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第二章:辺境伯は溺愛中
22伯爵の意地
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それまで好意的だった近隣の領主たちが急に手のひらをかえしたような扱いをしてきた。
「なんだというのだいったい。いつもなら手土産持って挨拶に来る頃なのに」
王都への往来にはノワール領を通る道順が最短だった。迂回する山道もあるが、かなり時間がかかる。そのため、ノワール領を通るのならと通行料がわりに資金や品物を渡すように交渉していた。だが、サミュエル領主がこの地に君臨することが決まったからにはそれは賄賂となるのではと皆が言い出したのだ。何故なら、本当はその道はノワール領ではないからだそうだ。今までは口約束や噂で自分の領だと言っていた地域が実はサミュエル領だったと判明したらしい。
「くそっ。信じられん!ほんのちょっとズレてるだけではないか。それぐらい我が領地と同じだろうが!」
あれからしばらくして王都から測量技師という奴らがやってきて吾輩の領地を細かく測量していったのだ。もちろん抗議はした。今までこの地は吾輩が治めていたのだから少しぐらい領地を広げても良いだろうと。
「何をおっしゃってるのですか?それを決めるのは貴方ではなく王や領主です」
「いや。だから吾輩が領主……の代理だったのだ」
「それが何か?現在は新領主がここを統治してるのですよ」
「はは。あんな青二才……」
「サミュエル辺境伯様は伯爵である貴方より格上です。自分の身分をわきまえなさったほうがよろしいかと」
「ぐぬぬぬ」
なんたることだ!これまでここを守っていたのは吾輩だぞ!吾輩の父上がこの地を敵から守ったのだ!すなわちそれは吾輩の手柄と同じではないか!
「そうだ、父上がもっと沢山褒美を要求していればよかったのに!」
父上は武芸には優れていたが野心のない人だった。母上はいつも吾輩に愚痴を言っていた。
「わたくし達はもっと贅沢な暮らしができるはずなのよ。なんせ伯爵なのですから。爵位は簡単に上げることが可能なの。だってあの人がちょっと敵と戦ったぐらいで爵位が上がったのだもの」
父上は吾輩も騎士に育てようとしたが母上がそれを止めた。我が子に危ない真似をさせたくないと。戦いなどといった野蛮な真似をしなくて済んだのは感謝するが、母上は小言が多すぎた。今は田舎の保有地で過ごしてもらっている。
父上はよほど領地経営が嫌だったのだろう。早々と有能な執事を見つけてきて自分は諸国へ剣術修行に出てしまった。今やどこにいるのかさえわからない。
「このまま吾輩が引き下がると思っているのだな。くそっ。そうだ、もう一度戦をおこせばいいのだ!」
そして武勲をあげればいいのだろう?父上に出来たことが吾輩に出来ないわけがない。そういえばサミュエルが作ろうとしている騎士団の支部とやらはまだ正式稼働していない。ならば叩くのは今か?
「今ならまだ王都からの支援も届いてはいない。ぐふふふ。立ち上がりから失敗すれば王都からの信頼も崩れ落ちるだろう。ぐははは。そこで吾輩が登場し敵をやっつければいいのだ」
◇◆◇
「ブルーノ!今すぐに腕の立つ者を探せ!」
また伯爵がなにやら思いついたようだ。本当に人使いが荒い。
「その前に理由をお聞かせください」
「ふむ。武勲をあげれるぐらい強いものを探すのだ!」
私の質問に答える気はないということか。何をする気だ?
