【完結】私の好きな人には、忘れられない人がいる。

Rohdea

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番外編

ルカス①

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※ルカス視点です。
想定より長くなってしまった(全四話)ので、二話ずつまとめて更新します。



✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼




  俺は、ルカス・スチュアート。
  スチュアート公爵家の息子で、そこそこ権力のある家の次男坊。
  そんな恵まれた環境にいた自分の悩み。
  それは、幼少期から決められていた婚約者……ユーフェミアの存在だった。



「ルカス、聞いて!」
「…………今日は何だ。ユーフェミア」
「お茶会で皆が私の事をバカにしたの……」
「は?」

  そりゃそうだろうよ、と、ついつい喉からでかけた言葉を俺はどうにか必死に飲み込んだ。

「可愛いだけのお人形さんみたいって言われたの!  最初は可愛いって褒められたって思って喜んだんだけど、これ違うよね?  私バカにされたわよね?」
「……」

  バカにされたと気付いた事に俺は純粋に驚いた。
  ユーフェミアの事だから、「私は可愛い」その部分だけ都合よく切り取って解釈すると思ったんだけどな。

「それでね?  みーんな、そんな私はルカスに相応しくないって言うのよ!  失礼しちゃう!」
「……」

  周りが俺達をどう思ってるかはよく知らないが、少なくとも俺が望んでるのはお前のような女じゃない……
  そう言いたいが言えないのが辛かった。

  幼少期から結ばれたこの婚約で、俺はユーフェミアの家、オリエント侯爵家に婿に入り跡を継ぐと決められている。
  別にそのこと自体に不満は無い。
  だが、その伴侶となるべき女性が……ユーフェミアこれなのかと。
  侯爵が俺との婚約をかなり強引に推し進めた理由が今なら分かる。


  ユーフェミアは、良くも悪くも純粋で、かつ人に甘え頼りきって生きている。
  それが悪いとは言わない。
  だが、俺は一緒に人生を歩んでいく女性とは同じ目線で肩を並べられる人を望んでた。
  まぁ、そんな女性がいるかどうかも分からないが。


  ……しかし皮肉にも婚約者となったユーフェミアは、真逆と言ってもいい女性だった。


  そんなある日、友人からの噂でとある男爵家の令嬢の事を耳にした。

  ルドゥーブル男爵家の令嬢、マリエール。
  どうも彼女は勉学に熱心らしい。
  女性の身でそこまでしなくても……と言われる言葉を気にする様子も無く彼女は勉強に励んでいるらしい。

  ──珍しいな。

  純粋に興味を持った。
  まだまだこの国……特に貴族の場合は、女性は結婚して家に入り夫に従うものという考えが根強いからだ。

「どうせ、勉強ばっかりしてて見た目も中身も可愛げのない女性なんだぜ!」

  ルドゥーブル男爵令嬢の話を教えてくれた友人はそんな酷い事を言っていたが、そんな事よりも俺は彼女のその姿勢に興味を抱いた。会ってみたいな、と思った。

  そして、その機会は意外と早く訪れた。

  たまたま参加していた夜会に、ルドゥーブル男爵令嬢が来ていると言う。
  彼女は普段あまり積極的に夜会には参加しないらしいので、これは奇跡に近かった。

「あの女性達の輪の中にいるストロベリーブロンドの髪色の女性がルドゥーブル男爵令嬢だ」
「ストロベリーブロンド?」

  そう教えてくれた友人に言われた令嬢達が輪になっている方へ目を向ける。

  ──すぐに彼女だと分かった。
  ユーフェミア婚約者と同じはずのストロベリーブロンドの髪色は、キラキラ輝いていて何故か目を奪われた。

「……」


  俺の足は自然とその輪に近付いていて、気付いたら彼女達の話に聞き耳をたてていた。


「……でね、最近私の肌が乾燥気味で……」
「私もなのよ。季節の変わり目って嫌よね」

  令嬢達はどうやら、美容に関する話をしているらしい。

「ーーそれなら、3大保湿成分の入った物の中でそれぞれの悩みにあったものを選ぶといいんじゃない?」
「保湿成分?」 
「そう、例えばロクサーヌの悩みのー……」

  ルドゥーブル男爵令嬢はそう言って、テキパキと説明をしていく。
  俺にしてみればとても解りやすい説明だったのだが、聞いている令嬢達は受け取り方が違うらしい。
  丁寧なその説明も細すぎたのか若干引いている。
  彼女達の欲しい情報は、きっとそこではないのだろう。
  ルドゥーブル男爵令嬢自身は、自分の知識をひけらかしているつもりはなさそうだが、周りの令嬢達はそうは思っていなさそうなのが気になった。

