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今 旅に発つよ(LINK:primeira desejo 102)

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「問いかけて嘆いた夜」



 感情のまま、歌い上げる。

 歌は、ダンスは、楽器は、理屈ではない。
 感情で歌い、踊り、鳴らすものだ。



「ワタリドリの様に今旅に発つよ」


 横でスルドを打つがんこに目をやる。
 細かいリズムを二本のマレットを器用に使い打つがんこ。

 がんちゃん、上手になったね。
 すごいよ。
 これは追いつくのは大変そうだ。


 スルドのことだけではない。

 先ほどのプレゼンでのがんこ。
 社会人を相手に十全な出来栄えだったよ。

 心を打つスピーチをやってのけたがんこ。
 不覚にも、私まで感動しちゃったじゃない。


「『一人じゃない』って人々は歌う」


 がんこはもう、私が何らかの手など掛けなくても、充分に立っていける。歩んでいける。


「誰も聴いていない
気にも留めない」


 いや、今までもがんこはひとりで生きていこうとしているようだった。


 私を避け、両親を見限り、ただ独りで生きていこうと。家を、街を、おそらく家族には告げずに、出て行こうと、それなりに現実味のある計画を立てていたようだった。

 私はそれを大枠で察しながら、がんこの考えや行動などの全てを肯定し受け入れ、それもまたがんこの選択ならばと思っていた。本音を隠し、感情を殺して。


 そして今までも、私が表立ってがんこを積極的にサポートしてきたわけではない。

 がんこの成長に、本人が求める望みに、至るためのほんの少しのきっかけやサポートを、最低限施していただけだ。
 なるべく直截的な影響は与えないほうが良いと考えていた。構いたい、助けたい、護りたい、などの私の欲望は切り離して。野放しにすると歯止めが効かなくなりそうで。


 けれど、がんこは意志の力で成長を果たし、私の導きなんか必要とせずに、これまで抱えてきた鬱屈に、正しく清廉な評価を与えられる考え方を持つに至ることができた。


「ワタリドリの様に今群れをなして
大それた四重奏を奏で終える日まで」


 がんこはもう、ひとりで往ける。
 だけどがんこはもう、独りで在ろうとはしない。



 がんこの打つ軽やかながら力強い律動が、ほづみとひいを時に雄大に、時に激しく踊らせていた。

 がんこの音に合わせて、私は弦を弾き歌を歌う。声の限り。


 がんちゃんにはきっと、今届けたい想いがある。それを音に載せているのだ。


 私にだって、ある。
 届けたい想いが。
 声に込めるよ、がんちゃん。



 ーー追いかけて届くよう。


 誰かを、例えば私を、追っているのはがんちゃんだけではない。

 私だって、追いかける側だ。

 がんちゃんを助けたい、護りたいという思いは、まだある。これは捨てられないし捨てたくはない。

 だけど、がんちゃんはいつまでも私の後ろをついてくるだけの妹ではない。

 がんちゃんにはがんちゃんの辿ってきた人生があり、そこで私を遥かに凌駕する何かを得たりもしているのだ。
 私もがんちゃんに学び、助けられながら、がんちゃんと共に在れるよう、手を伸ばすのだ。
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