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1この関係は踊り続ける
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「ルベデルカお嬢様。殿下が面会に来られましたよ」
「……ルーベルバッハ様が? そんな先触れは届いていなかった筈だけれど」
「先ほど殿下と共に届きましたよ」
「は?」
ルベデルカは読んでいた本から顔を上げた。そして片手に手紙を掲げる侍女、その背後に既にいたルーベルバッハに頬を引き攣らせた。
二人は5歳のとき婚約してから13年、その後婚約を白紙にしてから半年の月日が経っていた。
「……殿下、ごきげんよう」
黒髪黒目の、王家の色を持つルーベルバッハに、同じく黒髪黒目のルベデルカが頭を垂らす。
「やあ。お見舞いにきたんだ。手首を怪我したって?」
「いえ……軽く捻っただけですわ」
「ちゃんと報告しないと駄目じゃないか。君の教育係であるコット夫人も心配していたよ。以前厳しくし過ぎたから手紙も返ってこない、避けられてるんじゃないかって、酷く落ち込んでいた」
「……コット夫人にはなんの非もありませんわ」
ルベデルカは侍女に目配せをして、紅茶の用意を促した。二人きりになったところで、ルーベルバッハはルベデルカの腫れた手首を掴んできた。
「っ、」
「水が溜まっているのかな。手首と親指が浮腫んでいるね」
「疲労するとこのような症状が出るらしいですわ」
「うん。炎症しているんだろうね。それを緩和させる為に水が溜まっているのかもしれない。すなわち、捻ったんじゃなく腱鞘炎の類いかな?」
「そ、そうかもしれませんわね」
ルベデルカが痛みに顔をしかめるとルーベルバッハはにこりと笑って手首を解放した。
「……ねぇ、ルベデルカ」
「っ、……はい」
「聖女は王太子妃じゃなく神の花嫁となる道を選んだよ。つまり今の私は婚約者のいない王太子だ」
「殿下でしたら候補はごまんといるかと」
「その筆頭は君だった。聖女が現れて仕方なく君との婚約を白紙にしたんだ。君はサインひとつで領地に逃げ隠れたけど、私は側妃の誘いも無視され三日間水も飲めないほど落ち込んだなぁ」
「……聖女が王妃になるのは慣例ですもの。おまけに我が国は聖女が現れた時代だけは一夫一妻制を貫いておりましたでしょう? 側妃など必要ないかと」
「多産も聖女の能力のひとつだからね。でもその聖女は既に神に嫁いだ」
「……お悔やみ申し上げます──ッ!」
再びルベデルカは手首を掴まれた。
「っ、痛……で、殿下! 痛いですって!」
「こんなに腫れて可哀想に…………毎日五回は抜いてもらっていた婚約者時代ですら君の手首は平気だったのに、今は一体どれだけ手首を酷使しているのか! そして現在君が奉仕している相手は誰なのか!?」
「っ、な、なにを……!」
そんな誰かに聞かれたらまずい会話、今ここですることないじゃない! と慌てたルベデルカが「しぃー!」と人差し指を立てるも、気まずい顔をした侍女が既にドアを開けて紅茶を運んできていた。
「…………本日の茶葉はマコン産のハニーヌーベルでございます」
「……ありがとう。それであの、今聞いた話は……」
ルベデルカが侍女に口止めしようと微笑むと、ルーベルバッハが高そうな金の腕輪を外して侍女の手前に投げつけた。
「それを持って今すぐ下がれ」
「は、はひ!」
この侍女、名前なんていうんだろう。後でお父様にチクらないよう更に給金も上げておかなきゃとルベデルカが考えていると、ルーベルバッハが掴んだ手首を引いてきた。
「ッ、ッ、い、たい」
「………………ルベデルカ」
「……は、はい」
「聖女が神の花嫁になったのは、私が聖女に迫られた際、反応しなかったせいもある」
「え」
「反応しなかったんだ。スッポンを食べさせられ媚薬を飲まされ祝福をかけられ何をされても、勃たなかった」
「……え? あの早漏の殿下が ……ッ!」
ギリリと手首に力が加わり、ルベデルカは眉間に皺を寄せた。
「わかるかい? 私はもう君の手コキ無しじゃ生きられないんだ」
「わ、解りました。そういうことなら手を貸します。なんちゃっ──ッ!」
「ふざけてんじゃないよ。君はいつもそうだ。私が君との婚姻を確定させようと迫った時も君はその手で全てを解決した。今思えば君の術中……いや手中に嵌められていたんだな。もう死活問題だよ。手の施しようがない」
「殿下も言うようになりましたね──ッ! 痛いですって!」
「頼むから結婚しておくれよ。また婚約からやり直そう?」
「せめて手じゃなく目を見ながら求婚して下さいよ」
「この手を離さない。離せない。愛しているんだ。今ではこの手を見ているだけで抜ける。昨夜も思い出で抜いた」
「なに性癖暴露してるんですか!」
「私はずっとこの手の平に踊らされているんだよ。一度は手のひら反ししておきながらも、再びこの手を差し出される日を夢見て今日まで生きてきた。王城の中には腕利きの臣下は大勢いるが、ルベデルカ以上の手腕を発揮してくれる者は一人もいない。だから戻ってきておくれよ」
「きゃっはは! なにそれこじつけが過ぎてウケる!」
「ははっ、ルベデルカが歯が見せて笑っている。まるで婚約者時代に戻ったようだ」
「仕方ないですねぇ。また手で抜いてあげます」
