【完結】契約の花嫁だったはずなのに、無口な旦那様が逃がしてくれません

Rohdea

文字の大きさ
6 / 32

6. 新婚夫婦(仮)は仲良しです?

しおりを挟む


「おはようございます、旦那様」
「……」

  翌朝、顔を合わせた旦那様(仮)に私がそう挨拶すると、旦那様(仮)の手がスッと私に伸びて来た。

  (はっ!  これは……!)

  そうして、頭ポンからのナデナデが始まった。

  ──ナデナデ

  (……おはようの挨拶と受け取ればいいのかしら?)

  まだ今回で三度目のナデナデだけど、照れ隠しと思われる高速ナデナデもあったし、どうやらナデナデの動きはその時その時で違うように感じる。
  今、受けているナデナデは挨拶だから……そうね。挨拶ナデナデとでも呼ぼうかしら。

  (って、ちょっと待って?  私ったら何を考えているの!!)

  そのうち、このナデナデ攻撃から旦那様(仮)の感情を読み取れるようになりそうでちょっと怖くなった。

  ──ナデナデナデナデ

「えぇと、旦那様、程々にしてくれませんと朝食に遅れてしまいますわ」
「……!」

  旦那様(仮)はハッとした表情をした後、少し寂しそうな顔をしながら渋々私の頭から手を離した。



*****



「おはよう。これはこれは二人共、朝から仲良しだ」
「あらあら」

  侯爵夫妻は揃って食事の場に現れた私達を見るなりそう言った。

  (仲良し?)

「アドルフォは本当に喋らないから、昨日一日で愛想尽かされてしまったのではと心配していたんだが」
「どうやら余計な心配だったみたいね」

  侯爵夫妻……いえ、お義父様とお義母様がそんな会話をしている。
  夫婦一緒に食事の場に現れただけで仲良し?  と、不思議に思っていたら二人の視線が私と旦那様(仮)の手元を見ていた。
 
  (……はっ!)

  そこで、私はようやく二人の妙に生暖かい視線の意味に気が付いた。
  一気に私の頬が熱を持つ。

「こ、これは!  この手は、えっと……違うんです、いえ、違わない……」

  焦った私はしどろもどろでしか説明が出来ない。

「いいのよ、ミルフィさん。二人が手を繋いで登場するくらい仲良しで嬉しいわ」
「ひぇ!  そ、そうではないのです……!」

  なんとこの旦那様(仮)、無口なくせに行動はとてもスマートで、食事の場に向かう時、当たり前のように私に向かって手を差し出して来たので、私も流れるように自然とその手を取っていた。
  そして、私達はそのまま手を繋いで食事の場に向かったのだけど……

  ───なんて事!  私達は部屋に入ってもそのまま手を繋いだままだったわ!!

  (も、もう離してもいいわよね!?)

  そう思って手を離そうとしたのだけど……

  (あれ?)

  旦那様(仮)が私の手をギュッと力強く握っていて離してくれそうに無い。
  私は慌てて隣に立っている旦那様に向かって言う。

「だ、旦那様……」
「……」

  ギュッ

「そろそろ、この手をですね」
「……」

  ギュッ

「離してくれませんと」
「……」
 
  ギュッ

「……聞いてますか!?」
「……」

  (ど、どうしましょう……旦那様(仮)のこの無言のオーラが手を離したくないと言っている気がするのだけど!)

「アドルフォ。気持ちは分かるがミルフィさんを困らせては駄目だ」
「そうよ?  嫌われちゃってもいいの?」
「……!」

  お義母様の言葉に旦那様(仮)はハッとして、プルプルと首を横に振る。
  そこは首を横に振るのかと純粋に驚いた。

  (えぇと、まさか旦那様(仮)。私に嫌われたくない……と思っていらっしゃる?)

