【完結】契約の花嫁だったはずなのに、無口な旦那様が逃がしてくれません

Rohdea

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23. 旦那様はお怒りです

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「旦那様!」
「……」

  ──ナデナデナデナデ

  旦那様はギューッと抱きしめてくれた後、すぐに私の頭をナデナデしてくれた。
  とても心配してくれていたのが分かる。

「……大丈夫です。旦那様のおかげで指一本触れられていません」
「……」

  旦那様はホッとした様子を見せる。
  そして、安心したのか軽く頭をポンポンした後、

  ナデナデナデナデ…… 

  (無事で良かった……そう言ってくれている……)

「旦那様……」
「……!」

  旦那様は少し私が憂いでいるのが分かったのか、もう片方の手でスリスリも始めた。

  スリスリスリスリ……

「ふふ、擽ったい。でも、嬉しいです。ありがとうございます」
「……」

  ナデナデ……スリスリ……ナデナデ……スリスリ……

  私の言葉に旦那様も嬉しそうな笑顔を見せてくれた。

  ナデナデ……

「そうです、旦那様。私、お菓子を買って……それをルンナに託しました。受け取って頂けましたか?」
「……!」

  ナデナデナデ……

  旦那様は頷きながらナデナデしてくれた。

「旦那様の喜ぶ顔が見たかったのと……その、た、たくさん、ナデナデして貰いたくて……」
「!!」

  ナデナデナデナデナデ!!

「だ、旦那様!?」

  旦那様の興奮したナデナデにじんわり嬉しさを感じる。

  (喜んでくれているわ!)

「……旦那様、屋敷に帰ったら……一緒に食べましょう、ね?」
「……!!」

  ナデナデナデナデナデナデ!!

  (嬉しい!  当然だ!  そう言ってくれている!)

  ……ナデナデナデ

  旦那様からの愛情たっぷりのナデナデはしばらく続いた。





「どうして、お義兄様がここに……そんな、この後の計画……」
「ロイター侯爵令息……なのか?  来るなんて聞いていない」

  しばらく旦那様にナデナデされていると、ようやく我に返った弱々しい二人の声が聞こえて来た。
  うっとりとした顔で私の頭をナデナデしていた旦那様が、仕方なく手を止めて二人へと視線を向ける。

「……」
「「ひっ!」」

  冷酷無慈悲なんて呼ばれ方もされる旦那様の冷たい視線を受けた二人が小さな悲鳴をあげた。

「ひぃ!  ま、待って下さい、じ、自分はシルヴィ嬢に言われただけで……そんな、この後、ミルフィを無理やり襲うつもりだったなんて事は、そんな……あっ!」
「ちょっ……カイン様!  なんで……!」

  旦那様に睨まれて怖くなったらしい情けない勘違い男、カイン様は余計な事までポロッと暴露した。

  (無理やり私を襲うつもりだった、ですって!?)

  何か不穏な事を企んでいるとは思っていた。だから、一人で対処するのは良くないと思ってルンナにお願いして旦那様を呼びに行って貰ったのだけど……

  無理やりカイン様と私に関係を持たせようとした?
  そうして、私が不貞したという事で離縁に持って行きやすいようにしたかった?

  (シルヴィ……なんて、浅はかな計画なの!)

「!!!!」

  ……ナデナデナデナデナデ!!!!

  ほら、旦那様のナデナデも荒ぶっているわ!
  ただでさえ、お怒りだった所にさらに怒りの燃料を注いだ感じになっている。

「お義兄様!  待って下さい!  違います、こ、これは誤解なんです……!  私は何もー……」

  そう言ってシルヴィは旦那様の腕へと手を伸ばし縋りつこうとした──けれど。

  バシッ!  

「きゃっ!?」

  先程のカイン様と同様にシルヴィの手は容赦なく叩き落とされた。
  そして、そのまま旦那様は私の腰に腕を回してギュッと抱き寄せ、その様子を見たシルヴィは顔を青くして身体を震わせた。

「な、何故ですか!?  お、お姉様なんかより私の方が何倍も……いえ何百倍も可愛いのに!」 
「……」

  ギュッ

「社交だって!  引きこもりで根暗なお姉様には無理だと思うわ!  お姉様なんかが侯爵夫人に相応しいとは思えない!  絶対に私の方が上手くやれます!」 
「……」

  ギュッ

「私はお姉様なんかとは違っていつだって皆に愛されて来ました!  だからお義兄様に相応しいのは私の方です!」
「……」

  ギュッ
 
  シルヴィが何か言う度に旦那様は私をギュッと抱きしめてくれる。
  その行動がシルヴィではなく私を選んでくれているのだと分かる。

「ねぇ、お姉様?  お願い。いつもみたいに譲って頂戴?  今いる場所を交代しましょうよ。私はお義兄様が欲しいの。だってすごく素敵なんだもの。私もそうやってギュッとされたいわ?」
「シルヴィ……いい加減にして」
「何で?  お姉様のものは妹の私のものでしょう?」
「違うわ!  いい加減にその考えは捨てなさい!」

  私がそう怒鳴ってもシルヴィには全然伝わっている気がしない。

「おかしいわ。何でダメだと言うの?  意地悪なの?」
「意地悪?  何を言っているの。旦那様……アドルフォ様の妻は私だからよ。ちゃんと初めから私は旦那様に望まれていたのよ!  望まれて嫁いだの!」
「……えぇ?  ふふふ、お姉様ったら、まさか本当に愛されているとでも言うつもり?  妄想は程々にしないとダメだと思うわ!  私を差し置いてお姉様なんかが愛されるわけ無ー……」

  シルヴィが百年の恋も冷めそうな程の醜い顔でそう言いかけた時だった。

「……」

  旦那様がクイッと私の顎に手をかけて、そのまま顔を上を向かせ……

  (……ん?)

  ─────チュッ

  旦那様の唇が私の唇を塞ぐ。

「な、にを!?」
「え、ミルフィ……!?  何をしてるんだ?」
   
  シルヴィの驚く声とそれまで唖然とした様子で成り行きを見ているだけで、この場の空気と化していたカイン様の驚きの声が重なった。

  (だ、旦那様!?  ここ、店の中よ!?)

  すでにあれだけ騒いでおいて今更何をと思われそうだけれど、さすがにこ、これは……

  チュッ、チュッ……

  なのに、旦那様は全然止める気配が無い。
  しかも、見せつける為……と言うよりもただ私にキスをしたいだけ……としか思えない触れ方のせいか、ドキドキが止まらない。

「嘘……何してるの?  信じられない……やだ!  お姉様なんかに……」
「……」
「はっ!  お姉様ね?  お姉様ったら汚い手を使ってアドルフォ様の事を脅しているんでしょう!?  最低だわ!」

  シルヴィは何がなんでも認めたくないらしい。
  シルヴィの中では姉である私がシルヴィを差し置いて愛されるなんて事はあってはいけない事なのだと思う。

「お義兄様、お姉様から離れてください!  それで目を覚まして私と…………ひぃぃ!」

  旦那様は再びシルヴィに向けてキツく睨んだ。

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