【完結】契約の花嫁だったはずなのに、無口な旦那様が逃がしてくれません

Rohdea

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4. 旦那様(仮)は謎すぎる!

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  こ、これはどういう事なの!?
  
   ──ナデナデ……

  どう考えても私は今……旦那様(仮)にナデナデをされている!

  (旦那様(仮)はどういった感情からこんな事をしているの!?)

  分からない。
  私にはさっぱり、分からない。
  頭をナデナデなんて子供の頃にあったかどうか……
  と記憶を辿るも、

  (───シルヴィはともかく、私は無いわね)

  つまり今、旦那様(仮)にされているコレが、人生初の頭ナデナデという事になる!?

「あ、あの、アド……いえ、だ、旦那様?  こ、これはいったいどうー」
「……!!」

  ────ナデナデナデ……!

  (え!?  撫でられるスピードがアップした!?)

  ──これはどういう事でしょうか?
  そう聞きたかっただけなのに。何故、加速したの?

  (でも、これは一応、私を労わってくれている……そう思っていいのよね?)

  ……ナデナデ

「……」
「……」

  そして、ようやく気が済んだのかナデナデを終えた旦那様(仮)は、私の全身に怪我が無い事を確認するかのような動作を始める。
  そこで、ようやく私はハッと気付く。
  ナデナデ……?  というとんでもない攻撃に気を取られてしまったけれど、私は旦那様(仮)に階段から落ちた所を助けられていた。

  (ちゃんとお礼を伝えていない!)

「だ、旦那様……えっと、ありがとうございます。助けて頂いたので痛い所もありません」
「……!」

  私がお礼を伝えると旦那様(仮)は明らかにホッとした様子で、そのまま、とても柔らかく優しそうな笑顔を見せたので私は心の底から驚いた。

   (えぇ!?)

「だ……旦那様……眩しいです」
「?」
「あ!  いえ、すみません……な、何でもありません。間違えました……」

  (……な、何を口走っているの、私は!)

「……」

  ついうっかり血迷った発言をしてしまったので、旦那様(仮)は一瞬、怪訝そうな顔をしたけれど直ぐに元に戻ってくれた。


  ──とりあえず色々混乱しているけれど、これだけは分かったわ。
  旦那様(仮)、無口なのは間違いないけれど、多分、冷酷無慈悲では無い。



*****



「ミルフィ様、坊っちゃまとの対面はどうでしたか?」
「無口だったわ」
「あら、やっぱり!  何か会話は?」
「無口だったわ」
「あらあら、坊っちゃまったら。これではせっかくのお嫁さんに逃げられてしまうじゃないの」

  ルンナが「困ったさんですね」とため息を吐く。
  この様子だと旦那様(仮)は喋れないわけではない……という事よね?
  それにしてもこれは困ったさん……で済む問題なのかしら?  絶対違う。

  旦那様(仮)が想像以上に無口だった事はこの際、もういい。話に聞いていた通りだから驚かない。
  だけど、あの頭ナデナデだけは分からないわ!

「ルンナ、あの、旦那様って……」
「どうかしましたか?」
「(仮初の)妻がペットにでも見える病気でも患っているのかしら?」
「………………はい?」

  ルンナの表情が全身が、意味が分かりません!  と言っている。
  
「ミルフィ様?  何故ペットなどと?」
「だって、旦那様には私がペットか何かに見えたのかしらと思って」
「はい!?」
「だって、言葉は交わしてくれないのに頭をナデナデだけはされたんだもの」
「え……ナデ?」

  ルンナの表情が固まったので、どうやら旦那様(仮)のこの行動は、普段から行われているわけではないらしい。
  数秒固まったルンナは言う。

「……コホンッ、よく分かりませんが、夜は皆で顔を合わせてのお食事です。準備をしてしまいましょう!」
「……そうね」
 
  ルンナは考える事を放棄したらしい。

  さすがの旦那様(仮)も、両親……お義父様やお義母様の前ではナデナデなんてしないはずだし、少しくらい会話もするわよね。

  (そこで、真の姿が見られるはず!)


  ──と、思っていた。


「ミルフィさん、屋敷には慣れたかしら?」
「は、はい!  おかげさまで。皆様にはよくしてもらっています」
「……」
「それは良かった。何か不自由な事があればなんでも言ってくれ」
「ありがとうございます」
「……」

  夕食時間になった。
  ロイター侯爵夫妻とその息子である旦那様(仮)と、その嫁(仮)の私という初めての顔揃えでの食事。

  (しゃ、喋らない!)

  なんと、旦那様(仮)は、ここでも無口のままだった。
  だからと言って、お義父様やお義母様が旦那様(仮)を無視しているわけではない。

「アドルフォ、すまなかったな。せっかくの可愛い花嫁の到着の日に」
「……」
「あぁ、分かってる、だがこれで暫くは領地に行かなくても大丈夫だろう。これからはゆっくりミルフィさんとの仲を深めるといい」
「……」
「まぁ!  アドルフォったら!  照れているの?  珍しいものを見たわ」 
「……」

  (今の沈黙が、照れ……ですって!?)

  私はこの親子の会話(?)に愕然としていた。
  驚き過ぎて、せっかくの美味しいディナーの味がさっぱり分からない。
  もはや、皿の上でカチャカチャしているだけ。

  それにしても……
  私にはさっぱり分からないけれど、親子の中ではこれで会話が成立しているらしい。

「ミルフィさん」
「は、はい!」
 
  突然、夫人から話を振られた私は慌てて受け答える。

「ごめんなさいね、この子、本当に無口で……これからも多分気が利かない事ばかりだと思うの」
「あ、いえ……」
 
  気が利くとか利かない以前の問題かと思います!
  とは、さすがに言えない。

「それでも愛想を尽かさないでいてくれると嬉しいわ」
「そうだよな、あれだけアドルフォが望み待ちに待った花嫁だからな」
「……!!」
「ん?  どうしたアドルフォ?  照れてるのか?」

  (あ!  今のは少し分かったわ)

  照れている……かは分からないけれど、旦那様(仮)は少し慌てていた。

  (なるほど……家族や使用人はこういう些細な表情や行動の変化を読み取っているわけね?)

  理解はした。

「……いや、無理」

  私は小声で呟く。

  (そんな高等技術習得出来る気がしないわ!)


  とりあえず、旦那様は噂に違わず無口!
  それを大いに実感させられて私と旦那様(仮)の初対面は終わった────
 
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