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6. 新婚夫婦(仮)は仲良しです?
しおりを挟む「おはようございます、旦那様」
「……」
翌朝、顔を合わせた旦那様(仮)に私がそう挨拶すると、旦那様(仮)の手がスッと私に伸びて来た。
(はっ! これは……!)
そうして、頭ポンからのナデナデが始まった。
──ナデナデ
(……おはようの挨拶と受け取ればいいのかしら?)
まだ今回で三度目のナデナデだけど、照れ隠しと思われる高速ナデナデもあったし、どうやらナデナデの動きはその時その時で違うように感じる。
今、受けているナデナデは挨拶だから……そうね。挨拶ナデナデとでも呼ぼうかしら。
(って、ちょっと待って? 私ったら何を考えているの!!)
そのうち、このナデナデ攻撃から旦那様(仮)の感情を読み取れるようになりそうでちょっと怖くなった。
──ナデナデナデナデ
「えぇと、旦那様、程々にしてくれませんと朝食に遅れてしまいますわ」
「……!」
旦那様(仮)はハッとした表情をした後、少し寂しそうな顔をしながら渋々私の頭から手を離した。
*****
「おはよう。これはこれは二人共、朝から仲良しだ」
「あらあら」
侯爵夫妻は揃って食事の場に現れた私達を見るなりそう言った。
(仲良し?)
「アドルフォは本当に喋らないから、昨日一日で愛想尽かされてしまったのではと心配していたんだが」
「どうやら余計な心配だったみたいね」
侯爵夫妻……いえ、お義父様とお義母様がそんな会話をしている。
夫婦一緒に食事の場に現れただけで仲良し? と、不思議に思っていたら二人の視線が私と旦那様(仮)の手元を見ていた。
(……はっ!)
そこで、私はようやく二人の妙に生暖かい視線の意味に気が付いた。
一気に私の頬が熱を持つ。
「こ、これは! この手は、えっと……違うんです、いえ、違わない……」
焦った私はしどろもどろでしか説明が出来ない。
「いいのよ、ミルフィさん。二人が手を繋いで登場するくらい仲良しで嬉しいわ」
「ひぇ! そ、そうではないのです……!」
なんとこの旦那様(仮)、無口なくせに行動はとてもスマートで、食事の場に向かう時、当たり前のように私に向かって手を差し出して来たので、私も流れるように自然とその手を取っていた。
そして、私達はそのまま手を繋いで食事の場に向かったのだけど……
───なんて事! 私達は部屋に入ってもそのまま手を繋いだままだったわ!!
(も、もう離してもいいわよね!?)
そう思って手を離そうとしたのだけど……
(あれ?)
旦那様(仮)が私の手をギュッと力強く握っていて離してくれそうに無い。
私は慌てて隣に立っている旦那様に向かって言う。
「だ、旦那様……」
「……」
ギュッ
「そろそろ、この手をですね」
「……」
ギュッ
「離してくれませんと」
「……」
ギュッ
「……聞いてますか!?」
「……」
(ど、どうしましょう……旦那様(仮)のこの無言のオーラが手を離したくないと言っている気がするのだけど!)
「アドルフォ。気持ちは分かるがミルフィさんを困らせては駄目だ」
「そうよ? 嫌われちゃってもいいの?」
「……!」
お義母様の言葉に旦那様(仮)はハッとして、プルプルと首を横に振る。
そこは首を横に振るのかと純粋に驚いた。
(えぇと、まさか旦那様(仮)。私に嫌われたくない……と思っていらっしゃる?)
