14 / 27
side マルク②
しおりを挟むセラフィーネが兄上との婚約を受け入れてくれたので、これで晴れてエルミナに想いを告げる事が出来る!!
そう意気込んでいた僕にもたらされた話は、「しばらく聖女の護衛の任務はしなくていい」だった。
「聖女の護衛ばかりでは、そなたの騎士としての腕前も鈍ってしまうだろう?」
その命令を下した第2王子ディーク殿下はそんな風に言ったが、きっと内心は違う。
僕が邪魔なんだと思う。
だって、彼もエルミナに惹かれている人間の一人だから。
エルミナが懇意にしている人間は僕一人では無い。
そして、彼女の可愛らしい容姿とあの天真爛漫な性格に惹かれている人間も僕だけではないと知っている。
「殿下……」
「あぁ、そう言えばマルク。君は婚約者との婚約が破談になったそうだな」
「! え、えぇ、そうですが……」
「それはさぞ大変だっただろうな」
ディーク殿下のその鋭い視線を受けて、僕は悟った。
──ディーク殿下は、僕に婚約者がいなくなったから警戒しているのだ、と。
エルミナが懇意にしている者達は僕を含めて全員婚約者がいる。
その中で現在、フリーになったのは……僕だけだ。
今、堂々とエルミナの手を取れる立場になったのは僕だけ。
だからどうにかして引き離そうとしているんだろう。
(ディーク殿下はおいそれと婚約破棄なんて出来る立場では無いからな……)
「……殿下、せめてエルミナ……聖女様とお話をする時間だけはください」
「……」
殿下は渋々だったが、そこは頷いてくれた。
「あら、マルクどうしたの?」
エルミナの元を訪ねると彼女はいつものように可愛らしい笑顔を見せてくれた。
「うん……実はしばらくエルミナの護衛から離れる事になりそうなんだ」
「え? どうして?」
エルミナがビックリした顔をする。
そうだよね、驚くよね……
「ディーク殿下に、少し騎士団に戻って腕を磨く様に言われたよ」
「どうして? マルクの実力なら今でも充分でしょう?」
「でも命令だから……」
「そんな、そんなの……ダメよ。私、あなたがいなくちゃ……!」
「エルミナ……」
エルミナが嫌がってくれてる様子なのがせめてもの救いだと思った。
「エルミナ、君が僕を呼んでくれた時はちゃんと君の元に駆けつけるから」
「マルク……嫌よ、私……!」
「ごめん、エルミナ。仕方ないんだよ」
あぁ、そんなに嫌がってくれるのか。
「マルク。私、私はね、あなたが1番なのよ」
「エルミナ?」
「あなたの事が1番好きよ。だから……また、ちゃんと戻って来てくれるわよね?」
「勿論だよ! 絶対君の元に戻って来るから!」
「……ありがとう、待ってるわ」
エルミナはニッコリ笑って言った。
その言葉に浮かれていた僕はその後のエルミナの小さな小さな呟きを拾う事は無かった。
「……今はまだ、あなたが必要なんだもの……」
──しかし。
結局、なかなかエルミナの元に戻る事が出来ずに無駄に日々だけが過ぎて行く。
最近の唯一の救いは、兄上とセラフィーネが思っていたよりも上手くいってそうに見える事だろうか。
(二人とも素直じゃないからもっと反発するかと思ってたんだけどな)
二人の結婚式の日程もだいぶ近付いて来た。
このまま幸せになってくれたらいいな、そんな風に思ってたその日──……
久しぶりにエルミナに呼び出された。
(ついに戻れるのかな??)
逸る気持ちを抑えながら、エルミナの元に駆け付けた。
「……今日、セラフィーネ様にお会いしたわ」
「え?」
セラフィーネに? 王城に来てたのか?
それより、何でエルミナがその事を??
「エルミナ? よく分からないんだけど、エルミナはセラフィーネの顔を知ってたの?」
「えぇ、もちろん知ってたわ」
エルミナがニッコリした顔で微笑んだ。
「僕の婚約破棄の事を聞いたの?」
「そうよ。どうしてその事をすぐに教えてくれなかったの? それに、どうして……セラフィーネ様はあなたのお兄様……レグラス様と新たに婚約しているの?」
「ごめん、伝えなきゃとは思ったんだけどちょうど任務を外されちゃった時だったから……それと兄上の婚約も、まぁ、色々事情があるんだよ」
「事情? それはつまりマルクが婚約破棄したから、お兄様が代わりになるしか無かったとかそういう……?」
「いや違うよ? そうではなくて兄上が望んだからだ」
「レグラス様が……望んだ?」
兄上のセラフィーネとの婚約は、兄上が強く強く望んだものだ。
遺言を盾に婚約を迫っていたけど、本当は遺言とか世間体とかそんなのは兄上の中ではどうでも良くて。
ただただ、ずっと好きだったセラフィーネを望んだ。それだけだ。
でも、そんな事を知らない世間から見れば(遺言の事は知られてなくても)、弟の不始末をその兄が代わりに婚約する事で責任取った、と見られている……そういう事なのだろうか。
「困るわ……」
「困る? 何がだい?」
エルミナが何に困っているのか分からず僕は首を傾げる事しか出来ない。
「……不仲じゃないと困るのよ」
「エルミナ?」
不仲じゃないと困る? 何を言ってるんだろう?
