114 / 215
わたりどり(LINK:primeira desejo 102)
しおりを挟む
一拍遅れて安達さんから拍手が送られる。
場に、演者に、そしておそらく観覧者にも。宿った熱をそのまま繋げるよう、間をおかずに。
マレットを置き、ウクレレに持ち替え譜面台前に移る。
コードも歌詞も暗記しているが、念のため譜面を見つつ、短く呼吸を整える。その間、体感時間としては三秒も経っていないはず。
前奏を弾く。
この実演は二部構成だ。
最初はバツカーダで、サンバの根源たる音とダンスを。
サンバを知らない相手に、サンバの本質としての魅力を凝縮した演目にて一気に心を掴むことを意図した。
次の演目は、よく知られている曲をそのまま使用する。サンバアレンジすら施さない。
その曲と歌に、サンバの楽器を用い、サンバダンサーが踊る。
サンバが敷居の高いものではなく、馴染みのある曲とも融合できることを示し、使い勝手が良いと思ってもらうことが狙いだ。
選んだ曲はAlexandrosの『ワタリドリ』。
ギターの前奏が印象的で、これならウクレレ一本でもある程度再現できる。
曲の知名度も、テレビコマーシャルや映画の主題歌などとタイアップしている。
安達さんがロック付きであることは事前調査で把握している。阿波ゼルコーバの担当者も音楽やテレビ、映画に関する感度は一般的との評だから、それなりの露出のあった楽曲なら、サビくらいは知られている可能性は高い。
軽やかながらシリアスな印象の前奏のソロが終わると、リズムが合流し歌が始まる。
リズムはがんこしかいない。
がんこはマレットを両手に持っていた。通常のサンバではあまりやらないが、マレットを二本使ってバリエーションを持たせたリズムを打つことで、軽妙な曲に相応しいスピード感を損なわないベースを作れる構成にしていた。
前奏の途中に入る印象的なドラムの一音を、がんこはスルドで表現した。
そのまま、ドラム部分をがんこのスルドが担当する。
続く歌は私が歌う。
そこからはほづみとひいのダンスも合流する。
導入部分のAメロはふたりそれぞれの動きのフリーだが、Bメロからしばらくコレオ(振り付け)の構成だ。
『ソルエス』が五年前に浅草サンバカーニバル用に作った『エンヘード』(テーマ)である『天空』にて、当時中学生と小学生だった姉妹は、他の同年代の『クリアンサス』(子どものダンサー)と一緒に演じた『アーラ』(パレードのストーリーを表現するために幾つかのグループが作られ、それぞれが表現する衣装を身につけ、振り付けで踊る。そのグループの呼び名)が、「空を彩る鳥」だった。
その時のコレオを転用したダンスだ。
優雅で、時に力強く、雄大に空を往く様だった。
サンバの衣装の特徴とも言える『コステイロ』(背に背負った羽根飾り)が揺れ、舞っている。
いわゆるJ-POPやロックだってサンバは踊れるのだ。
冷静で。
沈着で。
抑制し統制し。
感情をそういうものとして据え置き、必要に応じて「使って」きた。
けれど今は、この場は、感情が支配している場だから。
がんちゃんがそう創りあげ。
ひいが染め上げた。
そういう場なのだから。
私も遠慮はしない。
場に、演者に、そしておそらく観覧者にも。宿った熱をそのまま繋げるよう、間をおかずに。
マレットを置き、ウクレレに持ち替え譜面台前に移る。
コードも歌詞も暗記しているが、念のため譜面を見つつ、短く呼吸を整える。その間、体感時間としては三秒も経っていないはず。
前奏を弾く。
この実演は二部構成だ。
最初はバツカーダで、サンバの根源たる音とダンスを。
サンバを知らない相手に、サンバの本質としての魅力を凝縮した演目にて一気に心を掴むことを意図した。
次の演目は、よく知られている曲をそのまま使用する。サンバアレンジすら施さない。
その曲と歌に、サンバの楽器を用い、サンバダンサーが踊る。
サンバが敷居の高いものではなく、馴染みのある曲とも融合できることを示し、使い勝手が良いと思ってもらうことが狙いだ。
選んだ曲はAlexandrosの『ワタリドリ』。
ギターの前奏が印象的で、これならウクレレ一本でもある程度再現できる。
曲の知名度も、テレビコマーシャルや映画の主題歌などとタイアップしている。
安達さんがロック付きであることは事前調査で把握している。阿波ゼルコーバの担当者も音楽やテレビ、映画に関する感度は一般的との評だから、それなりの露出のあった楽曲なら、サビくらいは知られている可能性は高い。
軽やかながらシリアスな印象の前奏のソロが終わると、リズムが合流し歌が始まる。
リズムはがんこしかいない。
がんこはマレットを両手に持っていた。通常のサンバではあまりやらないが、マレットを二本使ってバリエーションを持たせたリズムを打つことで、軽妙な曲に相応しいスピード感を損なわないベースを作れる構成にしていた。
前奏の途中に入る印象的なドラムの一音を、がんこはスルドで表現した。
そのまま、ドラム部分をがんこのスルドが担当する。
続く歌は私が歌う。
そこからはほづみとひいのダンスも合流する。
導入部分のAメロはふたりそれぞれの動きのフリーだが、Bメロからしばらくコレオ(振り付け)の構成だ。
『ソルエス』が五年前に浅草サンバカーニバル用に作った『エンヘード』(テーマ)である『天空』にて、当時中学生と小学生だった姉妹は、他の同年代の『クリアンサス』(子どものダンサー)と一緒に演じた『アーラ』(パレードのストーリーを表現するために幾つかのグループが作られ、それぞれが表現する衣装を身につけ、振り付けで踊る。そのグループの呼び名)が、「空を彩る鳥」だった。
その時のコレオを転用したダンスだ。
優雅で、時に力強く、雄大に空を往く様だった。
サンバの衣装の特徴とも言える『コステイロ』(背に背負った羽根飾り)が揺れ、舞っている。
いわゆるJ-POPやロックだってサンバは踊れるのだ。
冷静で。
沈着で。
抑制し統制し。
感情をそういうものとして据え置き、必要に応じて「使って」きた。
けれど今は、この場は、感情が支配している場だから。
がんちゃんがそう創りあげ。
ひいが染め上げた。
そういう場なのだから。
私も遠慮はしない。
0
あなたにおすすめの小説
スルドの声(交響) primeira desejo
桜のはなびら
キャラ文芸
小柄な体型に地味な見た目。趣味もない。そんな目立たない少女は、心に少しだけ鬱屈した思いを抱えて生きてきた。
高校生になっても始めたのはバイトだけで、それ以外は変わり映えのない日々。
