【完結】契約の花嫁だったはずなのに、無口な旦那様が逃がしてくれません

Rohdea

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3. 旦那様(仮)との対面

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  私が旦那様(仮)とお会い出来たのは、それから三日後の事だった。



「え?  戻って来られたの?」
「先程、早馬にて連絡がありました!  もうすぐ戻られるそうです」
「……」

  その日の朝、私付きのメイド、ルンナが「坊っちゃまが戻られるそうですよ」そう教えてくれた。

  (ようやく……ようやく旦那様(仮)との対面なのね!)

「あの、聞いてもいいかしら?」
「はい?  どうされました?」
「旦那様……えっと、アドルフォ様ってどんな方なのかしら?」

  ──社交界に顔を出しても愛想が無くてとにかく無口!  彼の声を聞いた人はほとんど居ない!  性格も冷酷無慈悲だと言われている方なのよ!!
  
  シルヴィの言う事をどこまで信じていいのか分からないので、ここはやはり普段から生活を共にしている使用人が一番よく知っているはず!  
 
  そう思って訊ねてみた。
  特に私は冷酷無慈悲が気になってしょうがない。
  すると、ルンナはにっこり笑って一言。

「無口です」
「えっと、他には何か……無いかしら?」
「無口です」
「いや、もっと他にあるでしょう?」 
「無口です」
「……無口以外の情報は?」
「無口です」
 
  (あ、これは無理……)

  ルンナから情報を仕入れる事を私は早々に諦めた。


────


  旦那様(仮)の到着を部屋で待っている間、私は考える。

  (まぁ、どうせ私はお飾りの妻だし)

  向こうも私と仲を深めたいなんて思ってないはず。
  だから、私が旦那様(仮)の事を知ったからって何か変わるわけじゃないわよね。
  そもそも、借金を肩代わりしてやるから嫁を寄越せって何?  何様なの?

  (何だか段々腹が立ってきたわね……)

  これは一刻も早く顔を見てやらないと気が済まない!
  と、私が闘志をメラメラに燃やし始めたまさにその時、

  コンコン……

  ちょうどいいタイミングで、私の部屋の扉がノックされた。

  (来たわーーーー!)

「ミルフィ様、坊っちゃまがお戻りでー」
「今、行きますわ!!」
「ミ、ミルフィ様……?」

  私はルンナの言葉を遮るようにして待ってましたと言わんばかりに勢いよく部屋を飛び出した。


  
  玄関へと繋がる階段を降りていると、ちょうど玄関の入口に一人の男性が立っていた。
  その人は使用人に持っていた荷物を渡している所だった。

  (間違いない!  あの人が、私の旦那様(仮)、アドルフォ様!)

  と意気込んだ私と旦那様(仮)の目が合った。

「……なっ!」

  そして私は旦那様(仮)の顔を見て衝撃を受けてしまい、階段の途中で思わず足を止めてしまう。

  (な、なんて事なの……旦那様(仮)すごい、美、美男子だわ!)

  何よりも先ず、頭の中にそんな言葉が浮かんでしまった。
  どこでお手入れしているのかと問い質したくなるくらいのサラッサラの銀の髪。
  思わず吸い込まれそうなくらい透き通って綺麗な蒼い瞳。
  ここぞとばかりの絶妙な位置に収まった顔の各パーツ。
  特に涼やかな目元とスっと通った鼻筋なんて私の好み……

  (では無くて!!)

  まずは、そう!  あ、挨拶。挨拶をしなくては!
  あれ?  でも、私から声をかけていいもの?
  どうするのが正解なの?
  それに挨拶をするにしても、こんな上からじゃダメよね!?

  考え過ぎて頭の中がぐるぐるして来た。

「……」
 
  そんな頭の中がぐるぐるしている私を旦那様(仮)はとにかく無言で見つめてくる。
  ただ、ひたすら黙ってじっと……

  (何か……何か話して?  それが無理ならせめて笑うとかして?)

  と思うも、ルンナの“無口です”という言葉が私の頭の中に甦る。
  つまりこの方にそれを望むだけ無駄!

「くっ!」

  えぇい!  もう、いいわ!  どうにでもなって頂戴!
  そんな気持ちで私は旦那様(仮)に挨拶する為に、階段を再び降り始めた。

  …………のだけど。

  ズルッ!

「ひっ!?」
「……!」

  色々、気持ちが空回りした結果なのか私は階段の途中で思いっ切り足を滑らせた。

  (これは、お、落ちる!!)  

  あと残り数段という所から落ちていく私は、目を瞑って衝撃を受ける覚悟をした……のだけど。

  (あれ?)

  何故かその衝撃が来ない。
  代わり(?)にフワッと香ってくるのはシダーウッドの香り。

「……?」

  おそるおそる目を開けた私はその光景に驚いて思わずおかしな声をあげてしまった。

「だん……アド……様!?」
「……」

  何と階段から落ちた私を旦那様(仮)が受け止めてくれていた。
  どうやらこの香りは旦那様(仮)の香水の香り!

  (ひぇぇ!  な、なんて事を)

「す、すみま、いえ、も、申し訳ございません!!」
「……」

  屋敷に戻って来たら、初めて見た嫁(仮)が突然降って来るとか、災難以外の何物でもないじゃないの!
  私は必死に頭を下げた。

  (こんな女ではお飾りの妻でもいらんって思われてしまうかも!  それは色々と困る!)

「あ、ありがとうございました!  えっと、直ぐにどきます!  そ、それで、私は、ミルフィ……えっと、ロンディネ子爵家です?」
「……」

  私は慌てて旦那様(仮)からどいたけれど、焦りすぎて自分でも何を言っているのか意味不明だった。
  そして、やっぱり旦那様(仮)は先程から一言も喋らない。

  (こんなにグダグダなのに一切の反応が無いのが怖い……怖すぎる。やっぱりこれは怒ってる……んじゃ)

  そう思ってそろそろと顔を上げる。
  再びパチッと目が合った旦那様(仮)は、無言のまま私に向かって手を伸ばした。

  (こ、これは殴られる!?)

  何故かこの瞬間、シルヴィの言った冷酷無慈悲な人という言葉を思い出してしまったせいで殴られるなんて事を考えてしまい身体を縮こませる私。

  そんな私に旦那様(仮)の手は。
     

  ──ポンッ

  (……ん?)

  何故か私の頭の上に置かれた。
  これは、殴られる……わけではない?
  そう思った瞬間。

  ナデナデ……

  (……んんん?)

  理由は分からない。
  だけど今、間違いなく私は旦那様(仮)に頭を撫でられていた。

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