「ねぇ、マルク……ダメよ。セラフィーネ様とあなたは元に戻るべきよ」
「は? 何を言ってるの?」
「だから、あなたとセラフィーネ様が婚約者に戻るべきだと思うの」
──エルミナは、何を言ってるんだ!?
そんな事出来るはずないし、何でエルミナはそんな事を望むんだ!!
「何を言ってるんだ! そんな事は今更許されるはずがないし、エルミナは、エルミナは僕の事を好きなんじゃないのか!?」
「好きよ? 私はマルクの事、好きよ。でも、マルクの婚約者はセラフィーネ様であるべきだと思うのよ……」
「何でそんな話になるんだ!」
エルミナが何を考えてるのかさっぱり分からない。
何故だ? まさかとは思うけどセラフィーネがエルミナに何か言ったのか?
いや、そんな事はあるはずない……そう思うけど……
そんな事を考えていると、エルミナがポロリと涙を零す。
「だって、私のせいでマルクとセラフィーネ様の仲を壊したなんて……申し訳ないんだもの……だから私はマルクの事は好きだけど……身を引くわ。ごめんなさい、マルク……」
「……!」
どうしてこうなったんだ? 僕にはさっぱり分からない。
「……君が身を引くと言っても、僕とセラフィーネの婚約は元には戻らないよ。セラフィーネは兄上と正式に婚約を結んでるんだから……」
それに、あの兄上がセラフィーネを手放すはずが無いじゃないか!
「レグラス様が望んだからとマルクは言うけど、レグラス様だって本当は無理して……」
「いや! 本当にそんな事は無いから」
むしろ、喜んでるよ。大喜びだよ。
セラフィーネが兄上との婚約を受け入れた時の、必死に喜びを隠そうとした顔が忘れられないよ。
「…………困ったわ」
エルミナは再びそう呟いていた。
「……そうだわ。ねぇ、マルク……レグラス様って何が好きかしら?」
涙を拭いながらエルミナがそんな事を聞いてくる。
──は? 今度は何を言い出した?
「何で兄上の事を気にするんだ?」
嫌な気持ち……ドス黒い気持ちが湧き上がってくる。
まさか、エルミナは兄上に興味を持ったのか?
「今日お会いした時に助けてもらったの。何かそのお礼が出来たらな、と思って」
「助けて?」
「ちょっとステミア様と……ね」
またか。
エルミナはステミア様と仲が悪い。これはもう有名な話だった。
「お礼は必要ないと思うよ。それに婚約者以外からの女性から何か贈られても兄上だって困るだろ?」
「そういうものなの?」
キョトンとした顔をするエルミナは可愛い。
可愛いけど、もう少し貴族社会の事を学ぶべきだと思う。
教師は何を教えてるんだろう……
「そういうものだよ」
「……マルクがセラフィーネ様とヨリを戻せばレグラス様には婚約者がいなくなるわ。そうしたら受け取って貰えるかしら?」
「……何でその話に戻るんだ! 無理だって言っただろう!?」
僕は思わず怒鳴っていた。
「ただ、お礼がしたかっただけなのに……」
エルミナはしゅんっと項垂れた。
兄上の好きなもの?
そんなの決まってる。セラフィーネだ。
他の何をあげても兄上が喜ぶはずが無いじゃないか。
贈り物だってセラフィーネから以外の物なんて受け取るはずが無い。確信持って言える。
「……」
エルミナは未だに項垂れていた。何か小さくブツブツ呟いてるけど聞き取れなかった。
やがて顔を上げたエルミナは僕を見て言った。
「マルク、もういいわ。聞きたい事は聞けたから。ありがとう」
「エルミナ……」
気のせいだろうか? 何だか突き放されたような気持ちになった。
僕はこれ以上何も言えずにエルミナの部屋から出て行った。
(結局、護衛に戻る話どころでは無かったな……)
僕の事が好きだと言いながらセラフィーネとヨリを戻せなんて言うエルミナが分からない。やはり、セラフィーネと何かあったのだろうか……?
「……セラフィーネにも話を聞いてみるか……」
エルミナが何を考えてるのか分からなくて、僕の中には不安な気持ちだけが強く残った。
126
あなたにおすすめの小説
お前との婚約は、ここで破棄する!