ある日の出会いが、彼女のそんな生活を一変させた。
出会ったのは、スルド。
サンバのパレードで打楽器隊が使用する打楽器の中でも特に大きな音を轟かせる大太鼓。
姉のこと。
両親のこと。
自分の名前。
生まれた時から自分と共にあったそれらへの想いを、少女はスルドの音に乗せて解き放つ。
※表紙はaiで作成しました。イメージです。実際のスルドはもっと高さのある大太鼓です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
千紫万紅のパシスタ 累なる色編
桜のはなびら
キャラ文芸
文樹瑠衣(あやきるい)は、サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』の立ち上げメンバーのひとりを祖父に持ち、母の茉瑠(マル、サンバネームは「マルガ」)とともに、ダンサーとして幼い頃から活躍していた。
周囲からもてはやされていたこともあり、レベルの高いダンサーとしての自覚と自負と自信を持っていた瑠衣。
しかし成長するに従い、「子どもなのに上手」と言うその付加価値が薄れていくことを自覚し始め、大人になってしまえば単なる歴の長いダンサーのひとりとなってしまいそうな未来予想に焦りを覚えていた。
そこで、名実ともに特別な存在である、各チームに一人しか存在が許されていないトップダンサーの称号、「ハイーニャ・ダ・バテリア」を目指す。
二十歳になるまで残り六年を、ハイーニャになるための六年とし、ロードマップを計画した瑠衣。
いざ、その道を進み始めた瑠衣だったが......。
※表紙はaiで作成しています
スルドの声(嚶鳴2) terceira homenagem
桜のはなびら
現代文学
何かを諦めて。
代わりに得たもの。
色部誉にとってそれは、『サンバ』という音楽で使用する打楽器、『スルド』だった。
大学進学を機に入ったサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』で、入会早々に大きな企画を成功させた誉。
かつて、心血を注ぎ、寝食を忘れて取り組んでいたバレエの世界では、一度たりとも届くことのなかった栄光。
どれだけの人に支えられていても。
コンクールの舞台上ではひとり。
ひとりで戦い、他者を押し退け、限られた席に座る。
そのような世界には適性のなかった誉は、サンバの世界で知ることになる。
誉は多くの人に支えられていることを。
多くの人が、誉のやろうとしている企画を助けに来てくれた。
成功を収めた企画の発起人という栄誉を手に入れた誉。
誉の周りには、新たに人が集まってくる。
それは、誉の世界を広げるはずだ。
広がる世界が、良いか悪いかはともかくとして。
スルドの声(共鳴) terceira esperança
桜のはなびら
現代文学
日々を楽しく生きる。
望にとって、それはなによりも大切なこと。
大げさな夢も、大それた目標も、無くたって人生の価値が下がるわけではない。
それでも、心の奥に燻る思いには気が付いていた。
向かうべき場所。
到着したい場所。
そこに向かって懸命に突き進んでいる者。
得るべきもの。
手に入れたいもの。
それに向かって必死に手を伸ばしている者。
全部自分の都合じゃん。
全部自分の欲得じゃん。
などと嘯いてはみても、やっぱりそういうひとたちの努力は美しかった。
そういう対象がある者が羨ましかった。
望みを持たない望が、望みを得ていく物語。
ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!
オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。
ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。
学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。
当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。
同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。
ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。
そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。
まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。
その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。
こうしてジュリーとの同居が決まった。
しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は賑やかになった。
太陽と星のバンデイラ
桜のはなびら
キャラ文芸
〜メウコラソン〜
心のままに。
新駅の開業が計画されているベッドタウンでのできごと。
新駅の開業予定地周辺には開発の手が入り始め、にわかに騒がしくなる一方、旧駅周辺の商店街は取り残されたような状態で少しずつ衰退していた。
商店街のパン屋の娘である弧峰慈杏(こみねじあん)は、店を畳むという父に代わり、店を継ぐ決意をしていた。それは、やりがいを感じていた広告代理店の仕事を、尊敬していた上司を、かわいがっていたチームメンバーを捨てる選択でもある。
葛藤の中、相談に乗ってくれていた恋人との会話から、父がお店を継続する状況を作り出す案が生まれた。
かつて商店街が振興のために立ち上げたサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』と商店街主催のお祭りを使って、父の翻意を促すことができないか。
慈杏と恋人、仕事のメンバーに父自身を加え、計画を進めていく。
慈杏たちの計画に立ちはだかるのは、都市開発に携わる二人の男だった。二人はこの街に憎しみにも似た感情を持っていた。
二人は新駅周辺の開発を進める傍ら、商店街エリアの衰退を促進させるべく、裏社会とも通じ治安を悪化させる施策を進めていた。
※表紙はaiで作成しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる