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番外編
ルカス④
しおりを挟むマリエールは一応逃げはしなかった。
と、言うより俺が言った事を理解していなかったかもしれない。
俺に引き寄せられてからのマリエールは目を白黒させて放心状態だったから。
──マリエールを将来の伴侶として望んでる。とまでこの場で口走ったのは早まったかもしれないな……
だが、ハッキリ言わなくてはきっと伝わらない。
婚姻の自由なんて言い方したけど、誰でもいいんじゃない。余計なのが近寄って来ても困るからな。俺はマリエールがいいんだ。
俺が欲しいのはマリエールだけだから。
****
「突然ですみません」
あの卒業式の日から寝込んでしまったマリエールが回復したと連絡を貰った。
事の次第を説明するため、マリエールの両親に訪問の許可を得て本日こうして訪ねて来た。
「いや、こちらこそこんな我が家に公爵家の子息である君を招いて申し訳ない」
マリエールの父親……元、ルドゥーブル男爵はそう言って俺に頭を下げた。
「か、顔を上げてください! そんなつもりで来訪した訳では無いので……!」
「そうだね……卒業式の日の、君の“願い”に関する話……だろう?」
「はい」
俺はしっかりと目を見つめて答えた。
ここで印象を悪くしたら、マリエールに求婚すら出来ないかもしれない。
「本当に……」
「?」
「君は本当に、うちのマリエールを望んでいるのかい?」
「心から望んでます!」
マリエールの父親が心配する気持ちは当然だ。
俺と縁付かせるという事はもう一度、あの貴族の世界へマリエールを引き戻す事になるのだから。
「君とマリエールが学校で日々、成績を競い合っていたのは聞いてたよ」
「そう、なんですか?」
「マリエールが楽しそうに、時には悔しそうに君の事を話してくれていたからね」
「……」
マリエールが俺の事をそんな風に……思わず頬が緩みそうになった。
「だが、君にとっては平民であるマリエールがただ物珍しかった……そんな事は無いかい?」
「!?」
「貴族社会で生きてきた君にとって、元貴族令嬢で平民になったマリエールという存在は珍しいかもしれないけどね? そんな理由ではやっぱり……」
一気に雲行きの怪しい雰囲気になってしまった!
これは、勘違いされている?
俺は気付いたら叫んでた。
「違います! 俺はマリエールが貴族令嬢だった頃から、ずっとマリエールの事が好きだったんです!!」
「……へ?」
本人にちゃんと告白するよりも前に、彼女の親に自分の想いを先に告白する事になるとは思いもしなかった。
なんでこうなった……
───……
「……好きな人の幸せを願う事は決しておかしな事では無いでしょ?」
マリエールからのその言葉に俺は暫し呆然としていた。
今なんて言った? 聞き間違いか? 単なる俺の願望か!?
「マリエールが……俺を?」
動揺している俺を気にせずマリエールは話を続ける。
「ルカスがユーフェミア様を忘れられないでいるみたいだから、二人の幸せの為にルカスの願いを叶えてってお願いしたのに……」
「は?」
「何であんなおかしな事を言い出しちゃったの? あんな事言わなくても私はルカスを手伝うよ?」
「いやいやいや、待て待て待て!!」
何だそれ! 手伝う? 何を手伝う気でいるんだ?
しかも、俺がユーフェミアの事を忘れられない……だと!? 冗談じゃない!
ユーフェミアは……別の意味で忘れられない存在である事は否定しないが、このマリエールの言い方は明らかに恋心的な意味に聞こえる。
「どうして、俺がユーフェミアを忘れられないって話になってる?」
「そうでしょ? ルカスはユーフェミア様と婚約解消してから誰とも婚約してないし、何よりあの日の顔が……」
「あの日の顔?」
「ユーフェミア様に婚約破棄を申し入れられてた時だよ。ルカス……すごく傷付いた顔してた。私、あの場に居たんだから」
「いや、あれは傷付いたというより呆れ……」
そうだよ。あの時の俺はユーフェミアに呆れてたんだよ。
傷付いてたわけじゃない。
もし、俺の傷付いた顔を見たというのなら……それはアレだよ、マリエール。
マリエールにあの醜聞を見られた事に気付いて落ち込んだ時の事だから、それ。
「その後も私の髪を見てユーフェミア様を思い出して切なそうな顔をしたじゃない!」
「……はぁ!?」
何だその勘違い!
俺はいつだってマリエールの髪に見惚れてただけだっ!!
「だから私は……」
あぁぁぁ、もう! 堪らず俺は叫んだ。
「全部、違ーーーーう! 俺が好きなのはお前だ!! マリエール!」
俺はずっとずっとマリエール、お前の事が好きで忘れられなかったんだぞ!!
その後、俺の長年の想いを聞いて目を白黒しているマリエールにちょっと強引に迫った事は後悔はしていない。
だって、諦めかけてたずっと好きだった人と同じ気持ちだったと知って止められるわけないじゃないか。
そして、その後……初めて触れ合ったマリエールとのキスは幸せな味がした。
✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼
あと1話あります。
後日談を書きました。本編後の2人の話です。
その後の2人が気になる方は、もう少しだけお付き合いいただけると嬉しいです。
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