だけ止まった。
――レヴァンテ。
久しく聞いていなかった名前。
けれど、忘れたことはない。
「……ありがとうございます」
静かに受け取り、侍女を下がらせる。
封を切る前に、私は深く息を吸った。
(今さら、何を)
書簡の内容は、予想通りだった。
『君の才を、正当に評価できなかったことを悔いている』
『王都は、君を失って初めて、その価値に気づいた』
『一度、話がしたい』
どこまでも、自分本位。
謝罪のようでいて、
核心には触れない。
(変わっていない)
彼は、最後まで“自分が中心”だ。
私は書簡を畳み、机に置いた。
その時、扉がノックされる。
「入っていい」
アンクレイブだった。
「……顔色が変わったな」
鋭い。
「王都からです」
「レヴァンテか」
隠す必要はなかった。
「ええ」
彼は、それ以上問わなかった。
ただ、静かに言う。
「読む必要はない」
だが、私は首を振った。
「読みました」
そして、はっきりと続ける。
「――でも、心は動きませんでした」
自分でも驚くほど、迷いがなかった。
「過去の私なら、
きっと、揺れていたと思います」
評価されたい。
認められたい。
捨てられた理由を、覆したい。
でも今は――
「もう、戻りたい場所ではありません」
アンクレイブは、ゆっくりと頷いた。
「なら、それでいい」
余計な慰めも、誘導もない。
それが、ありがたかった。
「返事は?」
「出しません」
即答だった。
「沈黙が、答えです」
拒絶でも、憎しみでもない。
ただ――終わり。
彼は、少しだけ目を細めた。
「完全に、断ち切ったな」
「はい」
自分で言って、胸が軽くなる。
その夜。
王都では、レヴァンテが書斎で一人、返事を待っていた。
だが、何も届かない。
「……そうか」
苦笑とも、諦めともつかない表情。
(彼女は、もうこちらを見ていない)
それが、ようやく理解できた。
一方、私は窓辺に立ち、夜空を見上げていた。
過去は、もう振り返らない。
ここにあるのは、
今と、これから。
そして。
アンクレイブの存在が、
“選んだ未来”として、確かにそこにあった。
断ち切れないのは、過去ではない。
――断ち切る必要が、もうないのだ。
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