【完結】契約の花嫁だったはずなのに、無口な旦那様が逃がしてくれません

Rohdea

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25. 叫んでばかりの妹

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「だからどうして!  どうして私じゃないの?」

  旦那様が私への何度目かのキスを終えた時、シルヴィが叫んだ。

「何で私が睨まれるの……私にそんな冷たい扱いをする人なんて、今まで一人もいなかったのに。皆、優しくしてくれて甘く微笑んで可愛い可愛いって……」

  シルヴィは必死にそう訴える。

「……」

  なんて幸せな生活を送って来たのかしら……とも思ったけれど、シルヴィのこの性格。
  何でもかんでも自分の都合のいいように解釈して来ただけなのかもしれない。
  だって、(今のように)何時でもどこでも我儘放題なこの子が、外だからといって大人しくしているなんて考えられない。

「私よりお姉様がいい……?  そんなのは絶対に許さない……あってはいけない事なの。私は、お姉様のものは全て私のものにしないと嫌なの!  カイン様もそうよ! お姉様の婚約者だったから素敵に見えて興味を持っただけ!」
「……っ!?  シ、シルヴィ嬢、君って人は……」

  シルヴィのその発言にカイン様は言葉を失い、膝から崩れ落ちた。
  カイン様は旦那様の登場と共にどんどん顔色が悪くなっていったけれど、今は更に顔色が悪い。

  ──見た目だけじゃない!  性格も素直で人懐っこくて……

  (シルヴィの事をそう口にしていた時の事を思い出しているのかも)

  あんな事を口走った自分を後悔しているのかもしれない。
  ロンディネ子爵家の借金を知った時に逃げていったままでいれば彼もこんな事にはならなかったのに。
  そういえば、カイン様がシルヴィに協力している理由は何かしら?

  (カイン様は今も昔も私の事を好きでは無いはずなのに……)

  私との婚約解消がカイン様のその後の縁談に影響を及ぼしているのかもしれない。
  そんな事を考えながらカイン様の方を見ていたら、

  ──ナデナデ!

「旦那様?」

  何故か、旦那様の手が再びナデナデを開始した。しかも、少し荒っぽい。

  ナデナデナデ……!
  と、少し勢いよくナデナデした後は、グイッと私の顔を自分の方へと向けさせる。

  (旦那様どうしたのかしら…………?  ナデナデは荒っぽいし……あ!  もしかして!)

「だ、旦那様、もしかして“カイン様ではなくて自分の方を見ろ”とか思ってます?」
「……!」
  
  うっ!  という表情を見せた旦那様の顔がどんどん赤くなっていく。

  ナデナデナデ!

  ついでに手の動きが照れのナデナデに変わった。

  (えーー?  これって、これって!)

  そんな旦那様の様子に私の胸がきゅんとする。

「い……意外と旦那様ってヤキモチ妬きなんですね?」
「……」

  ナデナデ!

「他の男を見るなって言ってくれているんですよね?」
「……」

  ナデナデ!!
   
  全部、そうだ!  と言っているように聞こえる。

  (ふふ、本当に旦那様って分かりやすいわ)

「安心して下さい。私は旦那様しか見ていないですよ?  カイン様なんてどうでもいい存在です」
「……!」

  ナデナデナデ!!

「どうでもいい存在……」
  
  膝から崩れ落ちたカイン様の小さく呟いた声を無視して、そんな風に照れた旦那様の事を微笑ましく思っていたら、再びシルヴィが私に向かって叫ぶ。

「~~譲る気が無いから、そうやってわざと私に見せつけているのね?  お姉様ったら、酷い!  ずるい!  ずるい!  ずるーーい!  お義兄様が可哀想!!」
「シルヴィ……」

  何を見せても何を言っても変わらないシルヴィの思考。
  これは本当に何をしても無駄にしか思えない。

  (幸いあまり人が少ないとはいってもここはお店の中だわ。いい加減迷惑でしかない。もうここを離れよう)

  ずるい、ずるい、ずるい!!
  そう喚くシルヴィを横目に私は旦那様に言う。

「旦那様……そろそろ一旦ここを離れた方がいいかと思うのですが」
「……」

  旦那様も頷く。
  申し訳なさそうな顔をしているのは騒ぎが大きくなってしまったからかもしれない。

  (私もそこは反省しないといけないわ)

  でも、店に入っていないで外で話をしていたら……シルヴィとカイン様の思い通りになっていたかもしれない。そう思うとゾッとする。

  (……嫌よ!  私に触れていいのは旦那様だけよ!)

「…………様なんて」

  すると、シルヴィの声の雰囲気が変わった。

「お姉様なんて、消えちゃえ!  消えちゃえばいい、そうすればー……」
「シル……!?」

  そう言って私に向かって殴りかかろうとするシルヴィ。
  まさかの実力行使!
  だけど……

「──っ!」
「痛っ……な、なんでお姉様なんかを庇うの!」

  咄嗟に旦那様が私を庇う。
  そして、シルヴィを鋭く睨むと大きく息を吸い込んだ。

  (え?  ……旦那様?)

「…………い」

  (あれ……?)

  無口な、いえ、これまでどんな時もナデナデしかして来なかった旦那様が口を開きかけたように見えた、まさにその時、

「シルヴィ!  ミルフィ!」
「ちょっと!?  いったいこれは何の騒ぎなの!?」

  (……えっ!?)

  そんな掛け声と共に店に人が飛び込んで来た。

「……お父様、お母様!?」

  それは──私の……子爵家の両親だった。

  (どうしてここに二人が!?)

  飛び込んで来たお父様とお母様の顔色は悪い。
  二人は偶然ここに来た訳では無く、この事態を知って駆け付けてきた。まさにそんな様子だった。

  (つまり、誰かが両親ふたりをここに呼んだ?)

  両親二人の姿を見たシルヴィの目がパアッと輝く。
  その表情は“やったわ!  私の味方が来てくれたわ”と言っているようだった。

  案の定、シルヴィはお父様とお母様の元に涙を浮かべながら駆け寄っていく。

「お父様、お母様!  ……酷いの……助けて?  お姉様が、お姉様が私に意地悪するのよ。私が、たくさんたくさん“お願い”してるのに、全然言う事を聞いてくれないの……」

  シルヴィは更に続ける。

「それどころかお義兄様まで誘惑して無理やり言う事を聞かせてるみたいなの……最低でしょう?」

  両親二人の元へと駆け寄っていく時に一瞬見えたシルヴィの口元はニヤリと笑っているように見えた。

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