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2嘘でも踊り続ける
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それから数日後。
ルーベルバッハとルベデルカの再婚約は果たされ、妃教育を理由にルベデルカはつかの間王城で暮らすことになった。
「殿下……実はわたくし、転生者なんです」
突如言われた言葉にルーベルバッハがきょとんとして書類から顔を上げると、ルベデルカはぼんやりと窓の外の景色を見ていた。
「転生者、とは?」
「解りやすく言うと前世の記憶があります」
「……そのような文献はある。幼少期にとある少年が国庫の鍵の在りかを言い当てて彼の前世は財務大臣ではないかと大騒ぎしたこともあった。しかし大人になるにつれその前世の記憶?というのは薄れて成人する頃にはその発言をしたことすら覚えていなかったそうだ」
ルベデルカはゆっくりとかぶりを振ってそういう前世じゃない、と前置きをした。
「わたくしの場合は前世の記憶に加えて未来の記憶もありました」
「……未来の記憶とは?」
「ルベデルカ公爵令嬢の生涯です。ルベデルカはルーベルバッハ殿下の婚約者でした。しかし幼少期から傲慢で我が儘で殿下から毛嫌いされていました。そんな時、聖女が現れてルベデルカは殿下に婚約破棄されてしまうんです。怒り狂ったルベデルカは聖女を害そうとして、殿下に処刑されてしまいます」
「…………君は傲慢でもなければ我が儘でもない。そして私は君を処刑などしない。有り得ない」
「わたくしは悪役令嬢となる未来が解っていたので、いい子を演じていただけです」
「悪役令嬢……ではないが、いい子……でも無かったような気もするが。どちらかというとルベデルカは変人……いや不思議な子だった。初対面でも何故か変顔で私に紅茶を吹かせ、」
「その話は今は置いといて」
ルベデルカはルーベルバッハに前世の話をした。
貧しかった子供時代。貧乏で虐められた学生時代。手コキ専門店で家賃と学費を賄う日々。通学中に乙女ゲームをプレイして疑似恋愛で青春を済ます日々。ようやく奨学金を返し終えて退店したら手コキ専門店の常連客に駅の階段から突き落とされ、そこから前世の記憶は途切れていること。
「──波瀾万丈の人生だったのだな。それでその、今生では私以外の男をその手で慰めたのか?」
「腱鞘炎は殿下と会えなくなった寂しさを紛らすため毎日何十冊も読書した結果だとお伝えしたでしょうが」
「うむ。信じる」
「しかし殿下、わたくしは前世で学んだのです!」
ルベデルカは窓から身を離し、シャッ!とカーテンを閉めた。
「その場しのぎの嘘は自身の首を絞めることになると。例えば退店したら外で会ってあげる、ヤらせてあげる、とか嘘ついて指名数を稼いだりしたらその後どうなります?」
「意味が解らんが、どうなるんだ?」
「階段から突き落とされます」
「……手コキ専門店の客の話か。それもまあ戦略というものだ。私も関税を餌によくやる」
「殿下、正直にお答え下さい! 聖女には何と言って神に嫁がせたのですか?」
「っ…………勃たないものは仕方ない。生涯独り身を貫くから、神殿に入ってくれと交渉した」
「それでわたくし達の再婚約は?」
「嬉しすぎてつい大々的に国民に先触れを出した」
「なら窓の外にいた鬼のような形相の聖女は幻覚じゃなく本物ということですか?」
「え」
そこでバッターン!と扉が開いた。
「お待ち下さい聖女様!」
「その先は王太子殿下の!」
「私室付き文官は何をしている!」
「早く近衛兵を呼べ!」
そこには怒り狂った顔の聖女がいた。金髪碧眼で、名はサリー。神殿から賜った聖剣を手に般若のごとき形相でルーベルバッハの首もとに刃先を突きつけた。
「っ、このウソつき!」
聖剣にはべったりと血糊がついていた。匂いからして本物の血だと、ルーベルバッハとルベデルカの頭に警鐘が鳴る。
「…………落ち着けサリー。聖剣は人を傷つけるものではない。神に祈りを捧げる、その媒体となる聖なる剣に血を吸わせればどうなるか、」
「ウソつきウソつきウソつきキイイイッ! ……はぁ、はぁ、はぁ……っ、」
ルーベルバッハは話し合いに持ち込もうとしたが、サリーの狂乱ぶりに会話を諦めた。そしてドアの外にいる戦力にならない外野に下がれと目配せをした。
