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28. こんなの信じない! (シルヴィ(妹)視点)
しおりを挟む──こんなのは嘘、夢!
そうよ、夢に違いない。今、私は夢を見ているんだわ!
こんなのただの悪夢よ。
(お願い! 夢なら早く覚めて!)
私は、目の前で顔を真っ赤にして見つめ合いそして抱きしめ合う、お姉様とそんなお姉様に騙されているとしか思えないお義兄様の姿を見てそう思った。
(誰なのこの人……本当にあのアドルフォ様なの?)
無口で社交界でもその声を聞いた事のある人はほとんど居らず、冷酷無慈悲という噂のあったロイター侯爵家の嫡男、アドルフォ様はさっきそんな噂が嘘のようにお母様と私に向かって言葉を発していた。
(私が性悪ですって!?)
何だ~喋れるんじゃない! そう思った私に向かってお義兄様が発した言葉はまさかの性悪!
どういう事なの!?
しかも、話しても無駄って何?
てっきり私が可愛すぎてうまく会話出来ない。そう意味だと思ったのに……
───勘違いするな! 醜く歪んだ性格のお前のどこが可愛いと言うんだ? 俺はそんな事を一度だって思った事は無い!
更には、
───俺が照れて話せなくなるのは可愛い愛する女性を前にした時だけだ!
とか言い出してお姉様とイチャイチャし始めた。
しかも、お姉様の前では全然まともに喋れていない。
まさか、これが照れているとでも言うつもり?
(何なの? 何なのよこれは!!)
有り得ない。何でお姉様?
……愛してるのはお姉様だけ?
「嘘、嘘、こんなの嘘よーーーー!!」
あまりの悔しさに私はそう叫んでいた。
すると、お姉様と抱き合っていたお義兄様が私の方へと視線を向ける。とても鋭く氷のようだった。
(何で? どうしてそんな顔……)
お義兄様の先程までお姉様に向けていた真っ赤な照れた顔はどこへ行ってしまったの?
(おかしい、こんなのは絶対におかしいのに)
お母様!
いつだって、私を可愛い、自分に似て美人に育って嬉しいわと可愛がってくれているお母様! 助けて?
そう思ってお母様に助けを求めようとしたけれど、
「……そんな、そんな……私が毒母……」
うずくまって何かをブツブツ呟いていて私を見てくれない。
それならば、お父様!
お母様ほどではないけれど、お父様だって私に甘い。
可愛いを武器にたくさんお願い事をしたら、いつも叶えてくれるお父様!
だから、今も助けてくれるはー……
「……あぁぁ、終わった……」
と、呆然とした顔で呟いている。その顔は真っ青だった。
───お父様まで!! しかも、“終わった”って何!?
(どうして誰も助けてくれないの!?)
そうだわ! カイン様!
私がお義兄様と結ばれた後のお姉様が可哀想だから、探し出して連れて来たお姉様の元婚約者。
お姉様、好きだった人に再会出来て喜ぶと思ったのに、好きじゃないとか言い出した。
せっかく連れて来てあげたのに!
カイン様はお姉様との婚約解消の後、“浮気男”と呼ばれていたみたいで、しかも次の婚約者になるはずだった私を“借金があるから”なんて、理由で逃げだした事から社交界では随分と冷遇されていたそう。
(だから、婚約者が出来ない……って、嘆いていたからちょうど良かったのに!)
そんなカイン様は、部屋の隅でやっぱり呆然とした顔で私達を見ているだけだった。
(何なの? あれではただの役立たずだわ!)
お義兄様と張り合ってお姉様を奪ってくれればいいのに、何やってるのかしら!
(あぁ、使えない男!)
────
「何が嘘なんだ」
お義兄様が氷のように冷たい声で私に言う。お姉様の前では顔を真っ赤にして口ごもってたのに私には氷の対応……酷いわ!
嘘よね? きっと、演技よ。だから、ぜーーーんぶ、嘘に決まってる!
(そうでしょう?)
「もちろんお姉様の事を愛してるという事よ」
「嘘ではない! 俺は、か、可愛い、可愛い……可愛いくてしょうがないミルフィを昔から好きだった」
「え?」
お姉様が抱かれながら驚きの声を発して目を丸くしている。
(はぁ? お姉様の事が好きだったですって!?)
もう、これ以上の冗談はやめて欲しいわ。
「あ、アド……だ、旦那、様!?」
お姉様が顔を真っ赤にしてアタフタし始めた。
馬鹿なお姉様。冗談を真に受けたりなんかして。
勘違いして恥ずかしい思いをすればいい──……
「そ、そ、そ、そうだ! お、俺はず、ずっと、ミ、ミルフィを見ていた……」
「ずっと? だ、旦那様……!」
──と、思ったのに何故か顔を真っ赤にした二人が見つめ合って、またもや二人の世界に入り始めた。
しかも、お義兄様はお姉様に話しかける時だけ別人のように挙動不審。
「す、す、すまない……そ、その、俺が言葉にしなかったせいで、多く、の、ご、誤解を……」
「……いいのです、そ、そのとても嬉しい……ですから……」
「う、嬉し、い? そう思ってく、くく、れる、のか?」
「勿論です!」
お姉様が見た事もない嬉しそうな笑顔で微笑んだ。お義兄様も微笑む。
そして、微笑み合った二人の顔がそっと近付いて───……
───いーやぁぁぁあぁぁぁ!
私は声にならない悲鳴を上げる。
(何で? 何でお姉様なの? 私じゃないの!?)
───何でも思い通りになるとは思わないで
前にお姉様に言われた言葉が不意に頭の中に浮かんだ。
(今まで思い通りならなかった事なんて無かったのに!!)
どうして? どうしてこの美貌の男性は私を見ないの? 私のものにならないの?
見た目だって私の方がお似合いだって誰もが思うはずなのに。
────何で? どうして?
「……ん、旦那、様」
「ミルフィ……」
「あ……」
「愛し、てるよ、ミ、ミルフィ……」
そう言って何度も私の前で……私の存在やお父様達の事も忘れたかのように二人は熱いキスを何度も交わす。
私はその光景を呆然と見つめる事になった。
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