婚約破棄は踊り続ける

お好み焼き

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4大公夫妻と踊り続ける②

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「ア、アンタ……ルーベルと婚約していながら大公と浮気したの?」
「……仕方ないではありませんか。お飾りの妃でも王家の血は繋がなければなりませんもの」
「それでも!  アンタねぇ!  ルーベルの婚約者なんでしょう!  信じられない!  よくそんな事ができたわね!」
「仕方ないではありませんか。殿下は勃たないのですから」

そう言ってルベデルカは気まずそうにサリーから目を反らした。実は今朝も四回抜いてあげていたのだが、それは絶対に悟られてはならない。

「……っ、っ、でもっ!  不潔よ!  大公には既に妻がいるじゃない!」
「……わたくしも承知の上です」

そこで気絶していた筈の大公妃が苦しげに顔を上げた。

「承知の上、って……な、なんなのアンタ達!  頭おかしいんじゃないの!  ねぇ、ルーベル!  今からでも遅くないわ、あたしとやり直しましょう?  こんな狂った連中に囲まれてたら、いつかルーベルまでおかしくなってしまうわ!  ねぇ、お願いだから!  あたしだったらルーベルを幸せにしてあげられるわ!  生涯をかけてそれを証明するからっ!」
「……すまない。何度も言うようだが本当に君じゃ勃たないんだ」
「……っ、っ、キイイイッッ!  それは関係ないでしょう!  そこにいるシュレイド嬢だってルーベルを勃たせることは出来なかったんだから!」
「ああ。だが王家に連なる血は繋いでくれた。これがサリーならどうなっていた?  君は私の為に大公と関係を持ってくれたか?」
「っ、っ、それは……」

大公を見たサリーは目を反らした。
大公は今年41歳。プロレスラーのように分厚い体格をしている。ルーベルバッハの叔父なので二人とも顔立ちは似ているがまだ19歳のサリーにはおじさんにしか見えなかった。そして変に真面目なサリーは大公と一発ヤれるかより彼を愛せる自信が無いと、ルーベルバッハの問いに否を出した。

「……わかってくれたならそれでいいんだ。さあ、そろそろ神殿に帰ろう」
「…………婚約を破棄しなさいよ」
「え」
「大人の事情は理解したわ。つまりルーベルは養子が欲しかったってことでしょう?」

サリーは獲物を見る眼をルベデルカに向けた。

「その腹の子が生まれたら、あたしが育ててあげる。ルーベルと一緒に可愛がるわ…………だからアンタ達は婚約を破棄しなさいよ!」

冗談じゃない、とルーベルバッハは奥歯を噛んだ。

ルベデルカと居るとたまにムカつく事もあるが喜びだってある。逆にサリーと居るとただただ息が詰まる。

ルベデルカは公式の場では貴婦人そのものだが、その他ではまるで機能していない。そのオンオフの切りかえの早さは見ていて尊敬のため息が出るほど。

逆にサリーは公式問わず自室でもルーベルバッハに王族然とした態度を強いてくる。四六時中息が詰まる。

そして何よりもルベデルカはルーベルバッハを勃たせてくれる。額に玉の汗を滲ませながら、ほんのりと頬を赤め、意地悪そうなドヤ顔で手コキしてくれるのだ。ルーベルバッハはそれがたまらなく好きだった。Mなのかもしれない。

逆にサリーは勃たせてくれない。男としても立たせてくれない。抜けないどころか息抜きすら出来ない。

「ちょっと、聞いているの!?  あたしがお飾りの妃になるって言ってるの!  元々は聖女が次期国王に嫁ぐのは慣例なんだから、アンタ達はその慣例に則って早く婚約を破棄しなさいよ!」
「っ、ぐ」

何故このような目に、とルーベルバッハは路頭に迷った仔犬のような気分になった。

ルベデルカは身分のつり合う公爵令嬢で、後ろ盾としても申し分ない家柄だ。更には同い年で、幼馴染でもある。婚約者としても仲睦まじくやってきた。たまに喧嘩もするし不満も出るがそれは子供の時から側で見ていた両陛下だって同じ事。夫婦とはそういうものだという、ルベデルカとは夫婦になった時の未来がちゃんと想像できる相手だった。

逆にサリーはどうか。
申し分ない婚約者が既にいたのに、ぽっと世に出てきて聖女というだけでルベデルカにとって変わった女。後ろ盾?  王家とは相容れぬ神殿との架け橋にはなるが、それは聖女としての生涯を終えたら崩れる橋。また神殿とは犬猿の仲に戻るのは容易く想像できる。家柄だってサリーはただの平民だ。神殿からの補助金はあるが、持参金は無い。