「手抜きはするなよ?」
「きゃっははは! 殿下も言うようになりましたねぇ!」
「……ルーベルバッハ様が? そんな先触れは届いていなかった筈だけれど」
「先ほど殿下と共に届きましたよ」
「は?」
ルベデルカは読んでいた本から顔を上げた。そして片手に手紙を掲げる侍女、その背後に既にいたルーベルバッハに頬を引き攣らせた。
二人は5歳のとき婚約してから13年、その後婚約を白紙にしてから半年の月日が経っていた。
「……殿下、ごきげんよう」
黒髪黒目の、王家の色を持つルーベルバッハに、同じく黒髪黒目のルベデルカが頭を垂らす。
「やあ。お見舞いにきたんだ。手首を怪我したって?」
「いえ……軽く捻っただけですわ」
「ちゃんと報告しないと駄目じゃないか。君の教育係であるコット夫人も心配していたよ。以前厳しくし過ぎたから手紙も返ってこない、避けられてるんじゃないかって、酷く落ち込んでいた」
「……コット夫人にはなんの非もありませんわ」
ルベデルカは侍女に目配せをして、紅茶の用意を促した。二人きりになったところで、ルーベルバッハはルベデルカの腫れた手首を掴んできた。
「っ、」
「水が溜まっているのかな。手首と親指が浮腫んでいるね」
「疲労するとこのような症状が出るらしいですわ」
「うん。炎症しているんだろうね。それを緩和させる為に水が溜まっているのかもしれない。すなわち、捻ったんじゃなく腱鞘炎の類いかな?」
「そ、そうかもしれませんわね」
ルベデルカが痛みに顔をしかめるとルーベルバッハはにこりと笑って手首を解放した。
「……ねぇ、ルベデルカ」
「っ、……はい」
「聖女は王太子妃じゃなく神の花嫁となる道を選んだよ。つまり今の私は婚約者のいない王太子だ」
「殿下でしたら候補はごまんといるかと」
「その筆頭は君だった。聖女が現れて仕方なく君との婚約を白紙にしたんだ。君はサインひとつで領地に逃げ隠れたけど、私は側妃の誘いも無視され三日間水も飲めないほど落ち込んだなぁ」
「……聖女が王妃になるのは慣例ですもの。おまけに我が国は聖女が現れた時代だけは一夫一妻制を貫いておりましたでしょう? 側妃など必要ないかと」
「多産も聖女の能力のひとつだからね。でもその聖女は既に神に嫁いだ」
「……お悔やみ申し上げます──ッ!」
再びルベデルカは手首を掴まれた。
「っ、痛……で、殿下! 痛いですって!」
「こんなに腫れて可哀想に…………毎日五回は抜いてもらっていた婚約者時代ですら君の手首は平気だったのに、今は一体どれだけ手首を酷使しているのか! そして現在君が奉仕している相手は誰なのか!?」
「っ、な、なにを……!」
そんな誰かに聞かれたらまずい会話、今ここですることないじゃない! と慌てたルベデルカが「しぃー!」と人差し指を立てるも、気まずい顔をした侍女が既にドアを開けて紅茶を運んできていた。
「…………本日の茶葉はマコン産のハニーヌーベルでございます」
「……ありがとう。それであの、今聞いた話は……」
ルベデルカが侍女に口止めしようと微笑むと、ルーベルバッハが高そうな金の腕輪を外して侍女の手前に投げつけた。
「それを持って今すぐ下がれ」
「は、はひ!」
この侍女、名前なんていうんだろう。後でお父様にチクらないよう更に給金も上げておかなきゃとルベデルカが考えていると、ルーベルバッハが掴んだ手首を引いてきた。
「ッ、ッ、い、たい」
「………………ルベデルカ」
「……は、はい」
「聖女が神の花嫁になったのは、私が聖女に迫られた際、反応しなかったせいもある」
「え」
「反応しなかったんだ。スッポンを食べさせられ媚薬を飲まされ祝福をかけられ何をされても、勃たなかった」
「……え? あの早漏の殿下が ……ッ!」
ギリリと手首に力が加わり、ルベデルカは眉間に皺を寄せた。
「わかるかい? 私はもう君の手コキ無しじゃ生きられないんだ」
「わ、解りました。そういうことなら手を貸します。なんちゃっ──ッ!」
「ふざけてんじゃないよ。君はいつもそうだ。私が君との婚姻を確定させようと迫った時も君はその手で全てを解決した。今思えば君の術中……いや手中に嵌められていたんだな。もう死活問題だよ。手の施しようがない」
「殿下も言うようになりましたね──ッ! 痛いですって!」
「頼むから結婚しておくれよ。また婚約からやり直そう?」
「せめて手じゃなく目を見ながら求婚して下さいよ」
「この手を離さない。離せない。愛しているんだ。今ではこの手を見ているだけで抜ける。昨夜も思い出で抜いた」
「なに性癖暴露してるんですか!」
「私はずっとこの手の平に踊らされているんだよ。一度は手のひら反ししておきながらも、再びこの手を差し出される日を夢見て今日まで生きてきた。王城の中には腕利きの臣下は大勢いるが、ルベデルカ以上の手腕を発揮してくれる者は一人もいない。だから戻ってきておくれよ」
「きゃっはは! なにそれこじつけが過ぎてウケる!」
「ははっ、ルベデルカが歯が見せて笑っている。まるで婚約者時代に戻ったようだ」
「仕方ないですねぇ。また手で抜いてあげます」
「手抜きはするなよ?」
「きゃっははは! 殿下も言うようになりましたねぇ!」
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