一方ルベデルカはそっと腰を低くして机の下に身を隠そうとしていたのだが、サリーがキッ!と目線で止めた。
「そこ! 動くんじゃないよ!」
「あ、はい」
「アンタ! 名前は!」
「ルベデルカ・エリーゼ・シュレイドです」
「シュレイド公爵家のっ……まさかルーベルの元婚約者!?」
「違う。昔も今も婚約者だ」
「生涯独り身を貫くって言ってたじゃない!」
「それでも国民には国母の存在は必要だ」
嘘である。
文字通り妻にするため婚約した。それは絶対に悟られてはならない。
「お飾りの妃ってこと!? ならあたしでもよかったじゃない!」
「世継ぎが生まれないことで私が種無しだの男色だのと馬鹿にされるのは構わない、しかし聖女が石女と噂されれば、神の怒りに障ることになる」
「……っ、そんな事で神はお怒りにならないわ! はっきり言いなさいよ! あたしじゃ勃たないって!」
「すまない。何度も言うが君じゃ勃たないんだ」
「……うわぁああああっ……ああぁ、っ、ああ、……ぁあああっっ!」
ルーベルバッハとルベデルカは赤ん坊のように泣くサリーに罪悪感を抱きつつも、助け船がくるのをじっと息を潜めて待っていた。
しかしなかなか助けは来ず、それどころか外では誰かが指揮して何かと戦っている気配がする。
「っ、……っ……」
サリーは一頻り泣いたあと、ずびっと鼻を啜ってルベデルカにじとりとした目を向けてきた。
「そこの公爵令嬢……ルーベルの体に触れなさい」
「……え」
「早く! さっさとおし! ルーベルが何の反応も示さなければ、お前をお飾りの妃として認めてやるわ!」
「そんなご無体な」
聖女の台詞にしてはまた随分と場末感がある。まさか闇落ちルートに入ったのかもとルベデルカは遠い目をした。
「お黙り! 見逃してやるって言ってるのよ! でも、もし、僅かでも反応したら──二人とも婚約を破棄させるわ!」
ひくっとルーベルバッハの喉が鳴った。
実はルーベルバッハは朝からルベデルカに6回も抜いてもらっていた。しかしあの手に触られたら、また勃起してしまうと冷や汗をかいた。
「…………わ、わかりました」
それを知っているルベデルカはルーベルバッハに手では触れず、まずは頬にキスをおとした。そして顎や唇に移動しながら、胸をルーベルバッハの腕に擦りつけていく。
ルーベルバッハはその辿々しい行為に『意外に新鮮だ』なんて思いながらも早急に頭を空白にした。少し気を緩めれば頬がニヤけてしまいそうだった。
「ふん、アンタ処女なの? ぎこちないわね」
「もう勘弁してもらえませんか? 一応これでも鬼のコット夫人から貞操観念を叩き込まれた公爵令嬢なのですが……」
手コキは完全に棚にあげた発言である。
「ダメよ! 次はルーベルの股間に触れなさい!」
それは非常にまずいと、ルーベルバッハは奥歯をぎりっと噛んだ。しかしルベデルカは知っている。直接手で触らなければ彼は勃たないことを。
ルベデルカは床に膝をつき、ルーベルバッハの太腿に手を添えた。太腿はセーフゾーンだ。そして服の上から何の反応も示していない股間にキスをおとし、胸を擦りつけた。
サリーは目を見開いて凝視していたが、やがて納得したように聖剣を鞘におさめた。
「…………ふっ。ふふ……うふふふ。あーっははははは! ざまあみろ! アンタもルーベルを勃たせることはできない! ざまあみろ!」
「あ、はい。ざまあされました」
そこにものものしい足音を響かせて複数の近衛兵がやってきた。全身血まみれだが、すべて返り血のようだ。剣も血に塗れている。
「王太子殿下、シュレイド様、お怪我はございませんか?」
「ああ。私達は無傷だ……何があった?」
「王城に魔物の群れを呼び寄せ撹乱させたそこの聖女を拘束させて頂きます。あと私室付き文官が一名事切れました。傷は聖剣によるものです」
「……連れていけ」
サリーは聖剣を手に暴れ狂ったがすぐさま近衛兵に無力化された。
王城に魔物を侵入させた罪は重い。反逆罪に値する。そして殺人も罪が重い。この国の法律では平民が殺人を犯すと、死刑を宣告される。だがサリーは平民でも聖女であったことから死刑は免れた。おまけに聖剣は悪人しか殺さない。罪無き者を斬っても血は流れないのだ。しかし無実でも聖剣で斬られると物凄く痛いことは国民全員が知っていた。調べたところ亡くなった文官は横領の罪を重ねていたことが解った。サリーが死刑にならなかったのはそれもあった。
後日。