見た目に関してはどうか。
ルベデルカは物凄い美人だが強烈な悪人顔だ。たまに変顔もしてくる。訳がわからない。だがそこがいい。無防備な顔を見ると癒される。そして王城で一緒に暮らしはじめて寝所ではたまに寝惚けて蹴られることもあるのだがこれ程寝顔がムカつく、そして愛しいと思う女には二度と出会えないだろうという謎の確信もある。

サリーも美しいとは思うが、内面の表情が乏しいと思う。以前とこの狂行で様々な顔を見せてくれたが……正直、更に好きにはなれないという確信だけが募った。生理的に無理。触らないで欲しい。精神衛生上、関わりを避けたいとさえ思う。だから勃たないのだろうと、ルーベルバッハは萎えながら思った。

結論として、ルベデルカは魅力的だが、サリーには魅力を感じない。もっと言うとルベデルカは女として見れるし一人の人間として見ても好きだが、サリーは女として見れないし人格的にも関わりたくない。

その事を踏まえて、ついルーベルバッハの口から本音が漏れた。

「……総合的に考えてお飾りだとしてもやはり妃はルベデルカがいい。安心するし、落ち着く。息が詰まらない。あと笑った顔が好み。声もわりと好きだ。私が失敗すると馬鹿笑いしてくるから腹立たしいが、公式の場でわざと挨拶を噛んだりしてすぐには笑えない状況を作って仕返しとかもしてるから、何だかんだで楽しい。そういやこの前宰相に言われたんだ。君達は両陛下に雰囲気が似てきている、いい夫婦になるだろう、応援している、と……」

それはもはや相思相愛宣言と同じだった。

サリーは放心したように口を開け、徐々に顔を歪めながら涙を流した。

「……ルーベルと学園で初めて顔を合わせた時、あたしったらルーベルに『好きでもない男に足を開くような女じゃないから』って生意気なこと言ったけど、本当はルーベルがかっこよくて、あたしは聖女だからいつかこの人と結ばれるんだって思ったら、恥ずかしくて、素直になれなくて、だからわざとあんなこと言ったの。それがよくなかった?  きっと嫌な女だって、思われたよね?」

ルーベルバッハは少し考える素振りを見せてから、頭を振った。

「…………すまない。正直、覚えていない。あまり印象に残っていなくて」

酷い発言だがこれが本音だった。サリーとの出会いを思いだそうにも、聖女が現れたことでルベデルカとの婚約を白紙にされる可能性が強く、そのストレスのせいで殆ど記憶に残っていないのだ。

「な、ならあたしの見た目が妃に相応しくない?  貴方たちは王家の色である黒髪黒目だけど、あたしは金髪碧眼だから?」
「……確かに我が国では黒こそが高貴な色だが、それはもう本っ当に耳垢ほどにどうでもいい」
「じゃあ胸の大きさ?  あたしはシュレイド嬢より小さいもの!」
「どうでもいい。胸の大小とか、微塵の興味もない。好きになった女に付いている胸が私の好きな胸だ」
「っ、あたしの顔が駄目なの!?  儚げで好みじゃないから!?  シュレイド嬢みたいにメリハリがある顔に化粧したら、」
「好きになった女の顔が私の好みだ。化粧は関係ない」
「な、なら!」
「ッもうやめてくれぇ!  生理的に無理なんだ!  サリーは好きでもない男に足を開くような女ではないが、私だって好きでもない女に勃つような男じゃない!  王族として失格だが、本当にただそれだけの事なんだ!  頼むからもうこれで納得してくれえ!」

ルーベルバッハは両膝をついて床を殴った。何度も拳を降りおろしていく。

「無理なんだ!」
「……」
「好きじゃないんだ!」
「……」
「だからといって憎んでいるわけでもない!  お近づきになりたくないし、接触や関わりを持ちたくないし、興味もないんだ!  私の知らない場所、どこか遠い地で、勝手に幸せになってくれ!  頼むから視界に入らないでくれえ!」
「……」

とどのつまり無関心。心の底からの。あと嫌悪感。とくに会話が通じない事への嫌悪。それでも望みがあるかもと更に詰めてくる姿勢。押し付けがましい。良心で言葉を柔らかくしたとて、更に勘違いして詰めてくる。無理。無理。無理、とルーベルバッハが床に拳を降りおろす。そして乾いた眼でサリーを見て呟いた。

「…………大嫌いだ」
「っ、」

しばし固まったのち、サリーも乾いた眼で聖剣を握る手に力を込めた。手に入らないなら殺してしまおう、そう思った瞬間だった。
しかしそこで大公妃が「もうおやめなさい」と、不思議と圧のある優しい声を出した。
大公妃の顔色は真っ青で、冷や汗を流している。そして辛そうに呼吸を繰り返しながらサリーに言った。

「わたくしは……余命いくばくもない、死を待つだけの身です」
「え」

嘘である。
大公妃は現在29歳。三人の男の子を出産した後もキャリアウーマンとしてばりばり働いている。そして軍師である父親に策士として育てられた、いわば女孔明である。
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