「すぐに武芸に優れているものを集めるのは無理があります」
「何を言うのだ。あの青二さ……。サミュエル様のところにたくさん居るではないか。ということはこの地には腕の立つ者が多くいるのだろう?やつのところより強いものを連れてくればいいのだ!」
「そんなに簡単に見つかるものではありません。それにサミュエル辺境伯様のところは自警団です。ご自身の領地だけでなく近隣の領地にも出向いてくださるのです。皆この地を守るという志の強いものの集まりなのです」
「そうだ、危機の時にこの領地と吾輩を守ることが出来る強い者が必要なのだ」
「危機の時ですか?例えばどのような危機でしょうか?」
「戦争に決まっとるではないか。戦になっても吾輩の身を守れる強い者を味方に引き入れとかないとな」
……頭が痛くなってきた。どういう思考回路をしてるのだろうか?何故突然戦争などと言い出したのか?まさかと思うが何かを隣国に仕掛けようとしているのではあるまいな。
「戦ですか?それはたいへんでございますね。でもなぜ戦争が起こると?」
「そりゃあ、ここは隣国との境界地。境界を無断で越して攻め入ったり、また王都への最短ルートや警備の薄い個所を教えれば敵は攻め入ってくれるかもしれぬではないか」
「そうですか。確かにそれなら傭兵が必要ですね。しかしまずは本当に強いのかどうか確かめて行かないといけません。言われるままに雇ってからでは遅いですからね。どのくらいの期間までに集める必要があるのですか?」
「ううむ。そうなのか。期間は早ければ早い方が良いのだ」
「……そうなのですか。では集めるにしても軍資金はどうなさるのですか?かなり必要となりますが」
「資金なら心配するな。お前には言ってなかったが吾輩は別のルートで資金を稼いでいたのだ」
そうか。アレを使うと言う事か。
「かしこまりました。ですが、動くのはくれぐれも私めが人員を確保してからにしてくださいませ」
「何故だ?」
「敵がこちらのいう事を聞くとは限りません。伯爵さまを守れる人手が足りないうちに勝手に動かれますと、貴方様のお命を守れなくなるやもしれません」
「吾輩をまもれなくなる?それは困る。困るぞ。よし、お前に任せるからすぐに手配しろ!」
「かしこまりました」
まったく大人しくしておけばいいものを。どうしてこうも浅知恵を働かせるのだろうか?やはりこいつを放っておいてはろくなことにならない。この地の安泰がアルベルト様の安泰。不穏な動きをするものは排除しなければならない。さて。どう動くのが最適だろうか。
まずはデセルトへ報告せねば……。
「なんだというのだいったい。いつもなら手土産持って挨拶に来る頃なのに」
王都への往来にはノワール領を通る道順が最短だった。迂回する山道もあるが、かなり時間がかかる。そのため、ノワール領を通るのならと通行料がわりに資金や品物を渡すように交渉していた。だが、サミュエル領主がこの地に君臨することが決まったからにはそれは賄賂となるのではと皆が言い出したのだ。何故なら、本当はその道はノワール領ではないからだそうだ。今までは口約束や噂で自分の領だと言っていた地域が実はサミュエル領だったと判明したらしい。
「くそっ。信じられん!ほんのちょっとズレてるだけではないか。それぐらい我が領地と同じだろうが!」
あれからしばらくして王都から測量技師という奴らがやってきて吾輩の領地を細かく測量していったのだ。もちろん抗議はした。今までこの地は吾輩が治めていたのだから少しぐらい領地を広げても良いだろうと。
「何をおっしゃってるのですか?それを決めるのは貴方ではなく王や領主です」
「いや。だから吾輩が領主……の代理だったのだ」
「それが何か?現在は新領主がここを統治してるのですよ」
「はは。あんな青二才……」
「サミュエル辺境伯様は伯爵である貴方より格上です。自分の身分をわきまえなさったほうがよろしいかと」
「ぐぬぬぬ」
なんたることだ!これまでここを守っていたのは吾輩だぞ!吾輩の父上がこの地を敵から守ったのだ!すなわちそれは吾輩の手柄と同じではないか!