  と、ちょっとドキドキしたけれど、旦那様(仮)は事情があって花嫁を求めた身。
  私に逃げられたら次の花嫁探しが困るからだと思い直した。

  (危ないわね。ついつい変な勘違いをしそうになってしまったわ)

  そんな事を思っていたら、旦那様(仮)がそっと寂しそうな顔をしながら手を離した。
  そして、何故かじっと私を見つめて来る。

「……」
「えっと……?  どうしました?  旦那様」
「……」

  私を見つめるその目が“すまない。嫌わないでくれ”そう言っているような気がした。



─── 



「ミルフィさんは二人姉妹なの?」
「は、はい。下に妹がいます」

  旦那様(仮)がようやく手を離してくれたので、無事に朝食の席に着く事が出来た。

「ロンディネ子爵家とは、アドルフォから話を聞くまで付き合いが無かったからな。話も急だったしね。何も知らなくてすまないね」
「いえ……」

  (そう言えば、旦那様(仮)とお父様ってどんな繋がりなのかしら?)

  お義父様のこの発言を聞く限り、家同士の繋がりは無さそう。
  なのに、借金の肩代わり?
  今更ながら不思議に思う。

「だから、ロンディネ子爵家のお嬢様を嫁にすると聞いた時は驚いた」
「私ですみません……」
「あらあら、なんで謝るの?  私は可愛い娘が出来て満足よ?」
「あ、ありがとうございます……」

  有難いのだけど、どうも私の事を本物の花嫁と思っている節があるお二人に旦那様(仮)との馴れ初めは?  
  とか聞かれても困るのであまりこれ以上の追求はして欲しくないのが本音。

「アドルフォの事だから、どうせミルフィさんを影からこっそり見つめるだけの片思いでもしていたんでしょうね」
「「!?」」

  お義母様の発言に、思わずブフォッと吹き出しそうになった。
  横を見ると旦那様(仮)も同じような事になっていた。

「あらあら、アドルフォ。そんな真っ赤な顔をして。まさか図星なの?」
「……」
「なるほど、ノーコメント。でも、恥ずかしいから触れないで欲しいのか」
「……」

  旦那様(仮)の顔はずっと真っ赤だった。
 



  そうして、なんやかんやの朝食を終えて部屋に戻ろうとした私に再び手を差し出す旦那様(仮)。

「……旦那様?  これはもしかして、部屋まで送るよと言っておりますの?」
「……」

  まだ、ほんのり頬が赤い旦那様(仮)は静かに頷く。

「そ、そうですか……」
「……」

  旦那様(仮)は手を引っこめるつもりは無いらしい。ならば仕方が無い。

「ありがとうございます。それではお言葉に甘えて……」
「……」

  私はドキドキしながらその手にそっと自分の手を重ねた。

  (さっきは無意識だったけど、こうして意識すると恥ずかしい!)

  つられて私まで赤くなってしまった。

「で、では!  い、行きましょう!」
「……」

  旦那様(仮)も無言で頷き、私達は手を繋いで歩き出した。


  ───この時、互いに顔は茹でダコみたいになり、初々しいオーラを撒き散らしつつ、手を繋ぎながら無言で歩く新婚夫婦(仮)の姿は使用人達にとって、とても微笑ましく見えたと言う。(何で!?)



*****




  部屋の前まで着いたら、旦那様(仮)はそこでピタリと足を止めた。
  どうやら、朝であっても私の部屋に入るのはためらいを覚えるらしい。
  妙な所で紳士なのよね、と思う。

「旦那様、ありがとうございました」
「……」

  (あ!)

  旦那様は繋いでいない方の手をそっと私の頭の上に置くと、軽くナデナデを始めた。
  このナデナデまでの流れがもう自然すぎる。

  ナデナデ……

  ナデナデされながらも、私は妻らしく挨拶をしなくてはと思い、微笑みを浮かべて言った。

「えっと。本日もお仕事、大変だと思いますがどうぞ無理しないで下さいませ」
「……!」

  ナデナデナデナデ!

  (んん?  少しだけスピードが上がったわ!)

  これは“分かった”とか“分かっている”とか言いたいのかも。

  ナデナデ……

  (ふふふ、どうしましょう。何だか段々面白くなって来たわ)
 
   ナデナデナデ……

  (次はどんなナデナデが登場するのかしら?)

