【完結】塩対応の同室騎士は言葉が足らない

ゆうきぼし/優輝星

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第二章:辺境伯は溺愛中

17期待の地

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 領地の視察に戻ってからサミュエルが黙りこくってしまった。怒っているのだろうな。だけどやらないといけないことは山ほどある。特に果樹園での話しが気になる。田畑を領主に黙って勝手に縮小するなど本来なら考えられないことだ。それだけサミュエルの事を軽く見ているという事になるな。このままではだめだ。領民たちに示しがつかなくなってしまう。
「…………」
「サム……。こっちを向いて」
 ああ。やっぱり眉間に皺を寄せたままだった。僕はサミュエルの眉間の皺を指で伸ばしてやる。
「僕の前でもそんな難しい顔を続けるの?一人で悩まないで。口に出すことで答えが早く出てくることもあるって知ってる?」
「……アル」
 ぎゅっと抱きしめられて首筋に顔をうずめられる。
「アルの匂いがする……」
 え?なに?僕って汗臭いのかな?
「こうしていると落ち着くのだ。アルが傍に居てくれると感じるから」
「くす。じゃあ僕も。サムのこの逞しい筋肉は僕のもの」
 むにむにって胸筋をくすぐる。くすくすと二人で笑いながら軽くキスを交わしているとデセルトがお茶を入れ始めた。ええ!いつからそこに居たのぉ?
「あ、あの……」
「お気になさらず。仲良きことはむつまじきかな」
 気になるよぉ。デセルトはニコニコと笑顔で茶菓子と資料を机の上に並べだした。そうだった。資料を用意しておいてくれと頼んだのは僕だった。ついでデセルトの意見も聞きたいから来てねと呼んだのも僕だ。
「…………」 
 すん……とサミュエルがまた無表情に戻ってしまった。ごめんよ。これは不可抗力だ。

「えっと。視察に行ってきたんだけど、ノワール伯爵の事がイマイチよくわからなくて」
 話をしだした僕を無言のままサミュエルが抱き上げて自分の膝の上に乗せてしまう。
「へ?あの……ちょっと」
 デセルトが見てるって。恥ずかしいじゃん。
「デセルトは身内のようなものだ」
 僕の心の声が聞こえたの?サミュエルの言葉にデセルトが目を見開いて嬉しそうに頷く。
「ありがたき幸せ……」
 うっすらと涙を浮かべてるデセルト。おお。感動的なシーン……いやそうじゃなくて。身内でも恥ずかしいんだよ。
「アルは俺の精神安定剤だ。でないと壁ごとぶち壊しそうになる」
「物騒な事言わないでよ」
 それだけ怒り狂ってるってことなのか。まあそうだろうなあ。自分領主がいない間に好き勝手にされていたとわかったら腹が立つよね。でも今、根こそぎ絶やしてしまうとおそらくここの運営は立ち回らなくなってしまうだろう。
「元々この地はサミュエル様にと旦那様もお考えになられていた領地でございます」
 そうだったのか。公爵家の領地はここだけじゃなく他にもあるし、王都には別邸もある。だがここほど広い規模はないだろう。それだけ公爵様もサミュエルの事を気にかけてくれていたんだな。だがあの方は切れ者だ。きっとノワールの事もわかってて野放しにしていたに違いない。そしてサミュエルの手腕を試したかったんだと思う。