サリーは神殿に戻され、聖女としての力を利用されながら、監禁に近い形で生涯を送ることが決まった。そしてサリーもそれを了承した。
ルーベルバッハとルベデルカの再婚約は果たされ、妃教育を理由にルベデルカはつかの間王城で暮らすことになった。
「殿下……実はわたくし、転生者なんです」
突如言われた言葉にルーベルバッハがきょとんとして書類から顔を上げると、ルベデルカはぼんやりと窓の外の景色を見ていた。
「転生者、とは?」
「解りやすく言うと前世の記憶があります」
「……そのような文献はある。幼少期にとある少年が国庫の鍵の在りかを言い当てて彼の前世は財務大臣ではないかと大騒ぎしたこともあった。しかし大人になるにつれその前世の記憶?というのは薄れて成人する頃にはその発言をしたことすら覚えていなかったそうだ」
ルベデルカはゆっくりとかぶりを振ってそういう前世じゃない、と前置きをした。
「わたくしの場合は前世の記憶に加えて未来の記憶もありました」
「……未来の記憶とは?」
「ルベデルカ公爵令嬢の生涯です。ルベデルカはルーベルバッハ殿下の婚約者でした。しかし幼少期から傲慢で我が儘で殿下から毛嫌いされていました。そんな時、聖女が現れてルベデルカは殿下に婚約破棄されてしまうんです。怒り狂ったルベデルカは聖女を害そうとして、殿下に処刑されてしまいます」
「…………君は傲慢でもなければ我が儘でもない。そして私は君を処刑などしない。有り得ない」
「わたくしは悪役令嬢となる未来が解っていたので、いい子を演じていただけです」
「悪役令嬢……ではないが、いい子……でも無かったような気もするが。どちらかというとルベデルカは変人……いや不思議な子だった。初対面でも何故か変顔で私に紅茶を吹かせ、」
「その話は今は置いといて」
ルベデルカはルーベルバッハに前世の話をした。
貧しかった子供時代。貧乏で虐められた学生時代。手コキ専門店で家賃と学費を賄う日々。通学中に乙女ゲームをプレイして疑似恋愛で青春を済ます日々。ようやく奨学金を返し終えて退店したら手コキ専門店の常連客に駅の階段から突き落とされ、そこから前世の記憶は途切れていること。
「──波瀾万丈の人生だったのだな。それでその、今生では私以外の男をその手で慰めたのか?」
「腱鞘炎は殿下と会えなくなった寂しさを紛らすため毎日何十冊も読書した結果だとお伝えしたでしょうが」
「うむ。信じる」
「しかし殿下、わたくしは前世で学んだのです!」
ルベデルカは窓から身を離し、シャッ!とカーテンを閉めた。
「その場しのぎの嘘は自身の首を絞めることになると。例えば退店したら外で会ってあげる、ヤらせてあげる、とか嘘ついて指名数を稼いだりしたらその後どうなります?」
「意味が解らんが、どうなるんだ?」
「階段から突き落とされます」
「……手コキ専門店の客の話か。それもまあ戦略というものだ。私も関税を餌によくやる」
「殿下、正直にお答え下さい! 聖女には何と言って神に嫁がせたのですか?」
「っ…………勃たないものは仕方ない。生涯独り身を貫くから、神殿に入ってくれと交渉した」
「それでわたくし達の再婚約は?」
「嬉しすぎてつい大々的に国民に先触れを出した」
「なら窓の外にいた鬼のような形相の聖女は幻覚じゃなく本物ということですか?」
「え」
そこでバッターン!と扉が開いた。
「お待ち下さい聖女様!」
「その先は王太子殿下の!」
「私室付き文官は何をしている!」
「早く近衛兵を呼べ!」
そこには怒り狂った顔の聖女がいた。金髪碧眼で、名はサリー。神殿から賜った聖剣を手に般若のごとき形相でルーベルバッハの首もとに刃先を突きつけた。
「っ、このウソつき!」
聖剣にはべったりと血糊がついていた。匂いからして本物の血だと、ルーベルバッハとルベデルカの頭に警鐘が鳴る。
「…………落ち着けサリー。聖剣は人を傷つけるものではない。神に祈りを捧げる、その媒体となる聖なる剣に血を吸わせればどうなるか、」
「ウソつきウソつきウソつきキイイイッ! ……はぁ、はぁ、はぁ……っ、」
ルーベルバッハは話し合いに持ち込もうとしたが、サリーの狂乱ぶりに会話を諦めた。そしてドアの外にいる戦力にならない外野に下がれと目配せをした。
一方ルベデルカはそっと腰を低くして机の下に身を隠そうとしていたのだが、サリーがキッ!と目線で止めた。
「そこ! 動くんじゃないよ!」
「あ、はい」
