完璧すぎると言われ婚約破棄された令嬢、冷徹公爵と白い結婚したら選ばれ続けました

鷹 綾

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第31話 周囲が気づき始める

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第31話 周囲が気づき始める

 最近、使用人たちの動きが妙に揃っている。

 廊下を歩けば、扉が自然に開く。
 席に着けば、温度も飲み物も完璧。

 ――以前から優秀ではあったが、
 何かが一段階上がっている。

「エリーカ様、本日のお茶ですが」

 給仕の侍女が、にこやかに言う。

「公爵様も同席なさいますので、
 お二人分をご用意いたしました」

「……あ、はい」

 “同席前提”。

 否定する理由もなく、私は頷く。

 数分後、アンクレイブが現れた。

「もう用意されているのか」

「はい」

 私が答えると、彼は一瞬だけ間を置く。

「……そうか」

 否定もしない。

 それを見た侍女が、満足そうに一礼して下がる。

(……今の、絶対に何か思われたわよね)

 向かいに座ると、以前より沈黙が自然だった。

 報告書を確認しながら、
 互いに必要な部分だけ口を出す。

 だが、時折。

「そこは――」

「ええ、私も同じ意見です」

 言葉が、重なる。

 補佐官が書類を持って入室した瞬間、
 その様子を見て、一瞬固まった。

「……失礼しました」

 なぜか、少し声が柔らかい。

「何か?」

 アンクレイブが問う。

「いえ……お二人の連携が、非常に円滑だと」

 補佐官は、にこやかに答える。

「まるで、長年連れ添った――」

 途中で、口を閉じた。

「……いえ。業務の話です」

 遅い。

 もう言っている。

 補佐官が去った後、私は小さく息を吐いた。

「……噂になっていますか」

「さあな」

 アンクレイブは、書類から目を離さず言う。

「事実は、事実だ」

 否定しない。

 その姿勢が、さらに誤解を招く。

 午後。

 城内の庭を歩いていると、
 年配の使用人が声をかけてきた。

「エリーカ様」

「はい?」

「最近、お顔が柔らかくなられましたな」

「……そうでしょうか」

「ええ。
 公爵様も、同じでございます」

 余計なことを。

「お二人とも、よい空気でいらっしゃる」

 それだけ言って、満足そうに去っていった。

(周囲が、勝手に……)

 だが、否定する材料が、少ない。

 その夜。

 執務を終えた私は、書庫にいた。

 そこに、アンクレイブが現れる。

「探した」

「どうしてこちらに?」

「静かだからだ」

 以前なら、理由にならなかった。
 今は、納得できてしまう。

「……周囲が、騒がしいですね」

 私が言うと、彼は少しだけ口角を上げた。

「放っておけ」

「ですが」

「気にする必要はない」

 そして、続けた。

「我々が何者かは、
 他人が決めることではない」

 その言葉に、少し救われる。

「……はい」

 白い結婚。
 まだ、その枠組みは残っている。

 けれど。

 周囲は、もう“その先”を見ている。

 本人たちよりも、
 ずっと早く。

 そして、それが――
 不思議と、嫌ではなかった。


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