ねむたん
恋愛
「公爵令嬢レティシア・フォン・エーデルシュタイン! お前との婚約は、ここで破棄する!」
華やかな舞踏会の中心で、第三王子アレクシス・ローゼンベルクがそう高らかに宣言した。
一瞬の静寂の後、会場がどよめく。
私は心の中でため息をついた。
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
【完結】婚約者様、嫌気がさしたので逃げさせて頂きます
高瀬船
恋愛
ブリジット・アルテンバークとルーカス・ラスフィールドは幼い頃にお互いの婚約が決まり、まるで兄妹のように過ごして来た。
年頃になるとブリジットは婚約者であるルーカスを意識するようになる。
そしてルーカスに対して淡い恋心を抱いていたが、当の本人・ルーカスはブリジットを諌めるばかりで女性扱いをしてくれない。
顔を合わせれば少しは淑女らしくしたら、とか。この年頃の貴族令嬢とは…、とか小言ばかり。
ちっとも婚約者扱いをしてくれないルーカスに悶々と苛立ちを感じていたブリジットだったが、近衛騎士団に所属して騎士として働く事になったルーカスは王族警護にもあたるようになり、そこで面識を持つようになったこの国の王女殿下の事を頻繁に引き合いに出すようになり…
その日もいつものように「王女殿下を少しは見習って」と口にした婚約者・ルーカスの言葉にブリジットも我慢の限界が訪れた──。
【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜
よどら文鳥
恋愛
伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。
二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。
だがある日。
王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。
ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。
レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。
ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。
もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。
そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。
だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。
それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……?
※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。
※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)
「華がない」と婚約破棄された私が、王家主催の舞踏会で人気です。
百谷シカ
恋愛
「君には『華』というものがない。そんな妻は必要ない」
いるんだかいないんだかわからない、存在感のない私。
ニネヴィー伯爵令嬢ローズマリー・ボイスは婚約を破棄された。
「無難な妻を選んだつもりが、こうも無能な娘を生むとは」
父も私を見放し、母は意気消沈。
唯一の望みは、年末に控えた王家主催の舞踏会。
第1王子フランシス殿下と第2王子ピーター殿下の花嫁選びが行われる。
高望みはしない。
でも多くの貴族が集う舞踏会にはチャンスがある……はず。
「これで結果を出せなければお前を修道院に入れて離婚する」
父は無慈悲で母は絶望。
そんな私の推薦人となったのは、ゼント伯爵ジョシュア・ロス卿だった。
「ローズマリー、君は可愛い。君は君であれば完璧なんだ」
メルー侯爵令息でもありピーター殿下の親友でもあるゼント伯爵。
彼は私に勇気をくれた。希望をくれた。
初めて私自身を見て、褒めてくれる人だった。
3ヶ月の準備期間を経て迎える王家主催の舞踏会。
華がないという理由で婚約破棄された私は、私のままだった。
でも最有力候補と噂されたレーテルカルノ伯爵令嬢と共に注目の的。
そして親友が推薦した花嫁候補にピーター殿下はとても好意的だった。
でも、私の心は……
===================
(他「エブリスタ」様に投稿)
あなたのことが大好きなので、今すぐ婚約を解消いたしましょう!
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「ランドルフ様、私との婚約を解消しませんかっ!?」
子爵令嬢のミリィは、一度も対面することなく初恋の武人ランドルフの婚約者になった。けれどある日ミリィのもとにランドルフの恋人だという踊り子が押しかけ、婚約が不本意なものだったと知る。そこでミリィは決意した。大好きなランドルフのため、なんとかしてランドルフが真に愛する踊り子との仲を取り持ち、自分は身を引こうと――。
けれどなぜか戦地にいるランドルフからは、婚約に前向きとしか思えない手紙が届きはじめる。一体ミリィはつかの間の婚約者なのか。それとも――?
戸惑いながらもぎこちなく心を通わせはじめたふたりだが、幸せを邪魔するかのように次々と問題が起こりはじめる。
勘違いからすれ違う離れ離れのふたりが、少しずつ距離を縮めながらゆっくりじりじりと愛を育て成長していく物語。
◇小説家になろう、他サイトでも(掲載予定)です。
◇すでに書き上げ済みなので、完結保証です。
最愛の人に裏切られ死んだ私ですが、人生をやり直します〜今度は【真実の愛】を探し、元婚約者の後悔を笑って見届ける〜
腐ったバナナ
恋愛
愛する婚約者アラン王子に裏切られ、非業の死を遂げた公爵令嬢エステル。
「二度と誰も愛さない」と誓った瞬間、【死に戻り】を果たし、愛の感情を失った冷徹な復讐者として覚醒する。
エステルの標的は、自分を裏切った元婚約者と仲間たち。彼女は未来の知識を武器に、王国の影の支配者ノア宰相と接触。「私の知性を利用し、絶対的な庇護を」と、大胆な契約結婚を持ちかける。
侯爵令嬢リリアンは(自称)悪役令嬢である事に気付いていないw
さこの
恋愛
「喜べリリアン! 第一王子の婚約者候補におまえが挙がったぞ!」
ある日お兄様とサロンでお茶をしていたらお父様が突撃して来た。
「良かったな! お前はフレデリック殿下のことを慕っていただろう?」
いえ! 慕っていません!
このままでは父親と意見の相違があるまま婚約者にされてしまう。
どうしようと考えて出した答えが【悪役令嬢に私はなる!】だった。
しかしリリアンは【悪役令嬢】と言う存在の解釈の仕方が……
*設定は緩いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる