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26. 身勝手な人達
しおりを挟む「シルヴィ……」
えーんとお父様に泣きつくシルヴィ。
そのまま、優しくシルヴィを宥めるのかと思われたお父様は、ふぅ、とため息を吐きながら言った。
「何やら揉めている事は分かった……だが、とりあえず話は場所を移してからだ。これ以上はお店にも迷惑だ」
「え? お父様。そんな事より早くあそこで調子に乗っているお姉様を……」
お父様のその言葉に納得のいかないシルヴィは不満の声をあげる。
この状況でそんな発言が出来るシルヴィの身勝手さが怖い。
「シルヴィ! ミルフィの事は後だ! 店への迷惑になっている事が分からないのか?」
「でも、でも……だって」
「そうよ、シルヴィ。さすがにこれ以上はここではちょっと……可愛い貴女の評判に傷がついてしまうわ」
「お母様までそんな事を言うの? ……私の評判に傷がつく? そんなの大丈夫よ! だから、早くお姉様をどうにかして……お義兄様をお姉様から解放してあげなくちゃ!」
「「シルヴィ!」」
「…………」
二人に窘められてようやくシルヴィは黙った。
ポンポン……
そんな三人の様子を黙って見ていた私の頭を旦那様が優しくポンポンする。
(旦那様……)
その手は“大丈夫だ、心配するな”そう言ってくれているみたいだった。
私も静かに頷く。
(お父様やお母様が私に対して何を言って来ても……旦那様は私の味方だもの)
─────……
「それで、これはどういう事なんだ?」
そうして、場所を移動した私達。
お父様がシルヴィ、私と旦那様、そして、またもや空気と化していたカイン様に向かってそう訊ねた。
お店の人に迷惑をかけてしまった事を深くお詫びした私達に、なんとお店の人は二階に空いてる部屋があるからそこで話し合ったらどうですか? と薦めてくれた。
(な、なんて優しいの!? あんなに迷惑をかけてしまったのに!)
と、感激したのだけれど、実はなんてことは無い。
二階に移動する最中にこんなひそひそ会話が聞こえて来た。
「あの騒いでる妹? が、最終的にどうなるのか気になるよね」
「言ってる事が凄かったものね……」
「話の通じなさ……あれって貴族のお嬢様でしょ? 貴族って怖いわね」
「様子が気になって、放り出せなかったわ」
「確かに、どう収まるか見てみたい!」
……どうやら、野次馬気分もあったみたい。
「そうよ! ねぇ、ミルフィ? 可愛い妹に対して、あなたは何をしたの? お姉さんなのに!」
「!!」
──お姉さんなのに! ですって!?
えーんと泣きつくシルヴィを宥めながらお母様が私に向かってそう問いかける。
お父様はまだ少し中立でいようとしてくれている気がするけれど、やっぱりお母様はダメだ。いつだってシルヴィの事しか見ていない。
……ギュッ
(え?)
旦那様が優しく私の手を取り握る。
頭ポンポンでなくても、ナデナデでなくても旦那様の気持ちが伝わって来る。
(旦那様……)
私は旦那様のその手を握ったままお母様に向かって口を開く。
「私が何かしたわけではないわ! シルヴィが一人で勝手に勘違いをして騒いでいるのよ」
「酷いわ! お姉様! 勘違いなんかじゃないのに。私は可哀想なお義兄様を救いたかっただけなのに、何でそんな事を言うの……」
「話が見えないわ」
お母様が頭を抱える。
「簡単な話よ、お母様。私はお義兄様が欲しい! だから、お姉様にはかつて婚約者だったカイン様をあげるわ。だからお義兄様を頂戴? そうお願いしただけよ。なのにお姉様は頷いてくれないの。おかしいと思わない?」
──結局、シルヴィの考えは何一つ変わっておらず、これまでと同じ主張を繰り返した。
「シルヴィ……お前」
「まぁ、シルヴィ!」
シルヴィのその発言を聞いたお父様とお母様。二人の反応はそれぞれ違う。
お父様は、私がシルヴィを侯爵家への立ち入りを禁じた事からこの発言の危うさを分かっている。
でも、お母様は……
「そういう事だったの? でも、それならシルヴィ。結婚の話があった時に自分が行くと言えば良かったじゃないの」
「だって、こんなにカッコよくて素敵な人だとは思わなかったんだもの。今はお姉様に騙されていて少し怖いけれど、目が覚めさえすれば私にも絶対微笑んでくれるもの」
「シルヴィったら……それでわざわざ、ミルフィの為にカイン様にまで声をかけたのね?」
お母様の言葉にシルヴィは満面の笑みで微笑む。
「そうなの! さすがお母様! 分かってくれるのね」
お母様とシルヴィの会話を聞いていると頭が痛くなってくる。どうして二人の会話はいつもこんな方向になるの?
「分かるわよ、シルヴィは優しい子だもの。さすがねシルヴィ。お姉さん思いのいい子だわ」
「お母様!」
シルヴィは勝ち誇ったような目で私をチラッと見るとそのままお母様に抱き着いた。
でもー……
「シルヴィ、すまないがそういう事ではないんだよ」
「?? お父様ったら何を言っているの?」
「頼むからこれ以上、アドルフォ殿を怒らせないでくれ」
お父様は怯えている。
(アドルフォ様を敵に回したら借金返済が苦しくなるものね)
「怒るの? 何で? 目を覚ますのでは無いの?」
「シルヴィ……アドルフォ殿が花嫁にと望み、愛しているのはミルフィだ」
「? 今はお姉様の事が好き! なんて酷い洗脳をされてしまっているけど、目が覚めれば私がこれから愛されるのでしょう?」
「シルヴィ……」
お父様が愕然とした目でシルヴィを見た。
ようやく、ようやく可愛がっていた娘の思考の異常さを理解したのかもしれない。
「あなたったらどうしたの? いつものように可愛いシルヴィの頼みを聞いてあげましょうよ」
「……そ、それは……」
と、お父様が口ごもったその時だった。
(ん? 旦那様……?)
ずっと旦那様と繋いでいた手がギュッと強く握られたかと思ったら───
「──いい加減にしろ! お前達ロンディネ子爵家の面々は、一度でもちゃんとミルフィの気持ちを考えた事はあるのか!?」
「「「!?」」」
(…………え? 誰の声?)
──その聞きなれない声は間違いなく私の隣から発せられていた。
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