「アンタ! 名前は!」
「ルベデルカ・エリーゼ・シュレイドです」
「シュレイド公爵家のっ……まさかルーベルの元婚約者!?」
「違う。昔も今も婚約者だ」
「生涯独り身を貫くって言ってたじゃない!」
「それでも国民には国母の存在は必要だ」
嘘である。
文字通り妻にするため婚約した。それは絶対に悟られてはならない。
「お飾りの妃ってこと!? ならあたしでもよかったじゃない!」
「世継ぎが生まれないことで私が種無しだの男色だのと馬鹿にされるのは構わない、しかし聖女が石女と噂されれば、神の怒りに障ることになる」
「……っ、そんな事で神はお怒りにならないわ! はっきり言いなさいよ! あたしじゃ勃たないって!」
「すまない。何度も言うが君じゃ勃たないんだ」
「……うわぁああああっ……ああぁ、っ、ああ、……ぁあああっっ!」
ルーベルバッハとルベデルカは赤ん坊のように泣くサリーに罪悪感を抱きつつも、助け船がくるのをじっと息を潜めて待っていた。
しかしなかなか助けは来ず、それどころか外では誰かが指揮して何かと戦っている気配がする。
「っ、……っ……」
サリーは一頻り泣いたあと、ずびっと鼻を啜ってルベデルカにじとりとした目を向けてきた。
「そこの公爵令嬢……ルーベルの体に触れなさい」
「……え」
「早く! さっさとおし! ルーベルが何の反応も示さなければ、お前をお飾りの妃として認めてやるわ!」
「そんなご無体な」
聖女の台詞にしてはまた随分と場末感がある。まさか闇落ちルートに入ったのかもとルベデルカは遠い目をした。
「お黙り! 見逃してやるって言ってるのよ! でも、もし、僅かでも反応したら──二人とも婚約を破棄させるわ!」
ひくっとルーベルバッハの喉が鳴った。
実はルーベルバッハは朝からルベデルカに6回も抜いてもらっていた。しかしあの手に触られたら、また勃起してしまうと冷や汗をかいた。
「…………わ、わかりました」
それを知っているルベデルカはルーベルバッハに手では触れず、まずは頬にキスをおとした。そして顎や唇に移動しながら、胸をルーベルバッハの腕に擦りつけていく。
ルーベルバッハはその辿々しい行為に『意外に新鮮だ』なんて思いながらも早急に頭を空白にした。少し気を緩めれば頬がニヤけてしまいそうだった。
「ふん、アンタ処女なの? ぎこちないわね」
「もう勘弁してもらえませんか? 一応これでも鬼のコット夫人から貞操観念を叩き込まれた公爵令嬢なのですが……」
手コキは完全に棚にあげた発言である。
「ダメよ! 次はルーベルの股間に触れなさい!」
それは非常にまずいと、ルーベルバッハは奥歯をぎりっと噛んだ。しかしルベデルカは知っている。直接手で触らなければ彼は勃たないことを。
ルベデルカは床に膝をつき、ルーベルバッハの太腿に手を添えた。太腿はセーフゾーンだ。そして服の上から何の反応も示していない股間にキスをおとし、胸を擦りつけた。
サリーは目を見開いて凝視していたが、やがて納得したように聖剣を鞘におさめた。
「…………ふっ。ふふ……うふふふ。あーっははははは! ざまあみろ! アンタもルーベルを勃たせることはできない! ざまあみろ!」
「あ、はい。ざまあされました」
そこにものものしい足音を響かせて複数の近衛兵がやってきた。全身血まみれだが、すべて返り血のようだ。剣も血に塗れている。
「王太子殿下、シュレイド様、お怪我はございませんか?」
「ああ。私達は無傷だ……何があった?」
「王城に魔物の群れを呼び寄せ撹乱させたそこの聖女を拘束させて頂きます。あと私室付き文官が一名事切れました。傷は聖剣によるものです」
「……連れていけ」
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王城に魔物を侵入させた罪は重い。反逆罪に値する。そして殺人も罪が重い。この国の法律では平民が殺人を犯すと、死刑を宣告される。だがサリーは平民でも聖女であったことから死刑は免れた。おまけに聖剣は悪人しか殺さない。罪無き者を斬っても血は流れないのだ。しかし無実でも聖剣で斬られると物凄く痛いことは国民全員が知っていた。調べたところ亡くなった文官は横領の罪を重ねていたことが解った。サリーが死刑にならなかったのはそれもあった。
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