「ノワール伯爵家は先代がいらしたときに伯爵の称号を手に入れられたそうです。それまでは子爵だったとか。この地は隣国との国境にあります。何度か戦争もあり、その時に功労をあげたので爵位があがり、この公爵領のすぐ隣に伯爵領を賜ったようです」
 そうか。相手は爵位は上がる事があるって知っているんだな。だがそれは王が認めた時だ。
「ノワール伯爵の領地は大きいの?」
「いいえ。先代の方は身分不相応なものを望まない方でしたので小さめな規模の領地で。しかし南北を縦断する形の領地でございます」
「地図で教えてくれる?」
「はい。どうぞ」
 地図上では確かに規模は小さいが辺境地の中心辺りを縦断する領地だった。これは厄介な地形だな。この領地を通らないと王都には行けない。
「管理自体は伯爵よりは執事のブルーノが仕切ってるようです。農民たちの中には地図が読めないものも多く、言われるままにここがノワール領と思ってる箇所もあるようです」
「ありそうだね。ここでは契約書よりも口約束や口頭での指示が多そうだ。それに長らく領主が不在だったせいかノワールのいう事を何でも真に受けてるのを見かけた。すぐにでも矯正しなおしたい」
「矯正ですか?」
「そうだ。まずは変な噂を払拭しないと。それもこちらにプラスとなる内容にしないといけない」
 幸いにもライナスがあちこちに回って訂正してくれてるらしい。だがまわりくどいな。一気にわからせる方法はないだろうか?
「プラスになる?……それは皆にアルの可愛さを見せろという事か?」
「へ?何を言って……いや、まてよ。それは良いアイディアかも知れない!」
「と、申しますと?」
「パレードはどうだろうか?」
「パレード?」
「そうだよ。ここに騎士団を作るって言う宣伝もかねて、僕たちの婚約披露パレードをしよう」
「おお。いい案でございますね!」
「婚約披露か。なるほど」
「自警団の皆にも一役買ってもらおうよ」
 これなら一石二鳥じゃない?
「ここに騎士団の支部をつくることによって今以上にこの地を王都が期待をしているという事を皆にわからせるんだ」
「そうだな。形がつけば、王都からも遠征団の訓練部隊が来たり、こちらから王都に出向くことも増えるだろう」
「なるほど。ついでにチカラ自慢の者達を勧誘してもよろしいかと」
「いいけど、予算はどれぐらいかかるの?」
 これから農地改革などしていくには多少の予算を置いておいてもらいたい。
「それについては今までは自警団として我が領から捻出していたが、今後は王都からの支援ももらえるよう話しをつけてある」
 さすがサミュエル!こう言う時は頼りになる。口には出さないだけでいろいろと考えて動いてくれてるんだろう。

 自警団の団長のヴァイスに相談すると二つ返事で了承してくれた。公爵家の馬車を使うらしい。いや、今はサミュエルのものだから辺境伯家の馬車か。
「本当に俺らが騎士団に入れる可能性があるなんて。信じられないぜ」
「ああ。まずは入隊試験があるが、俺がみたところ半数以上は合格ラインだ。もし入隊できなくても準師団ということで雇えるように交渉中だ」
「サミュエル様、ありがとうよ!」
 サミュエルとがしっと腕をくんでヴァイスはニカッと笑った。男友達っていいな。

「では次はアルベルト様ですね」
 デセルトがニコニコと僕を引き連れていく。なんだ?と思っていると侍女達に囲まれて着せ替えが始まった。
「アルベルト様の美しさに更に磨きをかけましよう!髪の手入れを!香油で肌を磨き上げて!」
「え?、いや、あの」
「私達、ここに配属されて久しぶりの侍女らしいお仕事なのです!どうかお任せください!腕がなります!」
 張り切っている彼女らに水を差すわけにも行かない。そうか、留守を預かってはいたがこうして、誰かに仕えて仕事をすることはなかったのかもしれない。
「ありがとう。では皆んなにすべて任せるよ。僕をどこに出しても恥ずかしくないように磨いてくれ」

 なんだかやったことのないパックやらマッサージやら深夜まで磨かれその日もへとへととなり就寝した。目覚めるとまたサミュエルの腕に抱き込まれていた。ごめんよ。また起きて待っていられなかった。
「手触りがいいな」
 サミュエル。ニヤニヤしながら何度もあちこち触りまくるのはくすぐったいからやめてくれ。

「アルさまー!」 
 農家の方々が今日の収穫物を持ち寄ってきてくれたようだ。そのまま城に居着いて馬車の飾り付けやら手伝ってくれている。
「ありがとう!でもいいの?仕事は?」
「仕事はもう朝のうちに終わってますだ。へへ。アル様にお会いしたくて昼間はここで手伝いさせてもらいに来ましたんで」
「ちょっと!交代だって言ったでしよ!あんただけアル様とお話しするんじゃないよ!」
「あはは。皆んなありがとう」
 
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