【完結】契約の花嫁だったはずなのに、無口な旦那様が逃がしてくれません

Rohdea

文字の大きさ
25 / 32

25. 叫んでばかりの妹

しおりを挟む


「だからどうして!  どうして私じゃないの?」

  旦那様が私への何度目かのキスを終えた時、シルヴィが叫んだ。

「何で私が睨まれるの……私にそんな冷たい扱いをする人なんて、今まで一人もいなかったのに。皆、優しくしてくれて甘く微笑んで可愛い可愛いって……」

  シルヴィは必死にそう訴える。

「……」

  なんて幸せな生活を送って来たのかしら……とも思ったけれど、シルヴィのこの性格。
  何でもかんでも自分の都合のいいように解釈して来ただけなのかもしれない。
  だって、(今のように)何時でもどこでも我儘放題なこの子が、外だからといって大人しくしているなんて考えられない。

「私よりお姉様がいい……?  そんなのは絶対に許さない……あってはいけない事なの。私は、お姉様のものは全て私のものにしないと嫌なの!  カイン様もそうよ! お姉様の婚約者だったから素敵に見えて興味を持っただけ!」
「……っ!?  シ、シルヴィ嬢、君って人は……」

  シルヴィのその発言にカイン様は言葉を失い、膝から崩れ落ちた。
  カイン様は旦那様の登場と共にどんどん顔色が悪くなっていったけれど、今は更に顔色が悪い。

  ──見た目だけじゃない!  性格も素直で人懐っこくて……

  (シルヴィの事をそう口にしていた時の事を思い出しているのかも)

  あんな事を口走った自分を後悔しているのかもしれない。
  ロンディネ子爵家の借金を知った時に逃げていったままでいれば彼もこんな事にはならなかったのに。
  そういえば、カイン様がシルヴィに協力している理由は何かしら?

  (カイン様は今も昔も私の事を好きでは無いはずなのに……)

  私との婚約解消がカイン様のその後の縁談に影響を及ぼしているのかもしれない。
  そんな事を考えながらカイン様の方を見ていたら、

  ──ナデナデ!

「旦那様?」

  何故か、旦那様の手が再びナデナデを開始した。しかも、少し荒っぽい。

  ナデナデナデ……!
  と、少し勢いよくナデナデした後は、グイッと私の顔を自分の方へと向けさせる。

  (旦那様どうしたのかしら…………?  ナデナデは荒っぽいし……あ!  もしかして!)

「だ、旦那様、もしかして“カイン様ではなくて自分の方を見ろ”とか思ってます?」
「……!」
  
  うっ!  という表情を見せた旦那様の顔がどんどん赤くなっていく。

  ナデナデナデ!

  ついでに手の動きが照れのナデナデに変わった。

  (えーー?  これって、これって!)

  そんな旦那様の様子に私の胸がきゅんとする。

「い……意外と旦那様ってヤキモチ妬きなんですね?」
「……」

  ナデナデ!

「他の男を見るなって言ってくれているんですよね?」
「……」

  ナデナデ!!
   
  全部、そうだ!  と言っているように聞こえる。

  (ふふ、本当に旦那様って分かりやすいわ)

「安心して下さい。私は旦那様しか見ていないですよ?  カイン様なんてどうでもいい存在です」
「……!」

  ナデナデナデ!!

「どうでもいい存在……」
  
  膝から崩れ落ちたカイン様の小さく呟いた声を無視して、そんな風に照れた旦那様の事を微笑ましく思っていたら、再びシルヴィが私に向かって叫ぶ。

「~~譲る気が無いから、そうやってわざと私に見せつけているのね?  お姉様ったら、酷い!  ずるい!  ずるい!  ずるーーい!  お義兄様が可哀想!!」
「シルヴィ……」

  何を見せても何を言っても変わらないシルヴィの思考。
  これは本当に何をしても無駄にしか思えない。

  (幸いあまり人が少ないとはいってもここはお店の中だわ。いい加減迷惑でしかない。もうここを離れよう)

  ずるい、ずるい、ずるい!!
  そう喚くシルヴィを横目に私は旦那様に言う。

「旦那様……そろそろ一旦ここを離れた方がいいかと思うのですが」
「……」

  旦那様も頷く。
  申し訳なさそうな顔をしているのは騒ぎが大きくなってしまったからかもしれない。

  (私もそこは反省しないといけないわ)

  でも、店に入っていないで外で話をしていたら……シルヴィとカイン様の思い通りになっていたかもしれない。そう思うとゾッとする。

  (……嫌よ!  私に触れていいのは旦那様だけよ!)

「…………様なんて」

  すると、シルヴィの声の雰囲気が変わった。

「お姉様なんて、消えちゃえ!  消えちゃえばいい、そうすればー……」
「シル……!?」

  そう言って私に向かって殴りかかろうとするシルヴィ。
  まさかの実力行使!
  だけど……

「──っ!」
「痛っ……な、なんでお姉様なんかを庇うの!」

  咄嗟に旦那様が私を庇う。
  そして、シルヴィを鋭く睨むと大きく息を吸い込んだ。

  (え?  ……旦那様?)

「…………い」

  (あれ……?)

  無口な、いえ、これまでどんな時もナデナデしかして来なかった旦那様が口を開きかけたように見えた、まさにその時、

「シルヴィ!  ミルフィ!」
「ちょっと!?  いったいこれは何の騒ぎなの!?」

  (……えっ!?)