「そうだ、父上がもっと沢山褒美を要求していればよかったのに!」
父上は武芸には優れていたが野心のない人だった。母上はいつも吾輩に愚痴を言っていた。
「わたくし達はもっと贅沢な暮らしができるはずなのよ。なんせ伯爵なのですから。爵位は簡単に上げることが可能なの。だってあの人がちょっと敵と戦ったぐらいで爵位が上がったのだもの」
父上は吾輩も騎士に育てようとしたが母上がそれを止めた。我が子に危ない真似をさせたくないと。戦いなどといった野蛮な真似をしなくて済んだのは感謝するが、母上は小言が多すぎた。今は田舎の保有地で過ごしてもらっている。
父上はよほど領地経営が嫌だったのだろう。早々と有能な執事を見つけてきて自分は諸国へ剣術修行に出てしまった。今やどこにいるのかさえわからない。
「このまま吾輩が引き下がると思っているのだな。くそっ。そうだ、もう一度戦をおこせばいいのだ!」
そして武勲をあげればいいのだろう?父上に出来たことが吾輩に出来ないわけがない。そういえばサミュエルが作ろうとしている騎士団の支部とやらはまだ正式稼働していない。ならば叩くのは今か?
「今ならまだ王都からの支援も届いてはいない。ぐふふふ。立ち上がりから失敗すれば王都からの信頼も崩れ落ちるだろう。ぐははは。そこで吾輩が登場し敵をやっつければいいのだ」
◇◆◇
「ブルーノ!今すぐに腕の立つ者を探せ!」
また伯爵がなにやら思いついたようだ。本当に人使いが荒い。
「その前に理由をお聞かせください」
「ふむ。武勲をあげれるぐらい強いものを探すのだ!」
私の質問に答える気はないということか。何をする気だ?
「すぐに武芸に優れているものを集めるのは無理があります」
「何を言うのだ。あの青二さ……。サミュエル様のところにたくさん居るではないか。ということはこの地には腕の立つ者が多くいるのだろう?やつのところより強いものを連れてくればいいのだ!」
「そんなに簡単に見つかるものではありません。それにサミュエル辺境伯様のところは自警団です。ご自身の領地だけでなく近隣の領地にも出向いてくださるのです。皆この地を守るという志の強いものの集まりなのです」
「そうだ、危機の時にこの領地と吾輩を守ることが出来る強い者が必要なのだ」
「危機の時ですか?例えばどのような危機でしょうか?」
「戦争に決まっとるではないか。戦になっても吾輩の身を守れる強い者を味方に引き入れとかないとな」
……頭が痛くなってきた。どういう思考回路をしてるのだろうか?何故突然戦争などと言い出したのか?まさかと思うが何かを隣国に仕掛けようとしているのではあるまいな。
「戦ですか?それはたいへんでございますね。でもなぜ戦争が起こると?」
「そりゃあ、ここは隣国との境界地。境界を無断で越して攻め入ったり、また王都への最短ルートや警備の薄い個所を教えれば敵は攻め入ってくれるかもしれぬではないか」
「そうですか。確かにそれなら傭兵が必要ですね。しかしまずは本当に強いのかどうか確かめて行かないといけません。言われるままに雇ってからでは遅いですからね。どのくらいの期間までに集める必要があるのですか?」
「ううむ。そうなのか。期間は早ければ早い方が良いのだ」
「……そうなのですか。では集めるにしても軍資金はどうなさるのですか?かなり必要となりますが」
「資金なら心配するな。お前には言ってなかったが吾輩は別のルートで資金を稼いでいたのだ」
そうか。アレを使うと言う事か。
「かしこまりました。ですが、動くのはくれぐれも私めが人員を確保してからにしてくださいませ」
「何故だ?」
「敵がこちらのいう事を聞くとは限りません。伯爵さまを守れる人手が足りないうちに勝手に動かれますと、貴方様のお命を守れなくなるやもしれません」
「吾輩をまもれなくなる?それは困る。困るぞ。よし、お前に任せるからすぐに手配しろ!」
「かしこまりました」
まったく大人しくしておけばいいものを。どうしてこうも浅知恵を働かせるのだろうか?やはりこいつを放っておいてはろくなことにならない。この地の安泰がアルベルト様の安泰。不穏な動きをするものは排除しなければならない。さて。どう動くのが最適だろうか。
まずはデセルトへ報告せねば……。
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