  
  つい、そんな事を思ってしまった私は、うっかりナデナデの虜になりかけていた……

しおりを挟む
感想 382

あなたにおすすめの小説

【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです

果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。 幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。 ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。 月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。 パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。 これでは、結婚した後は別居かしら。 お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。 だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。

【完結】契約結婚。醜いと婚約破棄された私と仕事中毒上司の幸せな結婚生活。

千紫万紅
恋愛
魔塔で働く平民のブランシェは、婚約者である男爵家嫡男のエクトルに。 「醜くボロボロになってしまった君を、私はもう愛せない。だからブランシェ、さよならだ」 そう告げられて婚約破棄された。 親が決めた相手だったけれど、ブランシェはエクトルが好きだった。 エクトルもブランシェを好きだと言っていた。 でもブランシェの父親が事業に失敗し、持参金の用意すら出来なくなって。 別れまいと必死になって働くブランシェと、婚約を破棄したエクトル。 そしてエクトルには新しい貴族令嬢の婚約者が出来て。 ブランシェにも父親が新しい結婚相手を見つけてきた。 だけどそれはブランシェにとって到底納得のいかないもの。 そんなブランシェに契約結婚しないかと、職場の上司アレクセイが持ちかけてきて……

(完結)妹の婚約者である醜草騎士を押し付けられました。

ちゃむふー
恋愛
この国の全ての女性を虜にする程の美貌を備えた『華の騎士』との愛称を持つ、 アイロワニー伯爵令息のラウル様に一目惚れした私の妹ジュリーは両親に頼み込み、ラウル様の婚約者となった。 しかしその後程なくして、何者かに狙われた皇子を護り、ラウル様が大怪我をおってしまった。 一命は取り留めたものの顔に傷を受けてしまい、その上武器に毒を塗っていたのか、顔の半分が変色してしまい、大きな傷跡が残ってしまった。 今まで華の騎士とラウル様を讃えていた女性達も掌を返したようにラウル様を悪く言った。 "醜草の騎士"と…。 その女性の中には、婚約者であるはずの妹も含まれていた…。 そして妹は言うのだった。 「やっぱりあんな醜い恐ろしい奴の元へ嫁ぐのは嫌よ!代わりにお姉様が嫁げば良いわ!!」 ※醜草とは、華との対照に使った言葉であり深い意味はありません。 ※ご都合主義、あるかもしれません。 ※ゆるふわ設定、お許しください。

「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚

ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。 ※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。

【完結】堅物な婚約者には子どもがいました……人は見かけによらないらしいです。

大森 樹
恋愛
【短編】 公爵家の一人娘、アメリアはある日誘拐された。 「アメリア様、ご無事ですか!」 真面目で堅物な騎士フィンに助けられ、アメリアは彼に恋をした。 助けたお礼として『結婚』することになった二人。フィンにとっては公爵家の爵位目当ての愛のない結婚だったはずだが……真面目で誠実な彼は、アメリアと不器用ながらも徐々に距離を縮めていく。 穏やかで幸せな結婚ができると思っていたのに、フィンの前の彼女が現れて『あの人の子どもがいます』と言ってきた。嘘だと思いきや、その子は本当に彼そっくりで…… あの堅物婚約者に、まさか子どもがいるなんて。人は見かけによらないらしい。 ★アメリアとフィンは結婚するのか、しないのか……二人の恋の行方をお楽しみください。

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

一年後に離婚すると言われてから三年が経ちましたが、まだその気配はありません。

木山楽斗
恋愛
「君とは一年後に離婚するつもりだ」 結婚して早々、私は夫であるマグナスからそんなことを告げられた。 彼曰く、これは親に言われて仕方なくした結婚であり、義理を果たした後は自由な独り身に戻りたいらしい。 身勝手な要求ではあったが、その気持ちが理解できない訳ではなかった。私もまた、親に言われて結婚したからだ。 こうして私は、一年間の期限付きで夫婦生活を送ることになった。 マグナスは紳士的な人物であり、最初に言ってきた要求以外は良き夫であった。故に私は、それなりに楽しい生活を送ることができた。 「もう少し様子を見たいと思っている。流石に一年では両親も納得しそうにない」 一年が経った後、マグナスはそんなことを言ってきた。 それに関しては、私も納得した。彼の言う通り、流石に離婚までが早すぎると思ったからだ。 それから一年後も、マグナスは離婚の話をしなかった。まだ様子を見たいということなのだろう。 夫がいつ離婚を切り出してくるのか、そんなことを思いながら私は日々を過ごしている。今の所、その気配はまったくないのだが。

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

処理中です...