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番外編

ルカス②

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  ユーフェミアとの婚約解消でオリエント侯爵家の跡を継ぐ必要の無くなった俺は、シュテルン王立学校を受験したいと申し出た。

  入学試験を突破し、卒業すればエリートコース間違い無しの学校だ。
  両親は反対しなかった。

  そして入学試験を受けて俺はもちろん合格した。
  だけど、首位の成績で合格した者が務めるという新入生挨拶の打診が来なかった。

  ──俺より優秀なヤツがいたのか……?

  それはそれで面白い。期待出来そうだ。

  そんな気持ちで迎えた入学式。
  新入生の挨拶をするを見て俺の心は震えた。


  ────ルドゥーブル男爵令嬢じゃないか!


  間違いない。
  ルドゥーブル男爵令嬢、マリエールだ。

  彼女も試験を受けていたのか……!
  そして、首位の成績で合格したのは彼女だったのか!

  また、彼女に会えた事。
  そして、俺を負かすほど優秀な彼女に俺は、あれから全然忘れられてなかった恋心を更に募らせた。

  入学後、本当はすぐにマリエールの元に行きたかった。
  どうにかして彼女に俺を見て欲しい。
  だが……嫌がられたら?  そんな臆病風に吹かれていた。


  逸る気持ちをどうにか抑えながら、ようやく決心のついた俺は彼女の元へ向かった。




****




「ルカス!  今度は私の勝ちよ!」

  この結果が嬉しかったのか、誇らしげにそう口にするマリエールが可愛いくて可愛いくて仕方ない。

  (何なんだよ……可愛いすぎるだろ!)

  淡い淡い恋心だった俺のマリエールへの想いは、彼女と仲良くなり一緒に過ごすにつれて、もう歯止めが利かないくらい大きくなっていた。


  だから、俺は一つの決意を抱いていた。


  ──俺は、首席卒業を目指す!
  そして、首席卒業者だけが叶えてもらえるたった一つの願いにマリエールを望む。


  もともと俺は首席卒業に興味はなかった。
  どうせなら1番で卒業したいという思いはあっても、何でも叶えてもらえるという願い事には興味が無かった。
  どうしても叶えたい願いなど無かったし、大抵の事なら自分でどうにか出来るから。

  だけど、たった一つ。
  マリエール。彼女を手に入れる事だけはどう足掻いても自分の力ではどうにもならなかった。

  貴族の俺と平民の彼女が結ばれるには……この願い事に賭けるしか無かった。

  俺の婚姻に自由を貰い、マリエールを口説く。
  そして、絶対に彼女を俺の妻にする!

  だが、マリエールも真剣に首席卒業を狙っている。
  余程、叶えたい願いがあるのだろうか?


  だけど、ごめんな。マリエール。
  俺はこれだけは譲れないんだ。




****



  マリエールの久しぶりのドレス姿を見た俺は言葉を失った。

  ……可愛い。ヤバイ……抱き締めたい……

  このドレスはマリエールの為に用意した。
  公爵家の伝手を使えば、マリエールのサイズの情報を手に入れるのは簡単だった。

  ……権力の使い方を完全に間違えてる自覚はある。

  パーティーに招待されたマリエールは「ドレスが無い」そんな理由で断ろうとしていた。
  制服の参加でと教師が言ってくれたから、どうにか参加する事にしたようだけど、俺は隙あらばマリエールにドレスを着せて一緒に踊りたかった。
  ……ずっと夢見てたんだ……マリエールと踊るのを。

  そして、かなり不本意な形ではあったが、マリエールはドレスに着替える事になった。
  しかしあの令嬢達……どうしてくれようか?
  マリエールに絡んでたのはあの日、マリエールと一緒にいる所を見かけた令嬢達だった。

  (やっぱり、マリエールを妬んでいたんだな……)


  マリエールが今日の事に傷付いていなければいいんだが。
  俺はそう願わずにはいられなかった。





「坊っちゃま!  お嬢様に見惚れるのは構いませんがこういう時は気の利いた一言が必要ですよ!」
「……なっ!」

  メリッサめ!  マリエールの前でなんて事を言うんだ!!
  そりゃ、見惚れてたけど!!

  そんなこんなで、どうにか「似合ってる」と言葉にする事も出来て、ダンスにも誘えて俺は至福の時間を過ごしていたのに。

  全てがぶち壊された。


  ──ユーフェミアが現れた事で。
  




****




「どういうつもりだ。ユーフェミア」
「嫌だわ、ルカス。何でそんな怖い顔してるの?」
「……」

  コイツは本当に俺が怒っている理由を分かっていないのだろうか?

  (俺としては有難かったけど)あの身勝手な婚約破棄発言でどれだけ周囲に迷惑をかけたのか理解していないのか?
  侯爵も甘すぎる!  何で王都に来るのを許したんだ!
  ユーフェミアはきっと理解などしていない。
  だからこそ今になって平気な顔で俺の前に顔を出し、大勢の前であんな事を言えるのだ。

「ユーフェミア。俺と君の婚約はとっくに解消になっている」
「元に戻せばいいのよ?  私はやっぱり、ルカスがいいんだもの」
「勝手な事を言うな。それは今後、どんな事が起きても有り得ない」
「……何で?」

  ユーフェミアは本当に理解出来ていないのかコテンと首を傾げる。

「……あ!  やっぱり、一度私のせいで解消しちゃってるからルカスがどれだけ望んでも皆に反対されちゃうからなのね?」
「は?」
「だって、侯爵家の後継ぎになれるんだから、今も変わらず私との結婚を望んでくれてるわよね?」
「望んでない!  俺はもうお前と婚約も結婚もする気は無い!!  侯爵家の跡継ぎ事情も俺には関係無い!!」

  何で伝わらないんだ?  何で俺がユーフェミアを望んだ事になってるんだ?

「えー?  やだ、ルカスったら……無理しちゃって。分かったわ、ルカス!  私が絶対にどうにかしてみせる!  お父様達も説得するわ、だから待ってて!!」
「は?  おい!  待て!  ユーフェミア!?」

  そう言い残してユーフェミアは行ってしまった。
  ダメだ。完全に自分の都合の良い方向に解釈している……!  


  俺はその場で頭を抱えるしかなかった。


  ……そして、まさかこの時は思いもしなかったんだ。
  ユーフェミアがマリエールに接触をはかるなんて。
  そして、身勝手な思い込みと勘違いで俺に勝ちを譲るように脅してたなんて。


  俺は情けない事に何一つ知らず、気付きもしなかった。

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