  (何だか色んな意味で気になる令嬢だな……)




  そんなルドゥーブル男爵令嬢、マリエールとの(一方的な)出会いを果たした後、あちこちで彼女の評判を更に耳にするようになった。
  もちろん才女として。




「ルカス!  ねぇ、私の話ちゃんと聞いてくれてる?」
「……ん?  あぁ……」
「最近、変じゃない?」
「いや……別に……」

  延々と続く、何が言いたいのかさっぱり分からないユーフェミアの話が退屈で、考え事に没頭していた。
  考えていたのは……ルドゥーブル男爵令嬢、マリエールの事だった。

  (同じような髪色してるのにな)

  彼女とだったら有意義な時間を過ごせる気がするのに。
  気付くとそんな最低な事を考えている自分がいた。

  ……そういえば。
  何であの時、ルドゥーブル男爵令嬢の髪がキラキラ輝いているように見えたんだろうか?

  俺は首を捻った。
  だけど、答えは出なかった。



  ────この時は、まだ自覚が無かったが、
  俺はもうその頃から無意識の内にマリエールに惹かれていたのだと思う。
  俺が望んでた女性なのだと本能的に感じてた。
  だけど、俺はその心を封印しなくてはいけなかった。


  俺の婚約者はユーフェミアだから。


  だけど、彼女をルドゥーブル男爵令嬢の事が知りたい。
  話がしてみたい。

  この気持ちをこれ以上大きくするわけにはいかないのに、封印しなくてはいけないのに。
  俺の気持ちはどんどん、彼女に向かってくばかりだった。


****


  ルドゥーブル男爵令嬢とは滅多に会えない。
  俺は気付くと夜会やパーティーに参加する度、彼女が現れないかずっと気にしていた。
  大抵、空振りに終わるのだが。

  たまに見かけた時、楽しそうに笑ってる姿を見ると心が和んだ。
  誰かと真剣に何かを語ってる時は、俺が代わりに話をしたかった。

  そうして、俺の心の中でマリエールの存在はどんどん大きくなっていく。
  もう自分でも誤魔化せないほどに。

  そして、そんな俺の変化にユーフェミアはいち早く気付いていたんだろう。
  気付くと、俺にベッタリ纏わりついていたユーフェミアがあまり俺に関わらなくなっていた。



  ──そして、あの日の婚約破棄騒動が起こった。



「ルカス!  ごめんなさい……私との婚約を破棄して下さい!」
「……は?」

  突如夜会の会場でユーフェミアがそんな事を言い出した。
  傍らには男性が寄り添っている。
  この男は確か……オリエント侯爵家の……?


「私、好きな人が出来てしまったの」
「ちょっと待って、ユーフェミア……君はいったい何を言ってる?」

  本当に意味が分からなかった。
  いや、意味は分かる。
  だが、なぜこの場でそんな事を言い出したんだ!?
  ショックよりも何よりも呆れの感情が強かった。

「本当にごめんなさい」

  そう言って泣き崩れるユーフェミア。
  俺はしばらく呆然としていた。

  そこでハッと思い出す。
  今日、この会場にはルドゥーブル男爵令嬢が居たはずだ。

  ……俺のこんな様子を彼女に見られてるのでは……?

  その事に少なからず傷付いた。
  きっと彼女の中で俺は“婚約者に浮気されて捨てられた男”となるのだろう。
  情けなさすぎる。

  ユーフェミアとの関係がどうなろうと全く傷つかないのに、ルドゥーブル男爵令嬢にそんな風に見られてしまう事の方が俺には酷く辛かった。


  そして、その後の話し合いで俺とユーフェミアの婚約は解消になった。
  俺としてはスッキリとした晴れ晴れとした気持ちだった。

  そして、同時にほんのり淡い期待を抱いてしまった。

  俺の婚姻は自由になった。
  ユーフェミアとの婚約は向こうが必死に望んできたもので、公爵家として政略結婚を必要としていたわけではない。
  スチュアート公爵家の跡継ぎではない俺は、今回の件で今後は所領の一つを賜わる話も出ている。
 
  ならば。

  ……ルドゥーブル男爵令嬢を望んでも許されるのでは無いか、と。
  公爵家に男爵家の彼女を迎えようとすると反発も大きいかもしれないが、俺が賜るのは伯爵家。
  もし、彼女に婚約者がいないのなら、俺が名乗りを挙げてもいいのでは、と。



  だけど、そんな俺の密かな淡い期待は粉々に打ち砕かれた。



  ルドゥーブル男爵家の没落によって、マリエールが平民になってしまった事で、
  俺のささやかな望みは永遠に叶わなくなったから。

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