  そんな掛け声と共に店に人が飛び込んで来た。

「……お父様、お母様!?」

  それは──私の……子爵家の両親だった。

  (どうしてここに二人が!?)

  飛び込んで来たお父様とお母様の顔色は悪い。
  二人は偶然ここに来た訳では無く、この事態を知って駆け付けてきた。まさにそんな様子だった。

  (つまり、誰かが両親ふたりをここに呼んだ?)

  両親二人の姿を見たシルヴィの目がパアッと輝く。
  その表情は“やったわ!  私の味方が来てくれたわ”と言っているようだった。

  案の定、シルヴィはお父様とお母様の元に涙を浮かべながら駆け寄っていく。

「お父様、お母様!  ……酷いの……助けて?  お姉様が、お姉様が私に意地悪するのよ。私が、たくさんたくさん“お願い”してるのに、全然言う事を聞いてくれないの……」

  シルヴィは更に続ける。

「それどころかお義兄様まで誘惑して無理やり言う事を聞かせてるみたいなの……最低でしょう?」

  両親二人の元へと駆け寄っていく時に一瞬見えたシルヴィの口元はニヤリと笑っているように見えた。

しおりを挟む
感想 382

あなたにおすすめの小説

【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです

果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。 幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。 ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。 月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。 パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。 これでは、結婚した後は別居かしら。 お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。 だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。

一年後に離婚すると言われてから三年が経ちましたが、まだその気配はありません。

木山楽斗
恋愛
「君とは一年後に離婚するつもりだ」 結婚して早々、私は夫であるマグナスからそんなことを告げられた。 彼曰く、これは親に言われて仕方なくした結婚であり、義理を果たした後は自由な独り身に戻りたいらしい。 身勝手な要求ではあったが、その気持ちが理解できない訳ではなかった。私もまた、親に言われて結婚したからだ。 こうして私は、一年間の期限付きで夫婦生活を送ることになった。 マグナスは紳士的な人物であり、最初に言ってきた要求以外は良き夫であった。故に私は、それなりに楽しい生活を送ることができた。 「もう少し様子を見たいと思っている。流石に一年では両親も納得しそうにない」 一年が経った後、マグナスはそんなことを言ってきた。 それに関しては、私も納得した。彼の言う通り、流石に離婚までが早すぎると思ったからだ。 それから一年後も、マグナスは離婚の話をしなかった。まだ様子を見たいということなのだろう。 夫がいつ離婚を切り出してくるのか、そんなことを思いながら私は日々を過ごしている。今の所、その気配はまったくないのだが。

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

愛されないはずの契約花嫁は、なぜか今宵も溺愛されています!

香取鞠里
恋愛
マリアは子爵家の長女。 ある日、父親から 「すまないが、二人のどちらかにウインド公爵家に嫁いでもらう必要がある」 と告げられる。 伯爵家でありながら家は貧しく、父親が事業に失敗してしまった。 その借金返済をウインド公爵家に伯爵家の借金返済を肩代わりしてもらったことから、 伯爵家の姉妹のうちどちらかを公爵家の一人息子、ライアンの嫁にほしいと要求されたのだそうだ。 親に溺愛されるワガママな妹、デイジーが心底嫌がったことから、姉のマリアは必然的に自分が嫁ぐことに決まってしまう。 ライアンは、冷酷と噂されている。 さらには、借金返済の肩代わりをしてもらったことから決まった契約結婚だ。 決して愛されることはないと思っていたのに、なぜか溺愛されて──!? そして、ライアンのマリアへの待遇が羨ましくなった妹のデイジーがライアンに突如アプローチをはじめて──!?

【完結】契約結婚。醜いと婚約破棄された私と仕事中毒上司の幸せな結婚生活。

千紫万紅
恋愛
魔塔で働く平民のブランシェは、婚約者である男爵家嫡男のエクトルに。 「醜くボロボロになってしまった君を、私はもう愛せない。だからブランシェ、さよならだ」 そう告げられて婚約破棄された。 親が決めた相手だったけれど、ブランシェはエクトルが好きだった。 エクトルもブランシェを好きだと言っていた。 でもブランシェの父親が事業に失敗し、持参金の用意すら出来なくなって。 別れまいと必死になって働くブランシェと、婚約を破棄したエクトル。 そしてエクトルには新しい貴族令嬢の婚約者が出来て。 ブランシェにも父親が新しい結婚相手を見つけてきた。 だけどそれはブランシェにとって到底納得のいかないもの。 そんなブランシェに契約結婚しないかと、職場の上司アレクセイが持ちかけてきて……

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

愛する旦那様が妻(わたし)の嫁ぎ先を探しています。でも、離縁なんてしてあげません。

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
【清い関係のまま結婚して十年……彼は私を別の男へと引き渡す】 幼い頃、大国の国王へ献上品として連れて来られリゼット。だが余りに幼く扱いに困った国王は末の弟のクロヴィスに下賜した。その為、王弟クロヴィスと結婚をする事になったリゼット。歳の差が9歳とあり、旦那のクロヴィスとは夫婦と言うよりは歳の離れた仲の良い兄妹の様に過ごして来た。 そんな中、結婚から10年が経ちリゼットが15歳という結婚適齢期に差し掛かると、クロヴィスはリゼットの嫁ぎ先を探し始めた。すると社交界は、その噂で持ちきりとなり必然的にリゼットの耳にも入る事となった。噂を聞いたリゼットはショックを受ける。 クロヴィスはリゼットの幸せの為だと話すが、リゼットは大好きなクロヴィスと離れたくなくて……。

処理中です...