と、ちょっとドキドキしたけれど、旦那様(仮)は事情があって花嫁を求めた身。
私に逃げられたら次の花嫁探しが困るからだと思い直した。
(危ないわね。ついつい変な勘違いをしそうになってしまったわ)
そんな事を思っていたら、旦那様(仮)がそっと寂しそうな顔をしながら手を離した。
そして、何故かじっと私を見つめて来る。
「……」
「えっと……? どうしました? 旦那様」
「……」
私を見つめるその目が“すまない。嫌わないでくれ”そう言っているような気がした。
───
「ミルフィさんは二人姉妹なの?」
「は、はい。下に妹がいます」
旦那様(仮)がようやく手を離してくれたので、無事に朝食の席に着く事が出来た。
「ロンディネ子爵家とは、アドルフォから話を聞くまで付き合いが無かったからな。話も急だったしね。何も知らなくてすまないね」
「いえ……」
(そう言えば、旦那様(仮)とお父様ってどんな繋がりなのかしら?)
お義父様のこの発言を聞く限り、家同士の繋がりは無さそう。
なのに、借金の肩代わり?
今更ながら不思議に思う。
「だから、ロンディネ子爵家のお嬢様を嫁にすると聞いた時は驚いた」
「私ですみません……」
「あらあら、なんで謝るの? 私は可愛い娘が出来て満足よ?」
「あ、ありがとうございます……」
有難いのだけど、どうも私の事を本物の花嫁と思っている節があるお二人に旦那様(仮)との馴れ初めは?
とか聞かれても困るのであまりこれ以上の追求はして欲しくないのが本音。
「アドルフォの事だから、どうせミルフィさんを影からこっそり見つめるだけの片思いでもしていたんでしょうね」
「「!?」」
お義母様の発言に、思わずブフォッと吹き出しそうになった。
横を見ると旦那様(仮)も同じような事になっていた。
「あらあら、アドルフォ。そんな真っ赤な顔をして。まさか図星なの?」
「……」
「なるほど、ノーコメント。でも、恥ずかしいから触れないで欲しいのか」
「……」
旦那様(仮)の顔はずっと真っ赤だった。
そうして、なんやかんやの朝食を終えて部屋に戻ろうとした私に再び手を差し出す旦那様(仮)。
「……旦那様? これはもしかして、部屋まで送るよと言っておりますの?」
「……」
まだ、ほんのり頬が赤い旦那様(仮)は静かに頷く。
「そ、そうですか……」
「……」
旦那様(仮)は手を引っこめるつもりは無いらしい。ならば仕方が無い。
「ありがとうございます。それではお言葉に甘えて……」
「……」
私はドキドキしながらその手にそっと自分の手を重ねた。
(さっきは無意識だったけど、こうして意識すると恥ずかしい!)
つられて私まで赤くなってしまった。
「で、では! い、行きましょう!」
「……」
旦那様(仮)も無言で頷き、私達は手を繋いで歩き出した。
───この時、互いに顔は茹でダコみたいになり、初々しいオーラを撒き散らしつつ、手を繋ぎながら無言で歩く新婚夫婦(仮)の姿は使用人達にとって、とても微笑ましく見えたと言う。(何で!?)
*****
部屋の前まで着いたら、旦那様(仮)はそこでピタリと足を止めた。
どうやら、朝であっても私の部屋に入るのはためらいを覚えるらしい。
妙な所で紳士なのよね、と思う。
「旦那様、ありがとうございました」
「……」
(あ!)
旦那様は繋いでいない方の手をそっと私の頭の上に置くと、軽くナデナデを始めた。
このナデナデまでの流れがもう自然すぎる。
ナデナデ……
ナデナデされながらも、私は妻らしく挨拶をしなくてはと思い、微笑みを浮かべて言った。
「えっと。本日もお仕事、大変だと思いますがどうぞ無理しないで下さいませ」
「……!」
ナデナデナデナデ!
(んん? 少しだけスピードが上がったわ!)
これは“分かった”とか“分かっている”とか言いたいのかも。
ナデナデ……
(ふふふ、どうしましょう。何だか段々面白くなって来たわ)
ナデナデナデ……
(次はどんなナデナデが登場するのかしら?)
つい、そんな事を思ってしまった私は、うっかりナデナデの虜になりかけていた……
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